第49話 ■「とある夕食時間にて」
夏休みを半月後に控えた七月初旬。
今日も何時ものように食卓には僕とベル、バインズ先生家族三人の計五人で夕食を食べている。
我が家もようやく六人ほどメイドを追加で雇い入れて九人体制となった。
最終審査として母さんの書類審査もあったので時間はかかったけれど。
フレカをメイド長としてアーシャ・ミスティに三名ずつ下についた体制だ。
人手が増えたことで放置されていた部屋についても徐々にではあるけれど清掃が行われている。
食事については、まだコックについては準備が出来ていないので、料理を得意としているフレカさんにお願いしている。
フレカさんの食事は高級ではないけれどバルクスの味を出来るだけ再現してくれているので僕としてはとても嬉しい。
当初はバルクス特有の少し薄めの味付けにリスティやメルシーさんも驚いていたけれど、今では大分慣れたようで美味しそうに食べてくれる。
食事をする中で僕としてはどうしても皆に確認しておくことがあった。
「皆さんには正直に答えてほしいのですが………」
そう切り出すと皆が食事の手を止め、視線を向けてくる。
今から聞こうとしている事は僕の勘違い・うぬぼれの可能性がある。
何言ってんだこいつと言われる可能性がある。
それでも聞かずにはいられなかった。
「もしかしてですが、僕の魔法量って……年齢的に見たら異常なほど多すぎるんでしょうか?」
静まり返る食卓…あぁ、やっぱり僕のうぬぼれだったみたいだ。
「エル……」
「エル様……」
バインズ先生とベルが呟く。その瞳は哀れみを含んでいるように見える。
「「やっと気づいたんだな(ですね)」」
……うん、慰めてくれ……ん? あれ?
「エル、どうしてそれに気が付いた?」
「えっと、今日から本格的に魔法詠唱の授業が始まったんですけど。
ほとんどの学生が低級魔法を八回も使用したら体調を崩していたので……
『え? 僕だったら低級魔法なんて使い続けても日が変わるのに……なんなら中級魔法でも使いましょうか?まぁ中級魔法は禁止されてるけどね。』
と思いまして……」
そういう僕を見て、バインズ先生は目頭を押さえる。
「そうか……やっと自分と他の子供たちとの差が分かるようになったのか。
大人になったなエル。嬉しいぞ」
と大げさに泣き真似をする。
ちょっとバインズ先生、失礼じゃないですかねぇ。
「エル様の周りにいた同世代の子供たちってクリスや私のように
エル様に直接魔法を教えてもらった事でエル様並みとはいかなくても
魔法量の多い子に囲まれていましたから。
世間とのズレがあるのは仕方がないですから。気にしないでください」
うん、ありがとうベル。
最後の言葉がフォローになっているかどうかわからないけれど慰めてくれて。
「まぁとはいえ、これもエリザベートがお前がうぬぼれない様に
周辺環境を整えていたことが原因だから
単純にお前を責めるべきではないんだがな」
「え? 母さんが?」
「人間ってのは、人より優れていると思っちまうとつい手を抜いてしまう。
それはお前にとっては不幸だ。
だから、お前がやりたいことをやり続けれるようにしてくれたんだから感謝しておけ」
なるほど、確かに僕が魔法を使うところを多くのメイドさんが見ていたけれど今まで一度も「すごいですね」とか「そこまで出来る子はいませんよ」と言った僕をおだてる事を言う人はいなかった。
むしろそんな僕を見ながらさも当然のようにお茶を楽しんでたもんな。
……うちのメイドは神経が図太いのか?
「はい、そうですね。確かに母さんのおかげでここまで魔法を勉強し続けることが出来ましたからね」
「それにしても、エル様もですけどベルさんも実際はどれくらい魔法が使えるんですか?」
どちらかと言うとその他大勢の学生の立場に近いリスティが尋ねてくる。
「僕の場合は、もう中級魔法だと数えきれないかな……
あ、でも中級治癒魔法だと二十五回位しか使えないね。
そろそろ上級魔法を使いたいから練習場所を探しているけど、なかなか見つからないんだよね」
「えっと、私はエル様ほどではないので、中級魔法だと二十回しか使えません」
「……すみません、私とお二人で『ほど・しか』という言葉の認識の差に驚愕しています」
「大丈夫だリスティ。それが正常な判断だ」
「あれ?もしかして私もズレているんでしょうか?」
ベルさん。ようこそ、こちらの世界へ。
「ですが、お二人ともすごいですね。
……あの、先ほどベルさんはエル様に魔法を教えてもらったとのことですが……
もし、エル様が問題ないのでしたら私も教えてもらえませんでしょうか?」
「うん、もちろん問題ないよ」
「ありがとうございます」
「リスティ、先に言っておくぞ、お前は今までの常識を壊されることになるから覚悟しておけ」
「あー、そうですね。リスティさん。頑張りましょう」
「え? お父様、ベルさん。それってどういう?」
何だか僕の教え方が奇想天外みたいな言い方だな。失礼な……
ちょっと……ほんのちょっとだけ特殊なだけだよ。ホントダヨ。
急きょリスティも魔法を教えることになったけど、
彼女はギフト持ちだから今後も長い付き合いになる。
そういう意味では戦力の底上げとしては意味があるよね。
「まぁ、リスティにも教えるのはいいとしてだ。
エル、それに気づいたお前はどうしていくつもりだ?」
バインズ先生は僕に問いかける。
「そうですね……対外的には僕の魔法量は出来るだけ漏らさないほうがいいかと考えてます。
人というのは自分より優れたものに対しては尊敬するか嫌悪するかに分類されますから。
特に貴族たちは後者の感情を持つものが多いです。
であれば、それを見せないほうがいいでしょうね。
今思うとバインズ先生が中級魔法や僕が改良した魔法の使用を禁止したのは同じ理由だったんじゃないですか?」
「あぁ、正解だ」
「とすると、僕も皆と同じレベルという事にしたほうがいいと思います。
……ということは短縮詠唱とかもしないほうがよさそうですね」
とは言ったものの他の子供に合わせるとなるとかなり抑える必要があるな。
うーん、ストレスたまりそう。
何時かやらかしちゃいそうだな。(実際この後やらかす事になるけれど……)
そう思っていた僕に、バインズ先生が助け船を出してくれる。
「まぁ、学校ではそれでいいとしても
それだとエルはどこかで鬱憤が爆発しそうだな。
少し時間を貰うが心当たりがあるから、とりあえず我慢する事にしてくれ。
上級魔法もリスティの練習も出来るような場所を用意してやるから」
「本当ですか! ありがとうございます。バインズ先生!」
俄然やる気が出て来たぞ。うーんその日が楽しみだ。




