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神様のモニタリング 第一章 ~人類滅亡回避のススメ~  作者: 片津間 友雅
バルクス辺境侯編

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第196話 ■「魔法の深淵2」

「『魔法の旭』の熱気が少し落ち着いた頃、人類種の中に生まれたのは祝福を受けた四人の血を引くもの――『四賢公』に対しての嫉妬であった。

 彼らだけが魔法の構成を見れるというが、自分達でも可能なはず……そう考えた多くのものが魔法の深淵を覗こうと挑戦し……失敗していった」


 遠い昔を思い出すかのように神様は続ける。


「そして失敗した者達の感情の矛先は『四賢公』へと向けられた。

 おかしな話じゃ、『四賢公』以外は不可能といわれていることに挑んで失敗したら『四賢公』のせいなのじゃからな。

 だが、その不条理はその時の民衆意識に違和感なく受け入れられた。


 そこからは……酷い有様じゃった。

 無実の罪で捕らえられ死ぬまで拷問を受けた者、毒を盛られて死んだ者……まるで魔女狩りのような時代が続いた」


 魔女狩り……十五世紀から十八世紀にかけて全ヨーロッパで魔女とされた被疑者に対しての訴追、裁判。

 または私刑とも呼べる迫害にて四万人から六万人が殺害された出来事だ。

 それと同じくらいの血が流れたという事だろう。


「その中でも僅かに生き残った者たちは、ある者は名を変え、野へ下り自分の生い立ちに口を閉ざしたまま生涯を閉じた。

 ある者は有力者の庇護下に入り、籠の中の鳥のように生涯を閉じた。


 そして彼らを追い詰めた民衆達はその狂気から冷めた時に気付かされた。

 自分達ではもはや新たなる魔法を生み出すことが出来ない……とな。

 なんと愚かな事であろうか……」


 はき捨てるかのように呟く。


「今でも国家プロジェクトとして魔法の開発を行おうとしておるようじゃが……成功率は五%も行くまいて

 当たり前じゃ、『四賢公』の血なくして魔方陣の解析が出来ないのだからな」

「……であれば何故、僕の家族は? クリスは?」


 僕の疑問に神様は笑う。


「今から約百年前、バルクスに一人の女性が流れてきた。

 その名はリザベル、本名はリザベート・シュタイナーといった」


「シュタイナーって、まさか?」

「四賢公が一人、東方の覇王の末裔じゃ。

 その者は一人の男性と恋に落ち、そして子を成した。だがそれは許されざる恋であった。

 男性の名は、ブレッケン・バルクス・シュタリア……お主の曽祖父じゃよ」

「……ということは、その子が僕の……」

「祖父じゃな。子を成した後、リザベルは忽然と姿を消した。

 それは自らの意思だったのか、何者かの悪意だったのかは……話す必要もなかろう」


 僕の目の前にいるのは、神様だ。

 全てを知っていてその口を閉ざすということはそういうことなのだろう。


「つまり僕たちは祖父の代から『四賢公』の血を継いでいる。そういうことなのですね?」

「うむ、そうじゃ。そしてクリス……かの者の母親の旧姓は何であったかの?」


 その言葉に僕は思い出す。


「……エルトリア……つまりは中央の智王……」

「これで分かったかの。おぬし達が何故、新しい魔法を生み出せるのか。

 何故、ベル達が魔法を生み出せないのか。

 おぉ、そうそう、始祖であるシュタイナーとエルトリアは兄妹であったからお主とクリスは遠い血縁になるのかの」


 強烈な話だ。

 魔法の歪さの原因の一つがこうして神様の口から語られるとはさすがに考えてもみなかった。


 けれどこれで少し分かった。

 かつてベルに魔方陣が呪文ごとに部品化されているという話をした時。

 一つ一つ細かく魔方陣を指差しながら説明した時。


 ベルが『エル様の話は私には難しすぎます』と言っていた理由。

 彼女には魔方陣の構成が僕と同じように見えていなかった。そういう事だったんだと。


 彼女の性格上言えなかったのだ『私にはエル様が何を見ているのかが分からない』と。

 アインツ達が『エルとは魔法について見えてるものが違うんだろうな』と言っていた理由も


 そして父さんや母さんがはぐらかし続けていた事が線と成り繋がる。


 バルクス家が末姫であるクリスをなぜ支援し続けたのか。

 伯従父上が、クリスの母親の旧姓を聞き何を納得したのか。


 つまりは、クリスも自分達と同じ――伯従父上は異なるが――『四賢公』の血を引くことを知っていたのだ。

 そしてその事がばれた場合、命の危険性があるという事も。

 だからこそ『番犬』の名の下に支援し、一時的とはいえバルクス領内に保護したのだ。


「お聞きしても?」

「ふむ、何じゃ?」


「人類種に『四賢公』を生み出した事……これもモニタリングの一種だったんですか?」

「……それもある。だが他にも理由はあるが……言わぬほうがよかろう」


 ふむ、他にも理由はあるみたいだけど……恐らく聞くことは出来そうに無い。


「僕が、エルスティア・バルクス・シュタリアとして転生したのは、『四賢公』の血を引くからですか?」

「『四賢公』の血。適度な立地条件。適度な社会的地位という意味では最高の人物じゃからな」


「僕がクリスと出会い、結婚したことは……」

「それは偶然じゃな。詳しいことは言えぬがお主以外の被験者では八割ほどがクリスと出会ってすらおらん。お主の行動が遠因となっておるのは確か。

 お主とクリスの間の想いはおぬし達自身で育んだものじゃ。安心せい」


 その言葉に僕は――クリスへの感情が作り物で無い事――に安心する。


「ウスリア教では、魔法を生み出したのは魔道神ウズとされていますが?」

「……自分達にとって都合の悪いことは消され、都合の良いことが吹聴される。生前のお主の世界でもありふれておった事じゃろ?」


 なるほど、勝てば官軍の典型例のようだ。

 自分達が殺した四賢公は闇に消され、魔法を生み出した存在を『神』とする事で自分達では新たに魔法を生み出すことが困難な理由を正当付けたということか……


「それでは、最後に一つ。『四賢公』の血を引くのは僕たちだけでは無いですよね?」

「……エルよ。そなたはもしや?」


「はい、出来るだけ保護しようかと。僕の先祖達と同じ苦しみを受けてきたのであれば救いたい。

 そしてもし可能であれば彼らと新しい魔法を作り出したい。

 同じ血を……同じ境遇の僕たちであれば分かり合えるかもしれない。

 もし、自分の力を使いたくないのであれば……バルクスで何者にも束縛されずに過ごしてもらう。それでも構わない」


 新たな魔法を生み出すことが出来る才能を野に腐らせておくのはあまりにも勿体無い。

 とはいえ過去の悪夢があるから勿論強制は出来ないだろう。


 それでも自分達と同じ血……『四賢公』の血を継ぐ僕であれば少しは話を聞いてくれるかもしれない。

 ……うん、次のギフトの方向性が見えてきたな。


「……お主の思いが、結実することを祈っておるよ。さて、もう質問は無いかの?」

「まだまだいっぱい聞きたいこともありますが……とりあえずは大丈夫です」


 そう返す僕に神様は頷く。


「それではエルよ。次に会うのはまた五年後かの……それまで息災での」

「こんな世界ですから分かりませんけど、はい、また五年後に」

「ホッホッホ……」


 僕の言葉に神様は笑いながら徐々にその姿をぼやかすと存在しなかったかのように姿を消す。


「……それにしても、『四賢公』か……思いのほか大きな収穫だったな」


 魔法の歪さへの質問でこれほどまでの話を聞きだせるとは思ってもいなかった。

 『四賢公』は、今まで読んだ書籍の何処にも名前を見出すことが出来なかった事から歴史からも抹消された存在。


 逆に考えれば『四賢公』の存在を知ることが出来た僕は、魔法技術において大きく先んじた可能性もある。


「……うん、明日からも色々と忙しくなるぞぉ」


 そう僕は呟くのであった。


 ――――


「それにしてもエルよ。お主は私を喜ばせてくれよるわ。

 まさか三つ目の壁より先に四つ目の壁を壊してくるとはな」


 神は笑う。

 先ほどまでの少し哀愁が漂う様がまるで嘘かのように。

 そう……それは神にとっては何度も行われてきた事。

 物語に色を添えるための演技でしかない。


 三つ目の――自己犠牲の精神――という壁よりも先に四つ目の『魔法の深淵』にたどり着くとは……

 これで既に三つ目の壁は意味を成さない。


 七つの壁のうち四つの壁を壊したに等しい。


 今までの被験者の中にはエルと同じく自力で新規魔法を開発したものはかなりの人数がいた。

 それでも『魔法の深淵』に気付いたものは数えられるほど。


 多くの者が自身の才を(おご)り……自滅していった。


「しかし、奴の性格的に……そろそろ頭打ちになるかものぅ

 いや、それでも構わないレベルではあるが……視聴者としては七つとも壊してもらいたいものじゃ」


 エルという存在は神にとっては最も優秀なモルモット(被験者)

 自分の手のひらで予想以上の動きをするモルモットに一喜一憂することが彼らにとっての娯楽なのだ。


「ふむ、やはりこのままではつまらんのぉ。魔人族どもがもう少し動くと思っておったんじゃが……所詮は敗者か。どれ、北西あたりに騒乱の種でも蒔くとするかの」


 そう、娯楽においては長き安定は面白みに欠ける。

 より娯楽を娯楽たらしめるのが神の仕事なのだから。


いつも読んでいただき有難うございます。

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