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神様のモニタリング 第一章 ~人類滅亡回避のススメ~  作者: 片津間 友雅
バルクス辺境侯編

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208/220

第208話 ■「ただ一つの問い2」

 僕は左腕を振り下ろすと同時にウォーターダガーを展開する。


 ウォーターダガーは、投擲用ナイフをイメージして作ったウォーターアローの劣化版だ。

 威力も低く、有効射程距離も六十メートルほど。


 それでも詠唱が簡易であるため、けん制用として費用対効果は高い。

 殺傷能力が低い攻撃魔法でいえば、最適解ともいえる。


 ゆえにユスティも僕に向かってウォータダガーを放ってくる。そして僕よりも精度が高い。

 ユスティが狙ってくるのは、回避のために跳ぶのもしゃがむのも難しい太もも辺り。


 射撃魔法が得意であればこちらのウォーターダガーをぶつけて相殺させるのだろう。

 現にユスティは僕から放たれたウォーターダガーに簡単そうにぶつけて相殺させる。こればかりは天性の才能だ。


 けれどそこまで精密な射撃が出来ない僕は、左右への回避もしくは剣で叩き落しながら間を詰める。

 しかも、僕の予想以上にユスティからの射撃魔法の応酬は激しい。


 せいぜい同時に二・三本と読んでいた僕の予想を超える四・五本を同時に放ってくる。

 その回避行動ゆえに思ったよりも間を詰めるには至らない。このままではジリ貧になりかねない。


「チェーンバインド!」


 僕の詠唱とともにユスティの足元に魔方陣が浮かび上がりそこからユスティを束縛せんと鎖が出現する。

 魔法性能を知るユスティを束縛することは適わなくとも最低限回避行動は取るだろうと僕は予想していた。


 けれど、その鎖はその場から動こうとしないユスティへと向かい……何も無い空間で大きく弾かれる。


「エアシールドも展開していたっ!」


 僕は驚きの声を上げると同時に、ユスティへの違和感を感じる。

 ウォーターダガーは確かに魔力消費の意味では優秀だ。けれど少なからず魔法力は消耗していく。

 しかも僕より劣る魔法力のユスティにしては魔法発動回数が多すぎる。

 不規則なチェーンバインドの動きを防ぐため、使い捨てタイプではなく、魔力消費が激しい時間制のエアシールドを使用したはずである。


 もちろん射撃をメインとするユスティであれば、自身を固定砲台としてエアシールドで防御しつつ攻撃するというのは一つの戦闘スタイルだ。

 この程度で魔力枯渇とは行かないだろうけれど。それでも長期戦をまったく考えていないような戦い方だ。


 確かに僕の見立てでもユスティの勝機は短期決戦だろう。

 なにせ彼女の得意とする弓も矢が無くなれば無用の長物と化すのだ。


 僕は自然と防戦一方となる。けれどそれはユスティにとっては避けたい持久戦を意味する。

 それに焦ったのか、ユスティはさらに防御の穴を衝こうとウォータダガーの数を増やしていく。

 やはりそれは僕の知るユスティの戦闘スタイルからはあまりにもかけ離れている。


 戦い慣れた僕に勝つために普段の戦闘スタイルとは違う方法を取っているという可能性もあるが、僕にはユスティが何かに焦っているかのような印象を受ける。


 その一方的とも言える魔法と弓の応酬は何時までも続くかに見えた。

 けれどそれは突如として途切れる。


 魔法を放ったユスティの体がグラリと揺れる。

 そしてゆっくりと前のめりに倒れ始める。


「っ! 魔力枯渇か!」


 僕は叫ぶと同時にユスティへと駆け出す。ユスティまでの三十メートルの距離がとても長く感じる。

 その中でも僕は詠唱し自分の背中でエアウィンドを発動させる。


 その衝撃に少なからぬ痛みを感じるが、衝撃を利用して一気にユスティまでの距離を詰める。

 そしてユスティが倒れ地面にぶつかるギリギリのところで救い上げる事が出来たのであった。


 ――――


「ん……ここは……」

「お目覚めかな? お姫さま」


 魔力枯渇による失神から目を覚ましたユスティに僕は声をかける。

 裏庭に整備されたオープンテラスに設置された長いすの上に寝かされたユスティは目を覚ますと首を左右に振り状況を把握しようとする。


「……そっか、私、倒れたんだ」

「そ、魔力枯渇でバタンキュー。ほんと、焦ったよ。まったく、魔力枯渇するまで無茶してぇ」


「エル君が助けてくれたんだ。ありがと……心配かけてごめんね」

「構わないよ。うん、倒れたユスティをここまで抱いて運ぶという役得もあったしね」

「……エル君のエッチ」


 僕のおふざけにユスティは笑う。そして自身の右腕で目を覆う


「うーん、でも……そっかぁ……負けたのかぁ。くやしいなぁ~エル君にとっておきの質問がしたかったから絶対に勝ちたかったんだけどなぁ」


 そう言葉とは裏腹に明るく話すユスティ。

 けれど腕に隠れて見えない目元から頬を伝うのは汗か、それとも……


「ユスティ、今日の模擬戦は引き分けだよ」

「えっ、どうして?」


 そう語る僕の言葉にユスティは、上半身を急激に上げる。


 目が覚めたとはいえ、本調子までは程遠いから絶対安静だ。

 僕はユスティに笑いかけながら右手でユスティの後頭部を支え左手で優しく肩を押してもう一度寝かせる。


「今回の模擬戦の勝利条件は『相手に有効打を与えたら』だよ。僕にしろユスティにしろ結局、有効打は与えていないから引き分けってこと」

「ハハッ、すっごい無理やりだなぁ」


 僕の返しにユスティは苦笑いする。

 まぁ確かに他の人が判定していたらユスティの戦闘続行不能で僕の勝ちだろう。

 けれど今回は僕たちだけしかいない。であれば、僕のさじ加減でも問題ないはずだ。


「ってことで、お互いに半分勝ちだから、それぞれに相手に一つ質問できるってのはどうかな?

 『絶対に』じゃなくて『なるべく』答えるになるけれど」

「……いいの? エル君」


「うん、もちろん。あっでも僕のスリーサイズは秘密だからね」

「そんなこと聞かないよっ!」


 僕のおふざけに、ようやく何時もの調子を取り戻したユスティは突っ込むのであった。


 ――――


 私は、上半身を起こしエル君に向かい合うと大きく深呼吸を二度する。

 それによって自分が喉がカラカラになる程に緊張していることに今更ながらに気がつく。


 大丈夫、そこまで長い質問じゃない。あれほどまでに質問する内容を何度も練習したじゃないか。と自分に言い聞かせる。


 私の質問への答え、それに対して期待半分、不安半分……いや不安のほうが大きいかもしれない

 回答を聞きたい、けれど怖くて聞きたくない。そんな複雑な感情が自分の中をぐるぐる渦巻く。


 それでもゆっくりと私の口は開かれる。さぁ、一世一代の大勝負だ。


「私を……私をエル君のお嫁さんにしてもらえないかな?」


 それは質問と言う形でのエル君への告白。それをエル君は、いつもの優しい微笑みで聞いている。


 エル君へ告白する。それは私の中でどのくらい前から決めていた事だっただろうか?

 エル君への思いに気付きだしたのは十歳の頃、そして自分の思いを始めて口にしたのは十五歳の頃。いつもの女子会でのことだった。


 あれから既に五年ほど経った。その五年の中で自分の思いはより濃く、深いものになっていった。

 けれどその中で幾つかの出来事が起こる。一番大きかったのはクリスがエル君の正室となったことだろう。


 十五歳の頃の自分は、てっきりエル君の正室は親友であるベルだとばかり考えていた。

 しかし昨年、突如としてクリスという私自身初めて見たと言ってもいいほどの絶世の美女がエル君の妻として現れた。


 私は怖くなったのだ。これほどの美女の前では自分の事なぞ霞んでしまうだろう。と……

 そして安心したのだ。こんな美女が現れる前にエル君に告白しておかなくて良かった。と……

 もしエル君に告白して――成功していた後でクリスが現れていたらエル君の愛情は私から無くなってしまっただろう。と……

 そんな辛い思いをしなくて済んだ。と……


 だけどその思いとは裏腹にエル君への思いはより強くなる。魔稜の大森林への遠征の際、危うく告白するところだった。

 その時はベルがまだ告白していないから。という言い訳で自分を抑えることができた。


 けれど今、ベルが告白して……クリスの中に小さな命が誕生したと聞いて……ベルの告白を自分の事のように喜ぶクリスを見て……自分の思いに嘘をつき続けることが辛くなった。


 だから決めたのだ。後悔するくらいならエル君に告白しようと。エル君との模擬戦に勝てたときのご褒美にしようと。

 その思いが強すぎたから、焦って魔力枯渇で気絶する失態をしてしまったが、エル君の機転でご褒美を貰うことが出来た。


 そして私は、今、告白できたのだ。


 ……永遠とも感じられる、けれど実際には数秒程度の沈黙。


「それじゃ、僕からの質問」


 口を開いたエル君は、けれど答えではなく質問を返してくる。

 私の質問という名の告白に答えることが嫌だったのか。と胸がチクリと痛む。


「僕の場合、正妻じゃないけれどユスティはそれでも構わないの?」


 エル君の質問の意味が直ぐには理解できずに、私は呆けてしまう。

 けれど質問の意味を頭が、そして心が理解していくにつれ、私の目からは先ほどとは違い嬉しさが涙となって零れだす。


「うん……うん! もちろんだよ。エル君!」


 そう返す私に、エル君は笑う。


「うん、ユスティの事もドーンと任せておいてよ」

「エル君! 大好きっ!」


 私はエル君に抱きつく。その私をエル君は優しく抱きしめてくれる。

 

 私の十年に渡る思いは今、ここに結実したのだった。


いつも読んでいただき有難うございます。

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