第5話 ■「叶えてもらおう」
「さて、まずはこの提案を受けるかどうか結論を聞かせてくれるかの?」
質問がいったん途切れたタイミングで神は僕に問いかけてくる。
まぁ、ここまで質問しておいて断るなんて思ってもないだろうけど。
「はい、この提案受けさせていただきます」
「うむ。おめでとう! お主は再び人として生を受け、生涯をかけ、成さんと欲することに邁進するがよい!」
「ありがとうございます」
まぁ、サンプルの一つ程度にしか思ってないかもしれないけど、僕としても今までと違う人生が始まると思うとわくわく感が止まらなくなっているから良いとしよう。
「おう、そうじゃ言い忘れておったが、
お主の使命については出来るだけ第三者には話さんようにな。
話したところで、気がふれた程度にしか思われんじゃろうがな」
「わかりました。出来るだけ話さないようにします」
「うむ、出来るだけ話さんようにな」
お互いにニヤリと笑いあう。
どうにもこの神は(この神だけじゃないかもしれないが)言葉の端々に本質をしのばせるのが好きなようだ。
「さて、それでは転生を行う前に2つギフトをやらんとな。
お主には非常に期待しておるから、何を望むか楽しみにしておるぞ」
「ギフトについてですが将来分を前借するってのは出来ないのですか?」
「ふむ、基本的には認められておらんの。
ただ、内容によっては考えないこともない。
追加で何を望むつもりじゃ?」
「それでは、お願いしたいのは追加で1つ、計3つとなります」
「つまりは、5歳になった際のギフトを前借したいという事じゃな」
「はい、そうなります」
「ふむ、では内容を聞こうかの」
「まず一つ目のお願いは、『統率に優れた才能を持つ仲間』を兵、民問わず多くの者を率いれば率いるほどそれらの力を増加することができるカリスマ性を持つ人材が欲しいです」
そう、僕が目指すのは個より群による滅亡への抵抗。
僕一人の力だと多方面での対応が必要になった場合、土台無理だ。
平和な時代の一サラリーマンだった僕に多くの人を統率するなんて正直想像もつかない。
であれば、人を効率よく動かす事ができる人材こそ僕が求めるものになる。
自分自身はその人からノウハウを吸収すればいいのだから。
「二つ目のお願いは、『政に長けた仲間』を転生先世界の政治や経済については僕は正直、疎いです。
貴族社会なのであれば権謀術策に対抗できる人材が欲しいです」
某歴史シミュレーションの知識になるけど、封建社会の概念からすれば、貴族同士の領有権の主張による小規模な戦争が全国各地で発生していた。
その中では、政略結婚や暗殺なんでもござれ状態だった。
正直、知識があってもそれを生かす前に暗殺されても困るから、それを未然に防ぐことのできる人材は欲しい。
「三つ目のお願いは、『技術全般に精通した仲間』を僕がどれだけ先進的な技術を伝えたところで、
それを理解し伝播することが出来なければ、宝の持ち腐れになってしまいますので」
僕は次の要望として数多の技術書をお願いするつもりだが、おそらくそれを基に僕が技術を確立させるのは現実的な話ではない、技術書はあくまでも概要や理念を記載してあるものに過ぎない。
それを理解し伝播するには多くの時間と人が必要になる。
僕の代わりにその仕事を行ってくれる人材が必要だ。
「なんじゃ? お主自身の強化は望まんのか?」
「はい、昔の言葉で『天の時、地の利、人の和』というのがあります。
天と地は転生してみないとどうにもなりませんけど、であれば人材は充実させておきたいんです。
自身の強化は、まず自分で鍛錬してみて、それでも駄目で必要になった時に考えます」
「なるほど、それがお主の出した答えというわけか……
先ほども言うたように人は願いを叶えたタイミングで生を受ける。
であれば、スタートダッシュとして前借もしたかろう。
よかろう、三つとも叶えてやろう」
「無理を聞いてもらってありがとうございます」
「なーに、かまわんて。やはりお主は期待が出来そうじゃ。
わしからもプレゼントをやろう……中身は秘密じゃがな。
さて、それでは転生を行うとするか。
次に会うのはお主が10歳になった時じゃな。
陰ながらお主が望む結果を迎えることを応援しておるぞ」
神はそう言うと、僕の顔に手の平を向ける。
あ、生命線長いなぁ。
というどうでもいい感想を持った瞬間に意識が落ちていった。