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第五話 七人目の死

「あなたは天の御使いではないのか。天国を否定するなど」

人の王はレンガに疑わしそうな眼差しを向けた。


その時、真っ白い聖堂の中、後ろの方で、コトン、という小さな音がした。

ヒュっと風を切って自分の傍を何かが駆け抜けた。

何だ、とレンガが音に意識を向けた一瞬で、目の前の王がのけぞり、倒れた。

レンガは身を震わせ息を飲んだ。


人の王が、聖堂の中で一本の矢に胸を射抜かれたのだ。

サラサラという、布のこすれるような音がした。音の方に目を向けると、翻ったのか、衣服の裾が見えただけ。人の王を射抜いた犯人は、早々にこの場から姿をくらましていた。


「ゴブッ」

人の王が、口から真っ赤な血を吐いた。泡になる。

「ウゴ、ッグ、ゴ、」

呻きながら、苦しんでいる。白い場所に赤色が落とされていく。


人の王は自らの胸に刺さった矢を抜こうとするのか、矢を握る。

「ゴ」

そのまま、力尽きた。


レンガは茫然としたまま、その光景を見つめていた。

人の王が、亡くなった。ただし、彼はレンガに、最後の願いを口にしなかった。


天から、ピィーっという高い音が聞こえた。

先ぶれの音だ。亡くなった者を迎えに、天界人が現れるのだ。


レンガは喉を動かした。ぐ、ゴク、と、自分の喉が動く。

それから、自分が1年間持ち運んでいた保管箱を両手で掴んだ。


「皆、よく、聞け」

レンガは、初めて遭遇した亡くなり方への動揺を抑えられないままの声で、それでも告げた。

「これから、人の王を迎えに、天界人が、ここに降りてくる。ついて、行きなさい。人界にとって、憧れるのは、天国は、」

話しながら、震える手で保管箱の扉を開く。ふわりと6人が光を放った。


サァっと部屋に光が満ちた。

「黒。汚れ。レンガ」

かけられた声にレンガは顔を上げた。上空に、真っ白な翼を広げて、天界人が現れていた。その後ろに、天界への入り口が開いている。真っ白い光がそこから差し込む。

「汚らわしい。視界に入るな。黒がこちらにまでうつる」

天界人はそう言って笑った。

レンガは喉が張り付いたように感じた。なにをされるか分からない。緊張で身が引き締まる。


「人の王よ。迎えに来た。さぁ、早くこちらへ」

天界人が、人の王の身体から浮かび上がってきた光に手を差し伸べる。

その光が近づいたのを見て、天界人が上を向く。天界に連れて戻るつもりだ。


レンガは、その光景を凝視しながらも、両手で保管箱をすこし揺すった。

かすれた声になったが、小さく、告げる。

「天界が、良いのなら。今、早く行って」


反応を確かめるため、レンガは保管箱に目を落とした。

ふわり、と保管箱から光が舞い上がった。

愛する妻と息子の元に行きたいと願った老人だ。

レンガの前で少しとどまった後、急ぐように突然スピードをあげて、目の前の光の帯の中に飛び込んでいく。


もう一つ、光が保管箱の外に出る。

十分生きたから連れて行けと笑った男。

レンガの目の前を、ウロウロと八の字をかくように動き、それから目の前でじっとレンガに向かって止まっている。挨拶を、しているのかもしれないとレンガは思った。

それから、スゥっと光の帯に向けてスピードを上げて飛び込んでいく。


それから・・・。

「早く」

レンガは残りに言った。

出てこれないのか。

レンガは保管箱をゆすり、残る4人を箱から出してやった。


レンガの場所に行きたい少女が、ピタリとレンガの肩に張り付いてきた。

自分は地獄に落ちるべきだと自嘲した青年が、動きの止まった保管箱の中に、自ら戻った。

レンガを見て怯え、来るなと泣き喚きながらついてきた幼い子は、レンガの手の平の中に潜り込もうと張り付いてきた。

休みたい、と呟いた女性は、出された場所から動かず、迷っているようだった。


「早く。戻ってしまう。早くついていけ」

レンガが告げると、女性だけがやはり迷ったようにうろうろと動いた。

そして、消えてしまった光に諦めたように、ふわりと保管箱の中に戻っていった。


静かになった聖堂。

人の王の亡骸はまだ白い中に赤い血を流しているが、彼はすでに天界へ昇っていった。


白い中にポツリと落とされた汚れであるようなレンガは、

「どうして」

と呟いた。

「私に連れて行けるのは、地界だ。そこなら、連れていける。だが、それで、良いのか」


2人は保管箱に落ち着いている。

少女は肩に、幼い子は手のひらにすり寄ったまま。


『仕方あるまい。1年を超えると限界。レンガ、決断しても良い頃だ。連れて行くならそれで良い』

フィルトレンの分身が、レンガに助言をした。


レンガは少女と幼い子を手のひらにし、保管箱にそっと戻した。

残った4人に告げた。

「私にとって、地界はとても優しい。私は天界で生まれた。だが見てのとおり私のすべては黒い。白の天界では受け入れられなかった。私を受け入れたのは、地界だ。天界人である私を、地界は受け入れた。・・・もし天界であれば。決して、地界生まれのものなど、受け入れなかっただろう。私はそう思う。天界とは私にとって、そういう場所だ」


レンガは、レンガの場所に行きたい少女に向けて言った。

「私の場所は地界。だから、地界に連れて行こう。天界で笑う事が出来なかった私に、笑顔をくれた場所だ」


次に、自分は地獄に落ちるべきだと自嘲した青年に向けて言った。

「人界でいう地獄とは、地界を意味しているのは間違いない。ならば、願い通り、連れて行こう」


レンガを見て怯え、来るなと泣き喚きながらついてきた幼い子に、

「私に怯えたのに、私の方が良いのか?」

そう確認しながら少し笑む。

「怖いなら、目をつぶっていればいい。大丈夫、皆、見た目は怖く思うかもしれないが、中身はとても優しい存在ばかりだ」


休みたい、と呟いた女性に、

「天界が良いというなら、ここに留まっていると良い。あなたはまだ2ヶ月ほどしか経っていないからまだしばらく問題ないはずだ。天界に最も近いと言われるこの場所、天界人がよく来ているはず。ついていけばいい」

女性は保管箱の中で少し揺らぎ、迷う様子を見せつつも、保管箱から浮かびあがり・・・けれど、また保管箱の中に戻った。

「・・・地界で良いのか? 本当に?」


『天界人の様子が、堪えたのだろう』

フィルトレンの分身が、静かに話した。

『理想に反する態度を間近で知ってしまったのだ。少なくとも数か月以上、この者たちはお前と共にいた。誠実に悩んでいたお前を見てきた。そんなお前へあのような振る舞いがなされた。お前の方が信用に足ると判断するのに十分だ』


「だが、二人は天界に」

真面目に尋ねたレンガに、フィルトレンが教えた。

『一人は、妻と息子がいる場所が天界だから行ったのだ。一人は、天界が通常行くべき場所であるから行ったのかもしれぬ。定かではないが』


レンガは保管箱に視線を戻した。まるで返事のように、4人それぞれがふわりと光った。


レンガは決めた。

真っ黒い翼を大きく広げる。

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