第4話 ■「まず質問してみよう」
「すみません、いくつか質問してもいいでしょうか?」
「うむ、よいぞ」
「その転生されるところはどんなところなんでしょうか?」
「お主がいた世界と比べれば、未熟と言った方がよいのぉ。
お主の世界で言えば科学技術や政治体制は中世レベルじゃ。
ただし、お主の世界には無い魔法が生活基礎となっておる。
そのせいで科学技術が育たないと言った方が良いかもしれん」
「魔法……ですか」
中世時代という事は、生活レベルはかなり下がると考えたほうがいいな。
まぁ、原始時代とかもっと下じゃなくてよかったとポジティブに考えよう。
しかも、魔法まであるとか心躍る要素もあるみたいだな。
「後は、お主にもわかりやすく表現すればエルフやドワーフに似た亜人や、ゴブリンやオーク、ドラゴンと言ったモンスターに分類される生物もおる。
まぁ、中世ファンタジーの世界と考えておけばよいじゃろう」
おっと、魔法だけでも空想世界なのに、さらに世界観がファンタジーになったぞ。
亜人だけじゃなくモンスターもいるのか。
両方とも戦争や襲撃など人類が滅びる外的要因として考えられる。
「モンスターや亜人が人類を滅ぼす理由になるんですか?」
と、直接的に聞いてみる。
「その可能性はある。じゃが、数多ある要因の一つの可能性もあるしまったく関係ない可能性もある。
原因追及の過程もモニタリング要素の一つじゃから秘密にしておこう」
ふむ、さすがにそう簡単には人類滅亡の理由は聞き出せないか。
であれば、他の事で探りを入れていくしかない。
「では、転生した僕の立場みたいなものは何になるんでしょうか?」
「平民であれば、歴史を大きく動かすには難儀するからのぉ。
ある程度の権力を持っておると考えてもらってもよい」
いまの内容はかなり重要な情報があったぞ、神は「国民」や「市民」ではなく「平民」と言った。
つまりは、階級制がある事を意味していると考えたほうがいい。
中世時代なのであれば貴族階級のような君主制、もしくは封建制の世界である可能性が高い。
確かさっき政治体制も中世レベルって言ってたしな。
しかも『ある程度』の権力という事は、皇帝や王、公爵みたいな最高位クラスの権力ではないのだろう。
良くて地方領主(伯爵クラス)や男爵・子爵くらいと思っておいた方がよさそうだ。
「回答ありがとうございます。
では次に、人類の寿命はどれくらいなのでしょうか?」
「うむ?寿命とな? ……ほぅ、確かに100年後とした場合に自分が生きておるかどうかは重要じゃな。
お主の世界の男性の平均寿命が70年ほどじゃが、平均寿命としてはそこまでは変わらん。
ただ、モンスターが跋扈しておるせいで、若くして亡くなる事が多いため、相対的に短いと考えた方が良いじゃろう。
寿命としてみた場合、長ければ二百歳くらいまで生きる者もおる。
これは魔法技術が発展しておることが理由の一つでな。
生命活性魔法のおかげで寿命自体は長いのじゃ」
とすると、百年であればまだ生きている可能性もあるという事か。
よぼよぼの爺さんが、剣を片手に敵に立ち向かっているってのもシュールな映像だけど可能性としては無くは無い。
孫よ後は頑張れ! 計画は見直しが必要だな。
「人類の滅亡は百年目ぴったりに発生するんですか?」
「お主が何もしなければ百年目に滅亡すると考えてよい。
前兆という意味ではかなり前から起きて次第に滅亡していくと考えてよい。
お主の行動次第でもっと早くに滅亡するかもしれんし、もっと早くに滅亡する歴史を回避する事も可能かもしれん。
要は、お主の行動次第という事じゃ。滅亡を回避できればその際に教えてやろう。
その後は晴れてお主の生きたいように生きても一向に構わん」
うーん、自分の行動でそこまで歴史改変出来るってどれだけの力が僕にあるのだろうか?
徐々に滅亡していくという事は、ポンペイの悲劇のような自然災害によって一夜にして……という感じではないみたいだ。
まぁ、自然災害なんて人間の手には正直余るところもあるからな。
滅亡回避には「神様の介入」ってのが鍵になるのは間違いなさそうだ。
「それでは、次の質問なのですが、
神様の介入というのはどのようなものなのでしょうか?」
「まぁ、そこが一番気になる部分じゃろうな。
まず、言語習得済みの状態で転生することになる。
読み書きヒアリングはばっちりじゃ。
とは言っても赤子からのスタートじゃから当面は喋れんがな。
そして、身体的にはベースは一般的な能力となる。
おぉ、魔法を使う素養はあるから安心せい。
やはり男子たる者、一度は魔法は使ってみたいと思うじゃろうからな」
これは、日本語以外の言語、特に英語はちんぷんかんぷんの僕としては、言語習得に苦労しないのはありがたい。
「次に『ギフト』と呼んでおるが、タイミングとしては転生前に二つ、そして三十歳までは五年毎、それ以降は十年毎に要望を一つ叶えてやる。
つまり百年換算で三十歳までは二+六個、それ以降が七個の十五個までギフトを叶えることが出来る。
もしかしたらワシらの都合によりいくつか叶えることもあるかもしれんが原則的にはそれだけと考えればよい。
叶えてやれることには大きく二つルールがある。
まずは、能力については、一つずつとなる。
例えば『不老不死になりたい。』はNGじゃ。
なぜなら『不老』と『不死』は別物じゃからな。
次に『不老』については問題ないが『不死』もダメじゃな。
ワシ等の本来の仕事は生を終えたものを輪廻に戻し、新たに転生させることじゃ。
不死は、その輪廻から外れる行為となるからの。
そもそも人類が滅亡したのに自分一人だけが生き残っても仕方あるまいて。
願うとすれば『物理耐性を上げたい』のような、死ににくくなるものであれば問題ない」
「『強靭な肉体』と『大魔法使いの才能』といった肉体や精神のような強化は可能ですか?」
「もちろん問題ないぞ」
「それは第三者の能力強化も可能ですか?」
そこで、ふと神は考え込む。なんか変なことでも聞いたのか?
「ふむ、望むのであれば問題ないが、第三者に対して適用するには生まれる前に指定することが必要になる。
つまりその要望を行った年にその才能を持った子供が産まれることになる。
急に才能に目覚めるなど本人としては違和感しかなかろう?
だから産まれ持っての才能という扱いとなる。
必ずお主と出会い、ともに歩む仲間になる運命になるから安心せい」
どうやら可能だけど、赤ん坊から開始ってことは即効性が無いってことか。
「二つ目として、物品については一定の価値までという制限がある。
一定の価値の判断はワシ次第になるがの。
物品については、一定価値までであれば複数のものを願う事が可能じゃ。
価値判断の目安としては、転生世界の技術力が基準になると考えてもらえばよい。
例えば『ビームライフルが欲しい』とお主が要望してもNGじゃ。
それはそうじゃろう? 元の世界でも完全確立していない技術は中世時代では、オーバーテクノロジー、価値などはかりようがないからの。
逆に『火縄銃が欲しい』であれば問題ない。
火縄銃は銃としては原始的な構造をしておるから中世時代でも製造することが可能じゃからの」
その説明に一つ引っ掛かりを感じ尋ねる。
「その物品は例えば『技術書』を要望することは可能なのでしょうか?
記載されている内容が未来の技術であっても書籍という観点では中世時代にも存在していますよね?」
その質問に、いままで好々爺然とした雰囲気を維持していた神が初めて表情を変える。
そう、それは、とてもとても嬉しそうに。
「うむ、問題ないぞ。書籍は中世時代の技術で問題なく作成できる。
しかも元の世界の言葉、日本語であれば、お主以外が読んでもそれは『解読不能な無価値なもの』でしかない。
人によっては、古代書としての価値を見出すかもしれんがな。
判断はワシじゃから無価値扱いじゃ」
そこまでを聞いた僕はなんとなく理解する。
おそらくこの提案は、よくある俺tueeeみたいな能力チートや武器自体を求め続けても人類滅亡を回避できないトラップが仕掛けられている。
神は嘘は一切言っていない。
だけど、言葉を額面通りに受け取ると失敗するような話なのだ。
そんな簡単な対応で世界が救えるのであればモニタリングする必要がないのだから。
ただ、それに気づかせないために先ずは、能力チートの話、しかも対象者を曖昧にして不老不死なんていう、まさに人間の夢の最たるものを例にしてきている。
物品についても、価値を神、つまり主観によりどうとでも判断できる基準にしている。
(そういう意味では、少しは御眼鏡にかなったのかな?)
人類救済のために求められているのは、一人の勇者ではなく一時的に強力な武器でもない。
とすれば、人類自体の技術力・魔法技術の向上による底上げを長期的に考えていく方が正解のような気がする。
さて、では神に何を叶えてもらうのが得策だろうか、よく考えなければ。