第63話 ■「新顔(ニューフェイス)2」
訓練場に到着する。
連絡していたので、バインズ先生は事前に模擬戦に使用できる一通りの武器を準備してくれていた。
魔法の刃を作る刻印が無い、いわゆる「刃を落とした」という奴だ。
ま、あくまでも切れないだけで当たればそれなりに痛いんだけどね。
「で、エル、その二人が今日の対戦相手か?」
僕についてきていた二人を見て、バインズ先生は尋ねてくる。
「はい、そうd……」
「あ! あの! もしやあなたは、元中央騎士団第三軍団長、
バインズ・アルク・ルード様でしょうか!」
僕の答えを遮るように、前のめりでレディアンドがバインズ先生に尋ねる。
「あ……ああ、そうだが」
その熱量に少し驚いたのか、珍しくバインズ先生はどもりながら答える。
「ご高名な『疾風のバインズ』にお会いできて光栄です!
俺、いえ、私はレディアンド・バークスと言います!
子供の頃からルード様のようになりたいと思っていました」
おっと、これは驚き。
元軍団長だというのは知っていたけれど、ここまで有名だったとは。
しかし、『疾風のバインズ』か……すげぇ二つ名があるなんて厨二心をくすぐってくる!
目をキラキラさせながらバインズ先生を見ているレディアンドに、なぜかリスティが嬉しそうに頷く。
そう言えばこの子、パパ大好きっ子だった。
この世界は、基本的に職業選択の自由みたいなものは無い。
農家に生まれればほとんどの子供が農民となる。商人といった職業もほぼ同じだ。
当たり前だけれど貴族は貴族の子しか原則なれない。
特例として男爵位であれば平民でもなることができる可能性はある。
ベルやリスティ、アインツ兄妹がそうだね。
そして平民が男爵になる最短のルートが騎士団だ。
騎士になるには学校に入学し、武術面でよい成績を残すことができれば教師または貴族による推薦で騎士見習いになることができる。
そこで最低でも三年経験を積めば騎士への道が開かれる。
もちろん能力不足で道が断たれる可能性もあるけどね。
そして騎士として多大な功績――大体は副団長や団長になること――を上げれば晴れて男爵位となる。
つまり平民にとっては騎士団の団長や副団長は憧れの的なのだ。
「ん、うんっ」
ただ、このままだと話が進まないな。と僕は一つ咳をする。
それでレディアンドは、はたと冷静になる。
「あ、すみません。シュタリア先輩。憧れの人に出会えたのでつい……」
「ま、それならばしょうがないね」
わかるよ。僕も憧れのアイドルに会ったらテンションマックスだろうし。
ただ出来れば、また改めてその熱い思いを伝えてください。
「それじゃ、対戦方法はどうがいいのかな?
二人同時で、僕は剣術と魔法両方使用可でいいかな?」
「は、はい! それで問題ないです」
これは、どっちにとっても有利不利を無くすための方法だ。
僕にとっては魔法が使えれば一対一であれば、アインツ相手でも勝つ確率は九割を超える。
この二人は僕の剣術に対してではなく魔法に対して対戦を申し込んでいる。
とした場合、一対一だと、下級生の彼らでは勝ちはほぼ絶望的だ。
これは僕の魔法が凄いから。というだけではない。
通常の魔法使いと騎士との戦いでもある程度離れた位置から始めると八割方、魔法使いの方が勝つことになる。
剣術と魔法ではそれだけの力の差が出てしまうのだ。
以前、バインズ先生とも話したけれど魔法は面制圧を得意とするものもある。(僕が得意とする魔法だ)
そんな魔法は、正直武器では防ぎようがないのだ。魔法には魔法がセオリーとなる。
だから優れた騎士や傭兵は魔法もある程度(一般市民から見ればかなり上級)使えるようになっている事が必須条件ともいえる。
(バインズ先生も普段使わないだけで、中級魔法もある程度使用できる。)
「それじゃ三人共、これを身につけろ」
バインズ先生が僕たちに指輪を渡してくる。
『女神の加護』と呼ばれる聖遺物で、『聖母の微笑み』の強化版になる。
これを着けておけば、武器や上級魔法だろうと完全にガードする。
ものすごい効果だから戦場でも使用すればいいじゃん。
と思うけれど勿論、制限がある。
限られた範囲内でしか効果が無い事だ。
この訓練場の四隅には『女神の加護』と対を成す『女神の槍』と呼ばれる塔型の聖遺物が設置されている。
その中でなければ効果が発揮されない。
『女神の槍』はかなりの大きさなので戦場に持っていくのに適していない。
持って行けたとしてもどうせ敵がその破壊をまず優先する事になるしね。
これを僕達に付けさせるという事は、バインズ先生が魔法制限を解除したという事になる。
バインズ先生も立ち会っているから問題ないという判断だろう。
僕と二人は二十mほど離れて向かい合う。
僕は、片手剣。
レディアンドは……アインツと同じく双剣か。
ブルスティアは、槍とラージシールドという、重装スタイル。
攻めのレディアンドに、守りのブルスティアといった所か?
「それでは三名による模擬戦を行う。
エルスティア対レディアンド・ブルスティアのペアの一対二の変則。
なお、エルスティアについては、魔法の使用も許可とする。
制限時間は二十分。
立会人である俺が有効打を入れたと判断した時点で勝負決定とする。
両者異存はないか?」
「はい、大丈夫です。先生」
「私たちも問題ありません」
「うむ、では試合を始める。両者、礼!」
僕たちはお互いに礼を行う。このやり取りは騎士の模擬戦に近い。
騎士にあこがれを持つレディアンドは、今頃かなりテンションが上がっているだろうな。
「それでは、始め!」
バインズ先生の宣誓をもって、観客五名のみの模擬戦は始まった。




