始まりの銃声
初めまして!ネコパンチ三世です!
この作品には一部残酷な表現があります!
では、破銃始まります!
雨が降っている、罪も血も優しさも記憶すら流れてしまうような雨が降っている。
雨の中に男が二人。一人の男がゆっくりと銃をもう一人の男に向けた。
悲しい音が響いた。
男はひとりになった。
ここにあるのは、銃と死体と空っぽになっていく自分だけだった。
2222年 5月22日 首都 東京 22区 はずれの町
「おい! さっさと酒運べ! この役たたずが! それから便所も掃除してねえだろ!!」
丸々と太った店主の怒声が店に響いている。
「ごめんなさい! 今やります!」
華奢な体で二十キロはあろう酒樽を必死に運ぶこの少女の名はカナといった。
彼女は、今から十八年前にこの酒場の前に生まれてすぐに捨てられていた。
それを、この酒場の前店主が保護したのである、彼はカナを実の娘のように育ててくれた、しかしカナにとって優しさや幸せといった言葉は六歳を境に遠く遠くへと消え失せてしまった。
店主が病で急死し、この店を買い取ったのが現店主の山瀬利一だった。山瀬は利益を最優先とする経営方針を取りそして人件費を削ろうと目を付けたのがカナだ、山瀬はカナを奴隷のように働かせそれと同時にカナで日ごろのストレスを解消するようになっていた。
小さなミスも必要以上にとがめ怒鳴り散らし手をあげることも少なくなかった。山瀬は人のミスを見つけることに関しては天才的だったといえた。
そんな生活が七年続いた。
入り口の鐘が鳴る。
新しい客がきたようだ。
「おい、カナ!! ちんたらしてねえで、早く客を案内しろ!!」
山瀬は店の奥にあるテレビの前に寝転び動こうとはしない。
「は、はい!」
カナは掃除の手を止め、入口へと急ぐ。
この時の衝撃をカナは忘れる事は無いだろう。
2222年は地球温暖化が進んでいた。
五月でも平均気温は二十五度を超えることはざらで現に店の温度計は三十度を指し示していた。
にもかかわらず男は黒のトレンチコート着こんでいた。
顔は疲れ切りそして寂しげな眼をしていた。
カナが今まで見たどの大人とも違う目だった。
カナは始め声が出せず、今まで何百と繰り返した質問ができずにいた。
男の見た目に驚いただけではない、この質問はしてはいけないような気がした。
静かに汗が背中を伝っていくのが分かった。
我にかえったカナはそんな動揺を隠すためにあえていつもよりも元気に声を出した。
「いらっしゃいませ! おひとりですか?」
カナの無暗に元気な声が店に響く。
「ああ」
そっけなく男は答えた。
「今はカウンターしか空いておりませんがよろしいですか?」
「大丈夫だ」
席へ案内しようとするとカウンターの一番隅の席にさっさと行ってしまった。
男は席に着くとただ一言
「水を一杯頼む」
と言った。
カナはここでいつもの悪い癖を出してしまった。
「水だけですか? 疲れているようなので何か召し上がっては?」
男は少し驚いているようだった。
「ありがとう、でも今は腹がいっぱいなんだ」
そう言って男は少しだけ笑った。
それは不器用な笑顔に見えた、まるで久しぶりに笑ったような。
「あ、そうなんですか私余計なことを……ごめんなさい」
カナは頭を下げた。
すると男は首を振って言った。
「君は俺を気遣ってくれたんだろう?なら謝る必要は何もないさ、その優しさに誇りを持ってくれ」
それきり男は黙ってしまった。
そんな言葉をカナかけてくれたのは今まであった大人の中にはまずほとんどいない。
カナはこれ以上ない喜びを胸にその場を後にした。
それから少しして、国の役人がやって来た小ぎれいな軍服を着こみ、白髪頭を掻きながら店に入ってきた。
「おーう山瀬、相変わらず繁盛してんなぁさすがだぁ」
山瀬の肩に手をまわしにやにやと笑っている。
「いえいえ、北山さんのおかげですよ」
つられて山瀬もにやにやと笑う。
役人の名は北山と言いカナの住んでいる22区の管理官の一人だった。山瀬の横暴さは北山が来るとすっかり隠れてしまう。
「あっ! そうだ北山さん、これこの前のお礼です」
そう言って山瀬は北山に重そうな袋を渡す。
「おいおい、よしてくれよ~お礼をもらうために仕事してんじゃないんだからさぁ」
北山はしわの刻まれた顔をゆがめて笑いながらしっかりとお礼を受け取っている。
十八年前、カナたちの住む国は大きく変わった。
「警察」というものが無くなり、住んでいる地区ごとに、「軍隊」と「管理官」そして「統括官」が配備された。しかしこの「軍隊」は治安を守るどころか仕事すらしていないのがほとんどで、仕事中の賭博、飲酒はもちろん軍隊に与えられた「支配権」を使って、市民に対する暴行などをして楽しみ犯罪行為も「お礼」でもみ消している。
席に着き、二人はお酒を飲みながら日々の愚痴をこぼしあう。
いつもと変わらない何気ない光景だ。
「そういえばよぉ山瀬、お前『破銃』って知ってっか?」
程よく酒の回った北山が唐突に話し始めた。
「なんですかそれ? 聞いたこともありませんね」
山瀬は首を傾げた。普通に生活している分には聞かない言葉だった。
「なんでもよぉ、どんなもんでも壊せる銃なんだと、んでもって必ずウロボロスとか言う蛇のシンボルがはいってんだとそいつを探せって命令が来てんだよ」
大きな声で話しているため嫌でも話が聞こえてしまいカナは少し呆れていた。
軍がほかにもやらなければならない事がたくさんある事は誰にでもわかる。
「大変ですね、そんな命令聞くのも」
山瀬は酒の入ったグラスをカラカラと回しながら答えていた。
「だろ? それで昨日も残業させられてよ、あー思い出したらイライラしてきた、おいあのガキ借りんぞ?」
北山が立ち上がりカナの方へ歩き出した。
「どうぞお好きなようにただあんま店壊さないでくださいね、直すの金かかるんで、あと代わりの補充おねがいしますね」
山瀬の声がカナには遠くに聞こえた。
カナは逃げようとしたが遅かった。
北山の足が降りあがる。
直後、カナの腹に衝撃と激痛が走った。
「が……はっ……」
内臓を全て吐き出しそうな痛みにカナは立っていられず地面にうずくまる。
「やっぱ、イライラしたらなんかに、あたんねーとな!」
北山は倒れたカナをを踏みつけ笑っている。
視界が霞む。
(私……死ぬのかな……)
カナの考える力が弱まってきた頃だった。
男がこっちに来るのが視界に入った。先ほどのトレンチコートの男だった。
男は北山と正面から向き合う。
「なんだ、お前? ヒーロー気取りか? ああ!?」
すっかり酒が回り気の大きくなった北山が叫んだ。
「その子は優しい子なんだ、もうその辺でやめないか?」
北山に全く臆することなく男は柔らかに言った。
「はぁ? 止めるわけねえだろ?こーゆうガキはこうやって使うのがのが正しい使い方なんだよ!」
カナを踏みつけ更に足に力を加える。
「もう一度だけ言う、やめろ」
先ほどとは違う空気を纏った一言だった。
「ハイハイ分かった分かった……」
そう言って北山はカナからゆっくりと足をどける。
それと同時に北山は腰の拳銃に手を伸ばした。
「お前みたいな偽善者が一番嫌ぇなんだよ!!」
そう言って北山が銃を抜くより速く男の銃から弾丸が放たれていた。
弾丸は北山の頭だった『もの』を熟したトマトを握り潰すように簡単に吹き飛ばしその中身を店中にまき散らした。
目の前に広がる新しい世界と男の手に握られた蛇の刻まれた銃を見ながら、カナはさっきの話を思い出していた。