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第七話 生まれ変わる

レンガはどうしていいか分からなかった。

4人は本来天界にて生まれ変わり、その上で、また人界に生まれ変わるべきだと地界のものから教えられた。

だが、地界にはその仕組みはない。地界では、人界での存在を保ったまま、いつか吸収されていく。それで新しい何かとして生まれるが、それではいけないと皆が告げた。


『レンガ。お前がいつ天界に戻っても良いよう、我らはあの階段を地界に生んだ。それを通ってお前たちはここに来た。再び階段を登り、人界へと戻すが良い』

「今、人界に戻すとどうなるのだ」


『記憶を保ったまま、人として産まれるだろう』

その言葉に、レンガは瞬く。

人として、また生まれ変わるのか。ならそれで良いのではないか。


『新しく産まれるというのに、記憶を保ったままでは良くない。とはいえ、そもそもエサでもない者たちが地界に降りてくることなど滅多とないのだがな』


***


休みたいと言っていた女が、地界に同化を始めだした。

その様子に、地界のものたちがざわめきだした。本来、この魂のまま生まれ変わるべきだからだ。


「休んでいるところ、すまないが、聞いて欲しい」

レンガが、地界の皆の心配を代表して声をかけた。

「あなたは、人界で生まれ直すことができる。本来、あなたはそうあるべき。このままでは、あなたという枠組みが消えてしまう。まだ間に合う。人界に、連れて行こう」


返事はない。目を開けないので、聞いているかも分からない。

レンガはそっと女に触れた。注意しないと、その身体は脆く、触れることで崩してしまいそうだった。

「地界に同化するのでも、私は良いと思っている。あなたがそう望み、それほどに休みを求めているのだから。だが、皆があなたを心配している。今なら、まだ、人界に戻れる。記憶を保ったままになるが、もう一度、あなたのままで、生まれ直せるそうだ」


女の口の端がわずかに上がった。聞こえていたらしい。

それから、女は緩やかに目を開いた。

レンガのためにオレンジ色の灯がある。レンガは息を飲み、心配で集まっていた地界のものたちが驚き後退しようとした。


女はぼんやりと様子を見ていた。満足そうに笑み、また目を閉じた。

「わたしに、できることが、あるのなら・・・」

女は呟く。

「あぁ、とても、よく、休めた・・・とても静かに。満足したの」

女は、曖昧になっている輪郭のまま、そっとそっと、身を起こした。

「私、この場所が、とても好きよ」


レンガたちは無言で女の言葉を聞く。彼女は、このまま地界にいる事を選ぶのかと、そう思った。


「私。でも、やり直せるなら、そうさせて」

レンガは驚いた。確認した。

「人界に、戻るのか。良いのか」

「えぇ。本当に。有難う。やり直したい、ことが、あるの。だから」

『では、早く』

地界の誰かが急かした。女の身体の状態は、正直良くなかった。動くたびに、境界が溶けるように見える。


「ねぇ、他の人も、そうするの?」

「いや、あなたが一番危うかった。他はまだ」


「連れて行くの、手間でしょう? ありがとう。他の人にも、尋ねてみて」

「・・・」


「私たち、本当にお世話になったと、思う。そろそろ、お暇を、しないと、いけないのね」

「・・・迷惑とは思っていない!」


「えぇ。だから、本当に、優しい、素敵な、場所だった・・・ねぇ、私、さっき、目を開けたのよ」

『知っている。見たのか』

地界の誰かが尋ねた。


ゆるやかに立ち、揺れるように歩みながら、女は笑む。

「見たわ。見た。ねぇ、私、悲鳴なんて、上げなかった、でしょう。ふ、ふふ」

ヘビのゼクトレイユが、グィと女の前に頭をもたげた。

『階段をとても登れぬ。乗れ。子どもたち、この者を支えろ』


「目を、開けて良い?」

『開けぬ方が良い』


「とても、残念だわ」

女が言った。

「でも、仕方が無いわね。私、一番初めに、悲鳴を上げてしまったわ。ごめんなさい。でも、見たいわ」

『我輩たちも傷つきたくないのだよ』

ゼクトレイユがそう言った。


子蛇たちに誘導されながら、大蛇ゼクトレイユの背に乗った女は、

「そっか。なら、やっぱり見ない」

どこか寂しそうに、曖昧になった手でその背を撫でた。


***


大蛇のゼクトレイユが、女を背に乗せて階段を進み始める。崩さぬように慎重に。


レンガは慌てて、他の3人のところにそのことを知らせに行くことにした。


***


地界が慌ただしく動いている。


三頭一体の大グモが、三頭で幼い子を大切に抱えて大慌てで階段へと走っていた。

『レンガ!』

『この子には我らから話をした! 戻ると言った!』

『我らは見守ると言った! 我らの分身を常にこの子の傍に!』

「天使さま」

幼い子が、抱えられながら、レンガを探して腕を伸ばした。

距離があったので、レンガは黒い翼で器用に飛び、宙からその手を握った。

「ぼく、行ってきます」

「! 分かった」

レンガは驚きながら、頷いた。


どのように話をしたのだろう。けれど、幼い子はしっかり決めているらしい。むしろ期待をしているようでフフフ、と笑った。

「色んなものがあるって、教えてもらった。ぼく、次は大人になりたい。剣を持って戦うんだ」

『剣は危ないから十分注意しな!』

蜘蛛の一頭が走りながらそう言う。

「大丈夫、ぼく、強いもん」

『あぁ、そうだ、強く大きく育っておいで』

『バッタバッタと、悪人どもを切ってこい!』


随分物騒な事を教え込んでいるな、とレンガは少し眉をひそめた。

「やみくもに切り捨てることを教えてくれるな」

『やれやれ。このような時は天界人だ』

『しかし、確かに。お前が悪人になってしまっては、もう会えぬ。お前は喰われたいのか? 嫌だろう?』

「嫌だ!」

幼い子が叫ぶ。


『ならば気を付けろ。善人でなくて良い、悪人にはなるな。我らに喰われぬようにな』

「戻ったら褒めてくれる?」

『あぁ、そうとも。褒めよう。また戻れ。エサとしてではなく、訪問者としてな』

クフフフ、と、幼い子が期待に笑う。


『レンガ。ここは任せろ。お前は他の者に告げに行け』

「分かった」

レンガが手を離すと、幼い子が目をつぶったまま、手を振った。

「バイバイ、レンガ」

「・・・さようなら」


レンガは切なくなった。

次にこのように会えることは、きっとないと思ったのだ。


人は、幼いか死期が近くないと、天界人も地界のものも見ることができない。レンガが傍にいても見えない。

そして寿命が尽きたなら、普通は天界人がすぐに迎えに行く。次は、天界に行ってしまうのだろう。

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