第19話 ■「滅亡原因を考えてみよう」
七歳になった。
この二年間は、いつものように鍛錬をし既存魔法をベースに魔法の改良をし、一週間に一度くらいのペースで訪ねてくるクリスに魔法を教えている。
去年の十一月から来月の二月までクリスは中央に一時的に戻っていないけどね。
これにより一通りの低級・中級魔法の最適化が出来、平均して消費魔力が八割程度までの削減が出来た。
そしてその認識変更のモルモッ…いや、協力者としてクリスは優秀だった。
魔力のキャパシティも僕と同じくらいまで成長し、空で詠唱できるまでになった。
そして、三歳になり行動範囲が広がり僕の後をくっついてくる妹二人を愛でる日々の繰り返しだ。
今も本を読んでいる僕の両足を枕代わりにスヤスヤ眠っているアリシャとリリィ。
一卵性双生児だから容姿は瓜二つだけれど、活発なアリシャと内気なリリィという感じに性格に差が少しずつ出始めた。
とはいえまだ、アリシャの後ろをリリィが常に付いてくると言う程度の差でしかないけれど。
二人がとても仲良しなのは良い事だ。
ここ最近、日課以外で僕が始めているのは、人類が滅亡する原因の想定だ。
いまから九十三年後、人類は滅亡する。
『まだ』とみるか『もう』とみるかの判断は難しいけれど、子供ゆえに制約が厳しい今のうちにある程度の想定をしておく必要があると考えた。
僕が思いついたのは
1.星の寿命
2.隕石の衝突やスーパーノヴァ
3.太陽の死滅
4.地震・津波・火山などの自然災害
5.世界大戦と言った大規模戦争
6.亜人による侵略
7.モンスターによる侵略
といった所だろうか。
とはいえ、1~3については天体規模クラスの災厄だから正直、回避しろと言われてもお手上げだ。
せいぜい、他の星に移り住むための宇宙船でも作らないと無理だろう。
そして、前世でも確立していない星間宇宙船を作れと言われても無理ゲーだ。
可能性を除外できない以上、検討はするけれど優先度はかなり低い。
次に4についてだが、可能性としては否定できないが、この世界の大陸は、ユーラシア大陸クラスの大きさを誇る。
地震や火山は確かに影響はでかいが、人類が大陸に分散していることを考えると、これのみが原因と考えるのは難しい。
とはいえ先日、クリスに地震について聞いてみたが、『地面が揺れるはずない。』と否定された。
それがこの世界の共通認識である場合、建物の耐震性は無いと考えたほうがいい。
自然災害国日本産まれの僕としては優先して建物改革もやって行こうと考えている。
5~7については、普通に考えると可能性は高い。
けどあの神様の事だ、普通に思いつくことは表面的な脅威くらいに考えておいた方がいい気がする。
滅亡の直接的な原因ではないかもしれないが間接的(たとえば人口減少)な原因である可能性は高い。
そういう意味では、対策の優先度としては高い。
(人類の国を全て統一して他の種族を殲滅……ってのは僕らしくないか)
うーん、考えてみたけれど、正直今までの被モニタリング者でも思いつきそうな事ばかり、
こんなのモニタリングする意味があるのか?という気がするなぁ。
色々と考えながら何気なく寝ているリリィの頭を撫でる。
妹二人はこうやって寝ているときに撫でられるのがとてもお気に入りらしい。
寝汗で少し張り付いた前髪を掻き上げると肌白の小さなおでこが露わになる。
(うん、さっきのおでこの怪我は綺麗に治ったな)
先ほどどこかにぶつけて怪我をしたリリィのおでこは、僕の回復魔法で傷痕ひとつなくなっている。
この世界は、回復魔法があるおかげで大体の怪我は自分で直すことが出来る。
いやはや、これだけ怪我人が発生しないんだったら医者は廃業だろうなぁ。
「うん? 医者? そういえば、この世界では医者ってほとんど見た事や聞いた事が無いぞ……」
そこに何か引っかかりを感じる。
前世の歴史で人類存亡の危機に瀕した何かを見落としていないか?
「……黒死病……天然痘……スペイン風……結核……、そうだそうだよパンデミック!」
かつて黒死病は十四世紀の大流行では、世界人口を四億五千万から三億五千万まで減少させたと言われている。
医者がカラスのようなマスクを被った写真は衝撃的だった。
新撰組の沖田総司も不治の病と恐れられた結核が原因で死んだとされている。
僕が生まれた時代では治療できるようになったが、それでも結核は近年でも年間百五十万人の死者を出していると聞いたことがある。
この世界は、魔法技術の発展の弊害として医術が発展していない。
現にこれだけの蔵書を誇る我が家の書庫でさえ医学書は一冊も存在しない。
(書庫の指輪にはたくさん入っているけど)
そういえば、前に見た資料だと十年前にエスカリア王国の北東にあるラスティア伯爵領の一つの村が全滅している。
原因は不明とされ最終的には『モンスターによる襲撃によるものと推測』という解明もなにもされていない報告で片づけられた。
もしかして感染病によるものでは?という知識さえ無いのだ。
そして、こういった感染病との戦いには年数を要する。
つまり気づいた時にはもう手遅れな所まで進んでいる可能性がある。
そこで、全身に寒気が走る。
もしかしたら今までの『ギフト』で医術に秀でた人材をお願いしなかったのは致命的なミスになっているのではないか?
少なくとも次の『ギフト』でお願いするつもりだが、間に合わないのではないか?
(ちくしょう、神様にいいように扱われているな)
そうだ、大丈夫だ、まだ間に合うと自分に言い聞かせる。
このタイミングで気づけたことは良かったとポジティブに考えよう。
「にぃに、どうかした?」
目を覚ましたアリシャが聞いてくる。
「にぃ、悲しそうな顔してる? どこか痛い?」
アリシャの声で起きたリリィも聞いてくる。
「大丈夫だよ。二人がこれからも笑っていられるようにどうすればいいか
考えてただけだから」
「アリィ、にぃにと一緒にいればいつでも笑うよ?」
「リィも、リィもにぃといれば楽しいよ?」
二人の可愛い妹を抱きしめる。
キャッキャと嬉しそうに笑う声に不安や焦燥が薄れる。
そうだ、まだ始まったばかりじゃないか。
まだ、何もなしていない。これからどうするかが問題だ。
両腕に感じる二つの温かさを感じて再度決意したのだった。




