第39話 ■「王都への到着」
「やっと……ついたぁ」
僕は目の前に見え始めた都市を見ながらつぶやく。
エルスリードを発ってから二ヵ月ほど、やっと僕たちは王都「ガイエスブルク」に到着した。
ルーティント伯領以降は、小規模な盗賊に遭遇することもあったけれど大きな問題になることなくここまで来ることが出来た。
というかルーティント伯領は治安が悪すぎじゃないですかねぇ。
ガイエスブルクは、南北約四㎞、東西約五㎞の長大な城壁により王城、
貴族の住む館が囲まれ、その周りに広大な街が発展した巨大都市だ。
人口は百三十万人。
この都だけでバルクス領の二倍以上の人口が住んでいるという事になる。
日本で言えばさいたま市くらいかな?
王国の全ての娯楽がここにある。と言われるほどに非常に発展している。
中世時代レベルでは……なので現代の東京とかとは比べ物にならないけどね。
あの城壁の中にバルクス伯館もあるそうなので、今からそこに向かうらしい。
都市に入るとすぐさま多くの人通りで賑わう商店通りになっている。
メインとなる通りは石畳となっているため、今までの道中が嘘のように馬車に伝わる振動が減っている。
うん、お尻に優しいね。
僕もそうだけれど、ベルもこれだけの巨大商店街は初めてだろう。
商品棚に並ぶ商品に目を輝かせている。
落ち着いたら一緒に行ってみるのもいいかもね。
その商店街を抜けると住宅街が広がり、人の流れが一気に少なくなる。
まぁ、今は昼だから仕事に出ている人が殆どなんだろう。
王城に近づくにつれ町並みは段々と高級住宅街へとなっていく。
それにつれて道を歩く人たちも段々と偉そうになっていく。
この町の特徴は王城を中心として上流層、中流層、下流層の住居が広がる形なんだろうけど下流層の家並みが少ない気がする。
どういうことなんだろ?
「それにしても、町はずれから伯館までが遠いですね」
「そりゃ、王都だからな。とは言えもう城壁の門が見えて来たな。
あの門より中は許可をもらった奴しか入れない。
エルの場合、この馬車の外に装飾されたバルクス伯紋で問題ないがな」
ちなみにバルクス伯紋ってのはいわゆる家紋で、貴族であれば必ず持っている事になる。
バルクス家の紋は「ミスティアの花」と「三日月」を合わせたものになる。
ベルが封じられたピアンツ男爵は丸に十文字、薩摩島津家の家紋に似ている。
(男爵家の家紋は大体シンプルなつくりらしい)
城門の前で馬車は静かに停車する。
門の前の詰め所には四名ほどの衛士が警備している。
その内の二名の衛士が駆け寄ってきてバルクス伯紋を確認すると再度城門前の詰所に駆けていく。
基本的に衛士たちは国内の家紋をすべて覚えておく必要がある。
もし公爵家に対して「どちらの貴族ですか?」なんて質問したら本当の意味で首が飛ぶ。
だから貴族に対しては家紋で確認後は簡単な質問(御付きの馬車は何台か? といった内容)のみで通過が許される。
なので僕たちもそうだったはずなんだけど……
「バルクス伯公子、申し訳ありませんが少々こちらでお待ちいただけますでしょうか?」
と衛士が申し訳なさそうに尋ねてくる。
何か問題でもあったんだろうか?
「構いませんが、何かありましたか?」
「いえ、伯公子が来訪されたらお会いしたいという方がおりまして。
いま使いを向かわせましたのでお待ちいただければと」
うーん、誰だろう。
産まれてこのかたバルクス領以外に知り合いはいないはずなんだけどなぁ
とは言え、無視するのも後々問題になっても嫌だしな。
「なるほど、わかりました。それではここで待てばいいですかね?」
「いいえっ! このような道端にお待たせするわけにはまいりません。
城門を越えた場所に休憩場がございますのでそちらに案内します」
と衛士が先導を始める。
僕がいればいいという事でメイドトリオと警護隊の皆さんたちには先にバルクス伯館に行ってもらい、荷下ろしや生活環境の準備をしてもらうことにして僕とバインズ先生とベルだけが付いて行く。
休憩所と言うからそこまで大層な建物は期待していなかったけれど、考えてみれば城門内は、ほぼ貴族の館しかないのだから使用するのも貴族。
そこに広がるのは休憩所とは名ばかりの豪邸だった。
休憩所って言うより迎賓館じゃない?これ?
「それでは申し訳ありませんが、こちらで少々お待ちください」
衛士は丁寧に頭を下げると退室する。
長旅で疲れたことだし。と僕たちは席に座る。
おぉ、体が沈んでいく。どんだけ良いソファーだよ。
ベルはティーセットを見つけるとすぐさまお茶の準備を始める。
うん、やっぱり癖ってなかなか治らないよねぇ
まぁ、ベルが入れてくれるお茶はおいしいからのんびり待つとしますかね。




