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神様のモニタリング 第一章 ~人類滅亡回避のススメ~  作者: 片津間 友雅
学生 中等部編

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第102話 ■「初めての冒険1」

 バディア渓谷――


 王都エルスリードの北東へ二日ほど移動した場所に存在する。

 渓谷と呼ばれているが川は既にない。


 二百年前の地滑りにより川の流れが大きく変わったことが原因なのだが、それ以降も渓谷と呼ばれている。

 川の恩恵が無くなったため土地は乾き、元々の地相が原因で砂漠化が進み、ひとたび風が吹けばその狭まった空間で強風へと変わり砂嵐が発生する。


 付近に人間が住む町も無く、改名が行われないのもそれに伴う地図の訂正といった手間に見合わないからである。

 地図も手書きだからべらぼうに高いしね。


 人間が周辺に住まないからそれを目的とした賊もいない。完全に魔物だけの世界だ。

 王都から二日しか離れていないのに不思議な感覚だ。

 

 魔物にとっては餌になる人間がいないという事は、魔物同士での食物連鎖が出来上がる。

 最下層は通常の動物や虫、ゴブリンといった下級魔物の中でも弱者の魔物。

 最上層はトロールクラスの下級魔物の中でも上位の魔物で中級以上の魔物は存在しないらしい。

 

 ……本当だよね? 今までそれに騙されてきたんだから。

 としつこくこの地を知っている情報屋に聞いたけれど今回は流石に大丈夫だそうだ。

 ここはレイーネの森と異なり未踏の部分が無い。つまり生息する魔物は把握しているそうだ。

 

 それに傭兵になりたての新兵や冒険を生業(なりわい)にする冒険ギルドの新人の鍛錬として最適な場所で、適度に王都から近く遠征の基礎を学ぶのに適している。


 タイミングが合えば解毒草――ルスト草――採取をお願いする事もあるらしいが、当面の間そのような新人がおらず王都でもルスト草が不足していたから今回の依頼になったわけだけどね。

 ファウント公爵としても何かのついでならともかく、ルスト草採取だけを依頼する事が出来なかったわけだ。


 そんな場所に僕達は来ていた。もちろんルスト草採取のためである。

 ルスト草もこの環境の変化に伴って変異した固有種だそうで、このバディア渓谷でしか発見されていない。

 それが、よりこの毒と解毒草の価値――殺すという意味での――を高めている。


 乾燥を好み冬季をのぞいて赤い小さな花を咲かせる多年草らしい。

 現物は見た事が無いけど、ファウント公爵曰くこの辺りにはルスト草を除いて赤い花が咲く草が無いから見分けは容易らしい。


 今回の依頼には、僕、バインズ先生、アインツ、ユスティ、レッドが参加している。

 リスティ、ベル、メイリア、ブルーについてはお留守番だ。

 特にベルにはお留守番を言い渡されてがっかりしていた妹たちのご機嫌取りという重要な任務もある。


 往復で四日、調査で二日の計六日の予定となる。

 公爵の話ではルスト草の生息場所は特定できているが、そこまでの道中に魔物の巣があるとの事で戦闘に長けた面子で来ている。


「さてと、とりあえず日が暮れるまでにベースキャンプ地の準備を終わらせるぞ」


 バインズ先生は僕達に指示をする。

 こういった場所では、経験者の言を優先すべきだと思うのでバインズ先生に指揮はお願いしてある。

 その指示に従って僕達は準備を始める。


 王都までの道中に何度も野営をしてきた僕とは違い比較的王都の近くに住んでいた皆にとっては初体験に近い。

 四苦八苦しながらも少しずつキャンプは出来ていく。


 その中でも僕とバインズ先生は周辺への警戒を続ける。

 僕は適度なタイミングでサーチャーを使っての監視を行う。


 その度に少なからぬ生物反応を感知するが、その全てが魔物というわけではない。

 ただの動物や少し大きめな昆虫でも引っかかるのだ。


 なので定期的に使用する事で不穏な動きをする反応が無いか? を確認しているのだ。


「とりあえず、北に一キロの所に魔物らしき反応はありますが、まだこちらには気づいていないようです」

「そうか、夜間にこちらが火をつけた後の動きに注意だな」


 僕はサーチ結果をバインズ先生に伝え、バインズ先生が注意すべき点をまとめていく。


「こうやって、警戒するのも入学前の旅以来ですね」

「あぁ、そう言えばそうだな。……そうか、あれからもう三年半位経つのか。

 やれやれ俺も年を取るしお前も大きくなるわけだ」


 百五十センチに届きそうな僕の頭に手を置きながらバインズ先生は笑う。

 そんな先生に僕は笑い返す。


「僕にとっては何歳になっても、先生は先生ですよ」

「やれやれ、中身は俺よりも年上じゃないのか?」

「いえいえ、二十八歳で死んだのでバインズ先生の方が一歳年上ですよ」


 傍目からしたら十一歳の子供が大人と一歳違いだという奇妙な会話をしているように見えるだろう。

 そんな変な会話ができる……僕の事を皆が知っている。それが僕にとっては嬉しかった。


――――


「さて、明日からの調査だがフロントは俺とアインツ、レッドが固める。

 バックアップはユスティ、エル。

 ユスティは弓で、エルは魔法でのフォロー体制とする」


 夕食を食べ終わった僕達は焚火を囲んで明日からの調査について行動隊形の打ち合わせを行う。

 バインズ先生は拾った枝を使って地面に隊形の図を書き込みながら説明する。

 今回、五人だけに絞ったのはこの渓谷の地形が影響している。

 

 基本的に渓谷は細い道が複雑に絡み合う地形で、狭いところは横に二人が精いっぱいというところも多い。

 そのため、大人数では逆に戦闘の邪魔になるのでフロント三人、バック二人が最適とバインズ先生が判断した。


 少数精鋭で行くことにしたため、戦闘で劣るベルとメイリアは対象から外れた。

 二人にはこの時間を使ってある物を作ってもらうようにお願いしてある。

 出来るかどうかは不明ではあるけれどね。


 そしてバインズ先生が帯同・指揮するのでリスティも対象外となった。

 本当は現場指揮を経験するという意味でもどうするか悩んだんだけれどね。


 レッドとブルーについては、武器適正から幅をとる事になる盾術をメインとするブルーは残る事になった。

 狭い場所では盾術の特性を生かし切れない可能性があるからだ。


「寝ずの番についてだが、アインツとユスティ、俺とレッドの二交代とする」

「あれ? バインズ先生、僕は?」

「エルは、サーチャー使用で魔力を減らしているだろ? まずはその回復に努めろ

 エルの魔法がこの部隊の主力攻撃の一つだ。大群に囲まれた時に使えないは困るからな」

「そうだぜ、エル。それにお前は一応俺たちの主人だからな。ゆっくり寝ておけ」


 そう言って僕の肩をバンバン叩くアインツ。最近さらに体格が良くなって正直痛い。


「であれば、お言葉に甘えて。ただサーチャーをしてほしいとかあったら起こしてね」

「おぅ、了解!」

「三時間おき位に頼むことになるだろうが頼むぞ。エル」


 その夜は三時間おきにサーチャーを使うために起きるのだけど何事も無く過ぎていくのだった。

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