第11話 ■「魔法を使ってみよう」
もっとも簡単そうな魔法で実際に僕も使用できるのかを確認したいところだ。
神様が言うには魔法は使えるようにしてくれているらしいけど、元の世界になかったものなのでどう使うのか?が感覚的にわからない。
まずは、詠唱で試してみたいところだけど一般魔法は、ほとんどが魔法陣を用いる方法のようなのでそれ以外でという事になる。
回復魔法と召喚魔法は高度魔法だから、攻撃魔法でも低級魔法になる「ウォーターボール」にしてみよう。
低級とはいえ攻撃魔法だから書庫で使うのはまずいよなぁ。
「ファンナさん」
「はい、なんでしょうか? エル様」
「実際に魔法を使ってみたいのですが、どこか良い場所は無いですかね?」
「魔法……ですか。でしたら裏庭はいかがでしょうか?
ある程度整備はされているのですが、現在は使用しておりません。
ただ、魔法となりますとご両親に許可をいただいた方がよろしいのではないでしょうか?」
あー、たしかに魔法を練習するとなると危険が伴う。
万が一の事があれば、責められるのはお目付け役のファンナさんになる。
ファンナさんには色々とお世話になっているし迷惑をかけれない。
とはいえ、魔法を使う事を父さんや母さんは許してくれるかな……
「そうですね。それでは母様に聞いてきます」
書庫を出た僕は、母さんを探す。
とはいえここ最近は妹たちのそばにいることが多いけど。
思った通り母さんは妹たちのそばに置かれた揺り椅子に腰かけながら妹たちの頭を優しくなでていた。
自分だけに注がれていた愛情が妹に注がれることによる嫉妬を覚えるらしいが精神的には三十歳の男性になっている僕としては、単純に慈母像のように綺麗だな。と感じる。
「母様、お願いしたいことがあるのですが」
「あら、エル。どうしたの?」
「魔法の勉強をしたくて。実際に魔法を使ってみたいと思うのですが、ファンナさんに聞いたところ裏庭が適していると聞きました。
魔法の勉強なので父様か母様の許可をもらってからという事になったのでお願いしたいと」
「魔法、ねぇ」
と、母さんは思案を始める。
あー、これは、ダメと言われるパターンかな。
やはり四歳の子供の要求としては高すぎたか……
「エルはしっかりしているから問題ないとは思うけど。いくつか約束を守ってほしいの。まずは、一人ではやらないこと。
これは、今まで通りファンナさんにお願いをしましょう。必ずファンナさんか他の大人がいるときにして欲しいの」
「はい、わかりました。一人ではやりません」
「それじゃ次は、非攻撃的な生き物に対しては絶対に魔法を使わない。動物も生きているんだからその命を奪うようなことはしない事」
「もちろんです。僕の勉強のために命を奪う事はしません」
「最後にその日にやった事をお父さんやお母さんに教えてほしいの。エルが何をやって、何が出来たのか。何に失敗したのかを教えてほしいの」
「はい、わかりました……そんなことでいいんですか?」
「えぇ、親と言うのは子供の成長や命に危険が無い程度の失敗経験を知ることが何よりも楽しみなの。
エルは、今まで育てるのにほとんど苦労したことが無かったから。逆に失敗したお話が聞けた方が嬉しいわね」
と微笑む。
妹たちの夜泣きや愚図りを見ると確かに僕は、ほとんど泣いたりとかしなかったな。と思い返す。
そういったものは大変だけど成長の喜びでもあるのかもしれない。
手がかからない子だったけど、逆に寂しさを感じさせていたのかもな。と少し反省。
「わかりました。約束を守ります」
「ありがとう、レインお父さんには私から伝えておきます。さっそく今日から始めるのかしら?」
「はい、魔法を使えるかどうか?からになるけど、ファンナさんにお願いして始めます」
「そう、頑張ってらっしゃい」
さて、母さんからの了承はもらえたから。
ファンナさんにお願いして練習を始めよう。
ファンナさんに連れ立ってもらって裏庭に来る。
裏庭とはいっても伯爵家の屋敷だけはあって、学校の運動場よりも広いスペースがある。
これは確かに練習するには最適だな。
ファンナさんは数人のメイドを連れてきたようで、てきぱきと指示を出しながら
練習の合間に休めるようなスペースを作っていく。
それを背中に感じながら僕は「ウォーターボール」の詠唱を暗記していく。
「よし、始めるか」
と僕は、右手を前に差し出して、ひとつ深呼吸をする。
前方、人も生き物もいない事を確認。
ファンナさん(や何人かのメイド)が後ろにいる気配を確認。
『我、求るは清涼なる水の加護。集え、せせらぎの流れ。ウォーターボール』
熱が右手に集まるのを感じる。これが魔力なんだろうか?
それが指先から押し出されると同時に右手の先にこぶし大の水弾が出来る。
「おおっ!」
と、感動すると同時に。あれ?と思う。
攻撃魔法であるのに、水弾はその場にフヨフヨ浮いたままになっている。
そこで気づく、そうか、詠唱の際に何を対象とするかを考えなかったからかもしれない。
それならば、と十mほど先にある小石に意識を集中させると同時に水弾は小石めがけて飛んでいく。
実際には、小石から二mほど右に着弾して水たまりになる。
なるほど、やっぱり対象を意識することが必要か。
逆に言えば対象を指定しないとしばらくは自分のそばに漂うという事か。
これは使いようだな。
標的に当てる精度は今後あげていくとして、まずは数をこなしてみよう。
ウォーターボールを十発ほど撃った頃だろうか、妙に倦怠感を感じ始めた。
うーん、集中しすぎたせいかな。
働いている頃はこれくらいのダルさは特に気にならなかったはずだけど流石にこの体だと耐性が無いのかもしれない。
それじゃ、最後に一発と思って意識を集中したと同時に、目の前がブラックアウトして僕は意識を失った。