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破銃  作者: ネコパンチ三世
22区~繋がりと信頼〜
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裏切りの代償

「白い……制服……」

 カナは宇佐美の言葉を嫌でも思い出さずにはいられなかった。

 「白制服には近づくな」

 宇佐美がそう言った理由が今やっと分かった気がした。

 カナの足はその場に根を根を張ってしまったように動かなくなってしまった。


「ではこのお嬢さんともう一人の男がこの地区について嗅ぎまわっている、そういうことで間違いありませんか?尾長さん?」

 切島は尾長に尋ねた。穏やかに話しているはずなのに嘘を許さない圧力が言葉に含まれていた。

「はい……間違いありません……」

 尾長は弱弱しく答えた。

 カナはこの状況を信じられずにいた。

 頭には怒りや悲しみの前に疑問が浮かんできた。


「尾長さん……どうしてなんです?あなたは一度も通報したことがないはずですよね?」

 カナはからからに乾いてしまった口を動かしやっとの事で今の思いを声に出すことが出来た。

 尾長はうつむいたまま答える。

「もう借金が膨らんで……生活もままならないんです……」

 初めてここへ来た時のことを思い出す。

 尾長はすでに多額の借金を抱えていたのだ。

 悩んだ末に尾長は手っ取り早い返済方法を選んだのだ。

 人として最悪の道を。

 

「お父さん……?この人達は?」

 信織はこの状況を呑み込めていない。

 尾長に駆け寄り問いただしている。

 

 尾長はしゃがみ目線を信織に合わせた。

「信織、この人達はな……」

 苦しそうに尾長が言うよりも早く切島が答える。

「この、悪いお姉さんを捕まえに来たんだよ」

 切島がにこやかに笑う、眼鏡の奥の瞳からは人間的な温かさを微塵も感じられない。


「なんで?お姉ちゃん何にも悪いことしてないよ?」

 何も答えない尾長ではなく信織は切島に聞いた。

「してるんだよ、そうお父さんが教えてくれたからね」

 切島には気遣いは無かった。

「お父さんが?違うよね?お姉ちゃん何にも悪いことしてないよね!?」

 信織は尾長の肩を揺らしながら涙ながらに訴える。


「信織……このお姉ちゃんはな……悪い……人なんだよ」

 尾長は唇をかみしめて、絞り出すように言葉を放った。

 それが娘にとってどれほど残酷な言葉かを知っていながら。


 その様子を満足げに見ていた切島はもう十分楽しんだという顔をしている。

「まあなんにせよお嬢さんには一緒に来てもらいましょうか、もう一人の男も直に来るでしょう。あなた方二人はここでその男を迎えてあげなさい」


「了解しました」

 切島は兵士二人に命令を出した後にカナの方へ向かって来た。

「宇佐美さ……」

 カナはとっさに繋で宇佐美への通話を試みようとしたがそれを切島が許すはずもない。

 カナの腕は切島に掴まれ引き上げられた。

 あまりの力にカナの表情が苦痛にゆがむ。

「繋ですか危ない危ない、あなたには少し大人しくしておいてもらいましょうかね」

 切島は注射器を取り出しカナの腕に迷いなく突き刺した。

「何をして……!」

 カナは言葉が出なくなり、体中の力が抜けた。


「安心してください麻酔ですよ死にはしません、意識だけを残してその他の自由を奪うだけです。では行きますよ」

 カナは腕を引かれ連れていかれそうになる。


「やめて!お姉ちゃんを連れて行かないで!」

 切島の足元に信織が絡みついた。

「信織やめなさい!!」

 尾長は必死で信織を止めようとする。

 そんな尾長を兵士が取り押さえた。

「お姉ちゃんは、優しいんだよ!」

 尾長の呼び止めにも答えず切島の足を信織は放そうとしなかった。

「放しなさい」

 切島はにこやかに話しかける。 


「今日だって、一緒に外に出かけてくれたし、お父さんのプレゼントだって一緒に選んでくれたよ!」

 切島の言葉は信織の耳に届くはずもない。

「聞こえなかったかな?放しなさい」

 徐々に切島の顔から笑顔が消えていく。

「頼む、信織やめてくれ!!」

 尾長の言葉ですらもう届いてはいなかった。


「だから……だから……お姉ちゃんを連れて行かないで!!」

 そう信織が言った次の瞬間だった。

 空気が一瞬にして凍り付いた。


「うるせえなぁ……」

 切島はゆっくりと信織が掴んでいる足を振り上げる。


「やめ……!」

 尾長の言葉よりも早く信織の体は吹き飛ばされていた。

 音を立てて壁に信織が叩きつけられる。


「放せって言ってんのがわかんねえのか!?くそが!優しくしてりゃ調子に乗りやがって!」

 切島は先ほどまでとは別人のような口調になっていた。

 語気は荒くもはや殺意を隠す気もないらしい。


「信織!信織!」

 尾長は兵士たちを振り払い信織に駆け寄り声をかけながら抱き上げる。


「う……」

 信織は静かにうめき気を失った。

 額からは赤い線が一筋流れた。


「生きてたか、まあいい俺の邪魔をした罰を与えないとな。そのガキはそれなりの死に方をしてもらうガキをよこせ」

 切島の伸ばした手から尾長は信織をかばうように遠ざけた。


「なぜですか!?通報する代わりに私たちには危害は加えないと言ったじゃないですか!」

 尾長は怒りに震えながら切島に言い放つ。


「そのつもりだったんだけどなあ……残念だったなぁ尾長おまえのしつけが悪ぃからだよ」

 切島がにやりと笑う。先ほどの顔とは違う猟奇的な笑顔だ。

「切島……!がっ……」

 切島につかみかかろうと立ち上がった尾長の腹に切島の拳がめり込んだ。

「ってことで親子ともども来てもらう」

 尾長は地面に倒れこんで動かなくなった。


 切島は一つ大きなため息をついた。

「では、この三人を車に運んでください。後は先ほどの指示どうりに」

 切島の表情は元に戻っていた。

 先ほどまでの切島は何だったのだろうか?

 どちらが「本当」の切島なのだろうか?

 カナは薄れていく意識の中でそれが疑問に思えて仕方なかった。

「はっ!」

 兵士二人がカナ達三人をてきぱきと縛り上げ車に押し込む。

 地面に落ちた信織のプレゼントが切島に踏みつぶされた。

「では行きますか」

 カナ達を乗せた車は走り出した。



 兵士が二人で尾長の部屋を物色している。


「さっきの切島さんやばかったよな」

 机の引き出しを開けながら兵士がぼやいた。

「ああ、あんだけ切れたの久々だったぜあの親子間違いなくえぐい死に方するぜ」

 もう一人の兵士はタンスをあさっている。

「あの女の子もか、悪くなかったんだけどな」

 

「まぁ仕方ねえさ、この町について嗅ぎまわってたんだからな」


「そうだよなぁ、ってか連れの男早く来いよめんどくせぇ……切島さん切れるとやべえからちゃんと仕事しねえとなぁーめんどくせ」

 ほかの区に比べ兵士たちが働いていたのは切島の恐怖による支配のためだったのだ。

「直に来るだろ、おっ!高そうなネックレスだな」

 一人の兵士が机の引き出しの中からネックレスを見つけ眺めている。

「マジかよ!」

 もう片方の兵士がそう言った時だった。

 入り口の方で音がした。


「やっとか待ちくたびれたぜ」

 兵士は大あくびをした。

「お前がとっ捕まえろよ俺もうちょいあさるわ」

 

「わーったよ」

 兵士は手をぽきぽきと鳴らした。


 足音が近付いてくる。

 尾長の部屋の扉が開いた。

 いまこの宿で電気が付いているのはこの部屋だけだったため宇佐美は迷わずこの部屋にたどり着けた。


「遅えじゃねえかこの野郎!」

 兵士は今までの不満を宇佐美にぶつけた。

「ここにいた、親子と女の子はどうした?」

 宇佐美は兵士に低く無感情に尋ねる。

「教えてやるから一緒に来てもらおうか!」

 兵士は宇佐美の放つ殺気に全く気付かない。

「もう一度聞く、誰がどこへ連れて行ったんだ?」

 これが最後のチャンスだという事がこの兵士は分からない。

「答える義理はねえな、どうせあいつもお前も死ぬんだからなもちろんあの親子もな!」


「いいからてめえは黙ってこいって言ってん……あ」

 兵士の額には銃口が押し付けられていた、この兵士は目の前の男が放つ殺気に死ぬ直前にしか気付けなかった。

「時間の無駄だ」

 銃声が響いた。


「おいおい、いくら何でも撃つのはまずいだろぉ~」

 呑気に机をあさっていた兵士の隣にさっきまで話をしていた同僚の死体が転がった。


「へ……?」

 兵士は恐る恐る後ろを見た。

 額に銃口が突きつけられた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」

 兵士は机に寄り掛かった。机が無ければ恐怖のあまりこの兵士は地面にへたり込んでいただろう。

「時間がないから一度だけ聞く、誰がどこへあの三人を連れて行ったんだ?頼むからこれ以上撃たせるなよ」

 宇佐美の表情は冷たかった。

 この兵士は先ほどの兵士よりも利口だった。

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