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自称

俺は皐月さつき 願人がんと

魔術師の名門、皐月家の失敗作だ。

姉や弟は生まれながらにして凄まじい魔力量と魔力管を備え、類稀なる才能を持っていた。

対して俺は平均より遥かに劣る魔力量。魔術の源となる部分が致命的なまでに不足していたのである。

このせいで幼少の頃から家畜小屋のような場所で一人暮らしをさせられていた。たまに父が来たと思えば罵詈雑言の嵐。母にいたっては会ったことすらない。

だから俺は魔術師としての才がないのならと、勉学に集中した。

結果を言えばこれに関しては平均より上であったものの、飛び抜けてできるものでもなかった。

今日で俺は十八歳になる。レイネス魔術学院を最低ラインでギリギリ卒業。

父の方針で皐月家から追放され、縁も切られることになった。

正直なところ清々しい気分だ。

あんな陰湿なところにこの先も変わらず居続けたらいずれ精神が崩壊する。そこだけは父に感謝している。そう、そこだけは。


「さて、どうすっかね。特にやりたいこともないし金もない」


今いるのはとある神社の社の前。文字通り、神頼みをしに来たところだ。


「まあ、生きることに執着もないしなあ。いっぺん死んでみるか。生き返らないけどな」


すでに彼の精神は壊れている。幼少の頃より当たり前のように練習台にされ、実験に使われた体はとうに魔術的な部分はボロボロで、使い物にならない。

なぜ命が残っているのかと聞かれれば、単純に魔力管の本数が百一万本あったから。と答えるだろう。

平均的な魔力管の本数十本、多くて三十本というところだ。

これを知れば明らかに彼の異質さが分かる。しかしながらこれらも魔力がなければ全く使えず、存在する意味を成し得ない。

結局のところ、いくら導線があっても電気自体がなければ意味がないのと一緒ということだ。


『君の命、僕が貰ってもいいかい? と言っても、異界に君をぶん投げるだけという簡単なことだけど』


「誰だ? にしてもずいぶんと可愛らしい声してるのな」


『僕はレイネス。術神レイネスさ。それと、僕はそぉーんな軽い女じゃないから口説けると思ったら大間違いだよ』


「さすがに姿形が分からん女の子を口説くほど飢えてないから。それはどうでもいいとして、お前がレイネスって本当か? 神なんて迷信の類だと思って全く信じられないんだが」


術神レイネス。

魔術界の中で崇められている最高神の名だ。その名の通り、すべての魔術の根源を生み出した神と言われている。


『正真正銘、僕は君ら魔術師の崇める、とぉってもキュートな神だよ!』


キャハッ☆ などと言っている奴を誰が神と信じられようか、いや、信じられない。わりと当たり前のことだと思う。


「んで、俺の命が欲しいって話、さっさと進めてくれないか? 一応神ってところは少しだけ信じるからさ」


『なぁーんか、とぉっても腑に落ちないけど。うん、そうだね。話してしんぜよう』


一発殴りたい。

この神ちょっとイラッとするなあ、俺だけかね。


『んじゃあーあ、君を異界に、異世界にスローイングしちゃうぜ、ぜ? ぜ!? ぜぇ!! では早速、レッツ、スローイングゥ!!』


天井知らずとも言える謎のテンションで狂ったようにシャウトする自称術神。誰がどう見ても異常な彼女に願人はドン引きである。

と、思った途端に彼の体は浮遊感に見舞われる。


「な、体が浮いた? 浮遊魔術なんて高位の魔術師にしか......」


『だぁーからぁー、術神なんだこれくらい呼吸するくらい簡単なの!』


だんだんとガキ臭く感じてきた自称術神に対し呆れ始める願人。

とはいえ浮遊魔術を容易く使えるあたり、ひょっとしたらひょっとするかもしれないと思ったりもする。


『じゃあ改めてぇー......レッツ! スローイングゥ!!』


そんな馬鹿らしい掛け声とともに俺の意識は瞬時に吹っ飛んだ。


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