第168話 ■「新たな家族1」
エルスティアの物語とは異なるアナザーストーリー
『神様のモニタリング ~ハーレム作って滅亡回避?~』の執筆も始めました。
(https://ncode.syosetu.com/n2640fb/)
こちらをメインで投稿していきますのでかなり不定期となるのですが、合わせてお楽しみいただけると嬉しいです。
王国歴三百十一年四月二十日。
たぶん大安吉日(この世界には六曜の考え方は無いけどね。雰囲気、雰囲気)
バルクス辺境候主都エルスリードは普段とは違った空気感が広がっていた。
エルスティア・バルクス・シュタリア辺境候とクラリス・エルトリアの結婚その日である。
その空気感を味わおうと一週間前くらいから町には多くの領民が集まっている。
それらを目当てに数多くの屋台も開かれ大いに賑わっている。
また、僕とクリスの名の下に振る舞い酒や飲み物が置かれたことも拍車をかけていた。
王国の王女殿下が領主の妻になる。
その事に領民たちも酔いしれていたのである。
――――
「あっ、その料理は向こうのテーブルに。
そちらの飲み物は反対側に多めに置いてください。
それから……」
結婚式後のパーティー会場は、準備を続ける執務官達によっておおわらわ。
キッチンも料理や飲み物の準備をするコックやメイドたちによって戦場と化していた。
なんせ百人分の料理、飲み物の準備だ。
普段は多くても十名程度の料理しか作らないのに十倍、しかも結婚式用の豪勢な料理ともなると仕込自体も三日前から行われている。
その中でも大活躍したのが冷蔵箱だ。
通常であれば鮮度が落ちやすい食材は早くても前日からじゃないと仕込が出来ない。
けれど冷蔵箱のおかげで三日前から仕込みをして冷蔵しておくことが出来る。
そのおかげでこの戦場の雰囲気でもまだましということらしい。
そんな中で本日の準主役といえる僕といえば……
「アリス、こっちの書面への署名終わったよ」
「ありがとうございます、エルスティア様。
申し訳ありませんこの様な日に……どうしても本日中に対応しなければいけない物がありまして……」
執務室で僕とアリスは、書面と格闘していた。
めでたい日だろうがなんだろうが日々の執務は粛々と発生する。
最終決定については僕自身の署名が必要になるからこうして何時も通り働いているわけである。
「構わないよ。新郎なんて新婦と違って準備はあっという間で暇を持て余すからね。
暇になるくらいであれば少しでも執務をしていた方が後々楽になるし」
僕はアリスに言いながら次の書面に目を通す。
「……なるほど、新規開拓地の農地の準備は終わったみたいだね。
ただ、農耕動物が不足しているから送ってほしい。と」
「はい、ボルドーさんの指揮の下でかなり順調に進んでいるようです。
逆に進捗が良すぎて牛馬といった農耕動物が不足しているようですね」
トラクターなんて存在しないこの世界だと農地を耕すといった重労働は牛や馬といった農耕動物を使うことが多い。
どうしても人力だと限界があるからね。
「うーん、とりあえず新規開拓地は優先度が高いから上手く調整して農耕動物の補充をしてもらえるかな?」
「はい、そういわれると思いまして、事前に調整しておきました。こちらがその資料です」
「さすがアリス。…………うん、問題なさそうだね。それじゃこれでお願いするよ。
それじゃ次は……」
次の書面を処理しようとしていた時、扉がノックされベルが入ってくる。
普段、開発に邪魔になるのでドレスといった服装を着ることが少ないベル。
今日は薄緑色のドレスに腰まで届く髪をポニーテールのようにしているから新鮮だ。
僕とアリスが仕事をしているのを見つけ、一つため息を吐く。
「アリスもですがエル様も本当に仕事好きですね」
「いや、別にそんなことは無いよ。新郎は待っている間は暇だからね。
少しでも仕事が溜まらないように……」
それにベルは笑う。
「そういうことにしておきます。
それよりもエル様、そろそろお時間です」
「おっと、もうそんな時間か。アリス、残りは明日でも問題ないかな?」
「はい、本日中の書面は全て対応済みですので」
そのやり取りにベルは苦笑いする。
結婚した翌日からもう働くのかって感じの顔だろうか?
ベル君、これが社蓄根性だよっ! ……なんだろ、この空しい感情は……
「了解。それじゃ準備に行ってくるよ」
二人にそう言って僕は準備室に向かう。
――――
この世界の結婚式は前世の結婚式をより簡素にした感じだ。
新郎は先に祭壇の前で新婦を待ち、新婦が入場して二人で祭壇の前で誓いの宣言を行う。
それで結婚式自体は終了だ。
指輪の交換も無いし、誓いのキスも無い。
披露宴も立食パーティー形式でお色直しといったイベントも無い。
むしろ僕にとっては色々とやらない分、楽でいい。
先に祭壇の前に立つ僕に対しても参列者の多くは見ていない。
皆が今か今かと扉が開く――新婦が入場する――のを待っているのだ。
ま、結婚式の主役は新婦だ。新郎なんてオマケに過ぎないからね。
「それではお待たせしました。新婦、クラリス様のご入場です」
司会を買って出てくれたフレカさんの言葉と共に扉が開かれる。
そして参加者の多くからため息がこぼれる。
そこに立つは三人の女性。
両端に立つのは、純白のドレスを着た見目麗しき双子の少女――アリシャとリリィ。
その間に挟まれるように立つのは、クラリス・エルトリア。
僕の妻となる最愛の人。
彼女が好きな薄青色をベースとしたウェディングドレス。
純白の薄めのベールで顔を隠してはいるけれど、そこから零れ出た金髪は人の目を惹きつける。
ベールにはアクセントとして青色のミスティアの造花(ミスティアの花が咲くのは秋だからね)
母さんやアリィ達に、クリスがウェディングドレスを着た姿を見せないようにされていたので僕にとっても初見だ。
その姿に僕も釘付けになる。
「美しい……」「綺麗……」
そんな言葉が参列者から零れ出る。
参列者の多くがクリス自体を見るのが始めて。
噂では美姫と聞いていたとしてもその想像を超えたのであろう。
その中をクリスは歩き始める。
アリシャとリリィはクリスがウェディングドレスの裾を引き摺らないように持ちながら後に続く。
ゆっくりと一歩一歩、僕へと近づいてくるクリス。
ベールの奥に見える顔は微笑み。それはベールに遮られ、僕にしか見えていないだろう。
「エル。どう、かな?」
横まで来たクリスは僕に尋ねる。
「綺麗だよ。いつも綺麗だけど、それよりずっと」
「うん、エルにしては合格」
僕の答えに、笑いながら頷くクリス。
「それでは、お二人の誓いを」
フレカさんの言葉に、僕とクリスは自らの胸に手を当てる。
「私、エルスティア・バルクス・シュタリアはクラリス・エルトリアを生涯の伴侶とし、永久の愛を此処に宣言する」
「私、クラリス・エルトリアはエルスティア・バルクス・シュタリアを生涯の伴侶とし、永久の愛を此処に宣言します」
「今、ここに誓いは成った。二人の永久の愛に祝福を!」
その言葉に参列者から大きな拍手が起こる。
「おめでとう! お幸せにっ! エル兄様、クリス姉様」
「おめでとう! お幸せにっ! エルお兄様、クリス姉様」
クリスの後ろに控えていたアリシャとリリィからより大きな祝福の言葉が僕たちに向けられる。
今、此処にエルスティア・バルクス・シュタリアとクラリス・バルクス・シュタリアは家族となったのである。
いつも読んでいただき有難うございます。
筆者のモチベーションになりますのでブックマーク・評価登録をお願いします。




