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神様のモニタリング 第一章 ~人類滅亡回避のススメ~  作者: 片津間 友雅
学生 中等部編

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112/220

第112話 ■「シュタリアの血」

 年が明け十五歳になった。


 ベルカリア連邦との戦争で手に入れ王国直轄(ちょっかつ)地という扱いであった「アヌス」「レスト」「ボーデ」「ムルカリア」について、ようやく伯爵家が新設されることが発表された。


 それぞれ二地方が統合され「ベルトン伯」と「ルームカリア伯」という名になった。


 ベルカリアの名前を分割し、それぞれの伯領の名前にする。

 それはベルカリア連邦にとっては屈辱(くつじょく)の名。

 だがそれに反抗する力は今のベルカリア連邦には無かった。


 その二伯に(ほう)じられたのはイグルス王子派の貴族。

 それはイグルス王子派の勢力が強まったことを意味する。

 

 僕としては国内が安定するのであれば、王に誰がなっても構わないってのが本音だ。

 まぁ、繋がりが出来たという意味ではファウント公爵のイグルス王子派は応援はしているけどね。


 さてさて十五歳になった。ということは新しいギフトを貰えるという事になる。

 

 その中でどちらを先に貰うか? で迷っていたのだ。

 

 一つは僕に対しての初めてのチート能力。

 もう一つは農業に対しての物品の要求だ。

 

 農業に対しての物品ってのはズバリ『地球で生産されていた農作物の種子』だ。


 この世界に流通している農作物はある程度僕になじみのある物が多い。

 

 大麦や小麦といった主食。

 カブやニンジンといった根菜類。

 

 は普通に商店で買う事が出来る。

 けれど多種多様を誇った日本に比べれば種類は圧倒的に少ない。

 

 以前も言ったけれどジャガイモも無い。

 特に葉野菜系はキャベツくらいしかないんじゃないだろうか?というくらいだ。

 その分この世界特有の野菜が多いんだけどね。

 

 商品価値が上がる要素の一つに希少性がある。


 大航海時代、香辛料は金と交換されたと言われるほど貴重なものだった。

 現代日本の様に百グラム三百円くらいで買える事を考えると信じられないけれどね。


 価値が高かった理由は、流通手段として危険を伴う大洋に乗り出す必要があったからだ。

 一般人にとって香辛料は未知なる食材であっただろう。

 

 それは『地球で生産されていた農作物の種子』も同じ未知の物になる。

 種子や栽培方法の伝達を当面、制御すればバルクス伯領の特産になりえるのだ。

 

 ……まぁ、ポテトや白米を食べたいという欲が無いと言えば嘘になるけれどね。


 ただ魅力はあるけれど現実問題としてバルクス伯の農業はまだ不安定だ。

 四圃(よんぽ)式の導入もまだ先の話でやっと休耕地の改革に光明が見え始めたばかり。

 そんな状況では新農作物なんて夢のまた夢。

 

 ってことでこのお願いは次の……二十歳になった時にしようと悩んだ結果決めたのだ。

 

 とするともう一つの……僕自身へのチートって事になる。

 まぁ正確には僕自身への直接的なチートでは無い。

 遠い将来を見越しての……という純粋なものだ。なのだけれど……

 

 正直言うと恥ずかしい。いや、他人に聞かれるのが恥ずかしいと言った方が正解か?

 という事で、ベルに僕の事を知られた際に『神様に会ってみる?』と気軽に言ったけれど、次のギフトの時に合わせるという事で今回はご遠慮いただくことにした。

 

 ――――


「久しいのエルよ。元気にしておったか?」

 

 一人執務室で数字とにらめっこしていた僕の前に、神様はふらりと現れる。

 前回を教訓にして本当に普通に現れたな。

 

「お久しぶりです。……といってもモニタリングはされているんでしょ?」

「まぁそうじゃが、なに顔を合わせるのは久しぶりなんじゃ。人間的なやり取りもよかろう?」

「なるほど……確かにそうかもしれませんね」


 神様と実際に会うのは、よく考えてみるとまだ四回なんだよな。

 それにも関わらず、神様の顔の記憶が薄れる事が一度も無かった。

 現に今も細部にわたって記憶の中とのギャップが無いのだから……頭いじられているのか?


「さてさて、それではエルよ。今回は何を望む?」

「えっと、…………を……」

「うん? なんじゃ? お主にしては歯切れが悪いの」


 ……ええい、ままよ。

 

「シュタリア一族について両親の才能を確実に引き継ぐことが出来る遺伝子が欲しいです」

 

 僕は自分なりに努力し、ある程度皆に認めてもらう事が出来るだけの才能を身に着けてきた自信はある。

 けれど滅亡回避は長期的なスパンで考える必要がある。


 そして僕一人が強くなったところでどうにもならない可能性がある。

 優秀な人材を集め育てる。それは口で言うのは簡単だけれど実際には難しい。


 アインツ兄妹やレッド、ブルー達が仲間になってくれたのは運が良かったと言わざるを得ない。

 とした場合、頼りになるのは血縁と言ってもいい。


 もちろん逆に今の王国のように後継者問題に発展する可能性がある事は理解しているけれどね。


 そして血縁を増やすことを考えた場合、生まれた際から下地があるのは有利と言える。

 その有利は子供が増え……孫が増え……となった中で大きくなっていく。

 僕一人を強化するよりも何十倍も……


「………………」


 神様は(うつむ)き何も言わない。こういった願いは無理だったのか?

 シュタリア一族って大風呂敷を広げたのはダメか?

 僕一人だったらいけるか?

 

 そう考えている僕の前で神様の肩が次第に震え始める。

 もしかして怒らせたんだろうか? やばい、今後ギフトなしって最悪なことになるんじゃ……

 

「ク、ククククク……エル、面白いの。やはりお主は面白い」


 だが、その震えは怒りとは異質の。笑いへと変わる。

 そして神様は顔を上げる。そこにあるのは笑み。それはそれは楽しそうな……


「一族の『血』へのギフト付与と来たか。

 なるほど、ギフトのルールの一つ『能力は一つのみ』より逸脱してない。

 今までも色々なギフトを望まれたが遺伝子へのチートは記憶でも数えるほどしかないのぉ」


 神様は嬉しそうにあごひげを触りながら語る。


「それにしてもこの願い…………お主も好きものじゃの」

「あー言われると思いましたよ。ええ、その覚悟はありました」


 そう、この願いは裏を返せば『子供いっぱい作っちゃうよ』宣言なわけで……

 まぁ、どうなるかは分からないよ。だってまだ十五だもん

 

 今の僕は耳まで真っ赤だろう。

 その僕の表情に満足したのだろう。神様は(うなず)く。


「よしよかろう。本来であればシュタリア一族全体にというのは大風呂敷、お主限定としたい所。

 だが、お主の照れた顔が見れたから大サービスじゃ。

 お主と弟妹全員に能力を授けてやろう

 ただし、効果は滅亡回避までとするぞ、いつまでも強い力は世界を歪めるからの」


 ふむ、父さんと母さんは除外したって事はもう弟妹は生まれないって事かな?

 それに効果は滅亡回避までか、そりゃ子々孫々にわたってチート血族じゃ何処かで問題がでるしな。


「ありがとうございます。神様」

「うむ、これからも(わし)の事を楽しませてくれエルよ。……エル」


 不意に神様は語りかけてくる。


「なんでしょうか?」

「この世界はお主の目から見てどうじゃ?」

「…………間違いに満ち溢れています。不平等、(しいた)げる者、虐げられる者、矛盾した法律、上げれば(きり)がないほどに……」

「うむ」


「……ですが、それゆえに美しい。だからこそ救いたい」

「なるほどの『綺麗は汚い 汚いは綺麗』か。うむ……。

 さてエルよお別れじゃ、また五年後に再会しようぞ」

「はい、それではお元気で、神様」


 神様に元気でというのもなんだかおかしいけれどね。

 神様は笑いながらも徐々に薄れていき……そしていなくなる。

 

 神様は僕の答えに満足したのだろうか? そう思いながら日が暮れていくのであった。


 ――――

 

 この時お願いしたギフトの内容について、ベルやリスティ達に聞かれたけれど長きに渡りのらりくらりと誤魔化し続けたのは別のお話

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