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神様のモニタリング 第一章 ~人類滅亡回避のススメ~  作者: 片津間 友雅
ルーティント解放戦争編

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153/220

第153話 ■「解放戦争終結」

 息絶えたボルディアス。


 元の人の姿に戻ることを少しだけ期待したけれどそんな奇跡が起きることはなかった。

 このまま朽ちるに任せるのは忍びなかったので火葬することにした。


 今回の戦争が歴史として残る時、ラズリアは遺体も見つからない行方不明として記されることだろう。

 それでも僕とアインツだけは真実を記憶しておく必要がある。


「なぁ、エル」

「ん?」


 ボルディアスが焼けていく様を見ながらアインツが呟く。


「俺達はどこで道を(たが)えたんだろうな」

「さぁ……わからない。ラズリア自身が悪かったのかもしれないし、僕が悪かったのかもしれない。

 貴族社会そのものが悪かったのかもしれない。

 もしかしたらこうならない未来もあったかもしれないけれど、僕には見つけられなかった」

「そっか……そうだな……」


 それ以降はお互いに言葉を発することなく、燃え尽きていく様をずっと眺める。

 伯爵の号を持つ現当主としては参列者は二人で牧師も献花も無い質素極まりない葬儀だ。

 派手好きだったラズリアにとっては納得いかないだろうが、事実が事実だけにここは勘弁してもらおう。


 そんな僕達のところに事後処理を行っていたリスティがやってくる。

 最適解だったとはいえ当主である僕自身が魔物と対峙するという危険にさらした事を悔やんでいたけれど、事後処理の繁忙さの中でいつものリスティに戻っていた。


「エル、アインツ。第二騎士団から連絡がありました。

 モレス要塞は陥落。

 一部逃亡したものもいるようですが、多くの者が投降してきました。

 ただ、ラズリアの行方が不明との事です。

 砲撃による混乱で近習も含めて彼の傍にいなかったそうなのでどこに居たのかも分からず、遺体も見つかっていないので生死も不明です」


「……そっか、見つかれば良かったんだけど……仕方ないね」

「そうですね。捕らえる、もしくは遺体を見つける事が出来れば、今後の占領作戦も少しスムーズにいけるのですが……

 生きて逃亡したことを前提とし、ラズリアによる組織的な抵抗も考慮しながら占領作戦の計画修正をします」


「うん、よろしく……」

「それでは、準備に入りますので失礼します」


 僕が言った『見つかっていれば』という言葉を別の――普通に考えれば本来の――意味で捉えたリスティの言葉に曖昧に返す。

 それに気付くことなくリスティは占領作戦の準備のために僕達の場所から離れていく。

 これから忙しくなるのはバインズ先生とリスティ率いる軍令部、僕やアインツは当分の間はやることも無い。


「……そっか……残念だよ。遺体でもいいから見つかってほしかったんだけどなぁ」


 僕のその呟きは青空に静かに消えていった。


 ――――


 七月七日

 難攻不落と呼ばれたモレス要塞は僅か六時間で陥落。

 その出来事は周囲の領主達に驚きを持って知られることになる。


 七月十一日

 軍令部長バインズ・アルク・ルードの指揮の下、ルーティント伯領内に対して占領作戦が開始される。

 第二騎士団は北回りに。

 第三騎士団は南回りに進攻を開始し、各地の町村を占領していく。


 占領にあたり一切の強奪、暴力行為を禁止。

 武力攻撃を極力避け、代表との話し合いを重視して占領していったため、多くの町村は無血占領された。


 同日、バルクス伯エルスティア・バルクス・シュタリアは主都エルスリードへの帰途につく。

 七月十七日にエルスリードに到着。


 八月三十日

 第三騎士団はルーティント伯主都ゴルンを無血開城する。

 敵であるにも関わらず民衆は第三騎士団を歓迎で迎えたという。


 十一月二日

 要塞都市ヒンデルクにてルーティント軍の最後の抵抗が行われる。

 要塞には二百の騎士残兵が立てこもったと資料には残る。


 第二騎士団による再三の投降勧告が行われたが、五日後の十一月七日に開城とともに突撃・玉砕した。

 その中には黒騎兵隊の数少ない生き残りであるヘクセン・バルクという青年も含まれていたという。


 十二月十一日

 バルクス軍によるルーティント全領の占領が完了。

 終戦宣言がなされる。


 翌年二月三日

 第二・第三騎士団が主都エルスリードに凱旋。

 多くの民衆に喝采を持って迎えられる。


 三月一日

 エスカリア王国の会議にてエスト一族の断絶が全会一致で認められる。

 ルーティント伯は当主行方不明のまま、歴史から姿を消すことになる。


 これが歴史書に残る九ヶ月に渡って行われた『ルーティント解放戦争』の記述

 その文字の羅列に血や火薬の臭いを感じることは出来ない。


 けれど、この戦いがエルの人生を大きく動かすことになったことは事実であった。


 ――――


 ルーティント伯消滅後、旧ルーティント伯歴々の数々の悪行が白日の下にさらされることになる。

 それは三代に渡る重税を元にした贅沢の数々。

 ラズリアの父親である前伯爵による残虐な行為。


 今なおエスト一族は、旧ルーティント領では悪逆非道の限りを尽くした悪者として『悪いことをするとエストの化け物が来るわよ』という子供を叱る際の常套句として使われている。


 歴史家の中には、エルスティア伯爵が以降のルーティント伯統治を容易にするためにわざと誇大にルーティント伯の悪行を出したのではないかと疑問を呈するものもいる。


 確かに敗者に勝者の負債を全て押し付けて歴史を捻じ曲げた事例は枚挙に暇が無い。

 『勝てば官軍』なのだから。


 しかしさらされた悪行の数々は、エルスティアが占領する前に確かに行われた事実であることは、多くの周辺資料が裏付けている。

 また、ルーティント伯の悪行が民衆に知られ矛先が向かいかけた際、数少ないエスト家の生き残りについて保護したとの記録も残る。


 それも歴史家の間では後ろめたさがあったからと断ずる者もいるが、エルスティア自身がこの事について何も語ることが無かったため真相は闇の中である。


 保護したエスト家の一族は、名前をルーティスと改名しバルクス伯の北東の土地を拝領し細々と続いたとされる。

 その事実が公表されたのは、エルスティア死後五十年経ってからの事であった。


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