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破銃  作者: ネコパンチ三世
22区~繋がりと信頼〜
7/32

裏切りはひっそりと

「今日も暑いね、少し休もうか?」

 隣を歩いている信織にカナは声をかける。

 朝の涼しさはすっかり陰を潜めいつものような猛暑日になっていた。

「ううん大丈夫」

 信織はどうやら暑さよりも初めて見る町に熱中しているようだ。

 見るもの全てに目を輝かせている。


 カナにとっても初めての物ばかりでカナ自身少し浮かれていた。

「お姉ちゃん!次あそこに行ってみようよ!」

 信織は大はしゃぎしながら走り回っていた。

 あまりの喜びようにカナまで楽しくなってくる。


 二人は色々な場所を回った。

 博物館では壁に描かれた二人の太った男の人が取っ組み合っている絵を見たが二人には何をやっているのかよくわからなかった。

 大きな塔の下には水族館があり魚たちがたくさん展示されているらしかった。

 二人は町を大いに楽しむことが出来たようだった。

 それらの観光施設は高すぎて二人には入れなかったが。


「そろそろお昼にしよっか」

 宿で作ってきた簡単な弁当を公園で広げる。

 涼しげな風が吹き抜ける。


「いただきまーす!」

 二人で声を合わせ食べ始める。

 晴れた空の下と公園を吹き抜ける風はいつも食べている食事とは一味違う美味しさを二人に感じさせてくれた。

 食べ始めて少ししてから信織が箸を止めた。

「お姉ちゃん、今日はほんとにありがとう」

 信織はカナに向かって頭を下げた。


「全然いいよ!私も楽しかったし、でも信織ちゃんの方こそわたしでよかったの?ほんとはお父さんと来たかったんじゃないの?」


「うん……あっ、でも今日はほんとにたのしかったよ!」

 思わず信織の口から本音がこぼれた、すぐに申し訳なさそうに視線を落とす。

 だがカナには信織の気持ちが十分理解でき加えて幼いながらも自分に気を使ってくれる信織がカナにはとても可愛らしく思えた。

 静かにカナは信織の頭を撫でた。

「そうだよね……お父さんと来たかったよね」


「でもお父さんはお仕事忙しいしそれに……」

 信織は少し言いよどんだ。

 これを言って良いものか悩んでいるようだった。

 だがカナなら話しても大丈夫だという結論に至ったらしい。


「お父さん、いつも夜になると部屋で泣いてるの」

 それは信織にとってとても辛いことだった。

 父が悲しんでいるのに自分には何もできなかったからだ。

「泣いてるの?どうして?」


「分からないけど、お母さんがいないから寂しいのかも……」

 ますます信織は悲しそうな表情になる。

「そっか……信織ちゃんも寂しい?」

 もし仮に尾長が信織の言う通りの理由で悲しんでいるとするなら信織も寂しくないはずがない。

 カナはそう考えたが返ってきた答えは予想に反するものだった。


「ううん、お父さんがいるから寂しくないよ!」

 信織にとっての心の支えは唯一父だけだったのだ。

「お父さんの事好きなんだね」

 信織の表情はいかに父の事が好きかを雄弁に語っていた。 


「うん!大好き!お姉ちゃんもお父さん好きでしょ?」

 カナは信織が誰の事を言っているのか分からずに首を傾げた。

「お父さん?」

 思わず聞き返す。


「あの、一緒にいたおじちゃんがお父さんじゃないの?」

 どうやら宇佐美がカナの父親だと思っているらしい。


「あはは残念だけど違うよ」

 宇佐美が自分の父親だったらと考えるとなんだかカナは無性に笑えてきた。

 ほんとにそうだったら嬉しいのになとカナは思った。

「でも、仲良さそうだったよね?」

 信織は顔が似てると言った外見の特徴ではなく『親子と思ってしまう何か』を二人に感じていた。


「うん、おじちゃんはね宇佐美さんって言うんだけど私の世界を変えてくれた人なの、それにね一緒にいるととっても安心するんだ」

 言葉にしてからカナはハッとした。

 今まで自分が宇佐美に言い知れぬ安心感を抱いていたことに今気付いたのだった。

「お姉ちゃんも宇佐美さんもとっても素敵だね!」

 カナの様子を見ていた信織はニコニコと笑っている。

「素敵?良いこと言うなぁ~信織ちゃんは~」

 カナは信織をくすぐった。

「お姉ちゃんくすぐったいよ~!」

 二人でくすぐりあい笑う。

 カナは自分に妹がいたらこんな感じなのだろうかと考えていた。

 食事を済ませ後片付けを始めると気付くともう時計の針は二時を指していた。

 後片付けをしていると信織がカナに尋ねた。

「お姉ちゃん、最後に一緒にプレゼントを選んでほしいんだ」

 

「プレゼント?お父さんに?」


「うん、お父さんいつも頑張ってるから……いいかな?」

 申し訳なさそうに信織は言った。

「もちろん!一緒にお父さんを喜ばしちゃおう!!それから私には遠慮なんかすること無いんだからね!」

 カナは信織に自分といるときだけは我慢してほしくなかった。

「ありがとう!お姉ちゃん!」

 片付けを終えた二人は二人は足取りも軽く町へ向かった。





「私は何も分からないですね」

 宇佐美の目の前の男は無感情にそう言った。

「そうですか」

 頭を下げその場を後にする。

 宇佐美は町の中心に位置する通りにいた。


 地道な情報収集は空振りが続いていた。


「ったくどいつもこいつも……」

 宇佐美は疲れ始めていた。

 何十人もの人間に聞き込みをしたが誰に聞いても言葉こそ違えど意味合い的には同じ事を言った。同じ過ぎて宇佐美はまるで機械と話しているような錯覚に陥りそうだった。

(カナたちは、大丈夫だろうか……何もないといいが)

 そんな心配を抱えながら宇佐美の足は酒場へと向かっていた。

 酒場には多くの人と情報が集まっている。

 

 ガセ情報も多いがたまに馬鹿にできない情報が転がっていることもある。


 酒場のドアを開け、店に入る酒場特有のアルコールとたばこの混ざった匂いが鼻をつき喧騒が耳に飛び込む、宇佐美は酒場が最初は苦手だったが慣れてしまった。

 いつからかは覚えていないが。


 宇佐美は適当な席を見つけ座り、周りの会話に耳をすませる。


 聞こえてくるのは、どこでも同じ内容だ。仕事への不満や上司の愚痴に未来への不安そして生活の苦しさ等どこでも人の悩みや不満は大体同じだ。


 カウンターに座っていた男が大声で高らかに自慢しているのが聞こえた。

「この前、通報したらよう統括官様がちょうど視察中でな直々に褒められたんだぜ」


 その会話を聞き、宇佐美はそっとその男に近づいた。


「今の話をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」

 大柄な男は酔いが回っているのか酒臭い息を吐きだしている。


「なんだお前?」

 男はあからさまに敵意を見せたが宇佐美は落ち着いていた。

「この区に来たばかりで分からない事ばかりなんだ、良かったら先輩としてこの新参者に話を聞かせてくれないか?」

 こういった時の宇佐美は口が格段と上手くなる。

「まあいいぜ、何を聞きたいんだよ?」

 宇佐美の言葉に気を良くしたのか男は機嫌が良さそうだ。

「統括官様の顔や特徴だ、会った時にしっかり挨拶しないとな」


「真面目そうな人で眼鏡をかけてるからぱっと見はそんな風には見えないけどな、でも他の兵士がへこへこしてるのと制服で分かったんだよ白い制服を着てたからな」

 ここから男は声を潜めた。

「あとは何といっても目だな」

 

「目?」


「ああ、人を何人も殺してる目だったよ……鈍い俺でもわかるくらいだからな」

 男は誰かに聞こえていないか怯えていた。

「分かった、ありがとう」

 宇佐美は席を立つ。


「そういえばあんたはなんで腕章をつけてないんだ?」

 男を見ると腕章をつけていない、酒場に飲みに来ているならば付けてきて代金を半分にするのが普通では無いのかと宇佐美は思った。

 男は頭をひねる。

「腕章?何のことだ?」

 男は不思議そうに自分の腕を見る。

「通報した奴だけが付けれるっていう腕章だよ」

 昨晩の尾長の話を思い出しながら宇佐美は男に尋ねる。

「あれか!あれは通報したことないやつが付けてるものだぞ?誰だそんなデマをお前に教えた奴は?」

 笑っている男とは対照的に宇佐美の顔からは表情が消えた。


「なんだと?」

 宇佐美は体の奥が冷え込んでいくのが分かった。


「通報した奴がもらえるのはこのカードだよ」

 男の言葉を聞くや否や宇佐美は酒場を飛び出していた、その男がカードを取り出すよりも早く。


 宇佐美は宿へ向かう人混みがうっとうしく思え中々宿へ着かないのをもどかしく感じていた。

 だが何よりも宇佐美は自分のうかつさを腹ただしく感じずにはいられなかった。



「お姉ちゃん、今日はほんとにありがとう!」

 丁寧に包まれたプレゼントを持って信織は満足そうな表情を浮かべる。

「気にしないで、それよりお父さん喜んでくれるといいね!」

 

「喜んでくれるかなぁ……」

 

「大丈夫だよ!信織ちゃんが一生懸命選んだんだから!」

 信織が一生懸命悩んで選んだプレゼントは尾長を必ず喜ばせるだろうとカナは確信していた。

「うん!」


 二人で夢中になって選んでいたからか、もう日は落ちてしまっていた。


 宿に着き玄関を開ける。そこには、うつむく尾長と兵士が何人かいた。

 兵士たちはカナたちにゆっくりと近づいてくる。


「へえー結構かわいいじゃん」

「こんな子がねぇ……俺は悲しいよ」

 兵士たちは下卑た笑いを浮かべカナたちを取り囲んだ。

「なっ……なんなんですかあなたたちは!?どういう事ですか尾長さん!」

 尾長はカナの問いには答えなかった。その代わりに静かに目をそらした。


「その辺にしておきなさい」

 奥から白い制服を着た男がゆっくりと姿を現した。

 その男は人を殺してきた数を目で語るような男だった。


「初めまして、第22区統括官の切島洋平といいます」

 切島はにっこりと笑う、信織の笑顔を見慣れていたカナにとってそれは生理的に受け入れがたい表情に感じた。

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