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前編


 「美男子落ちてこい。 メガネクール系、筋肉熱血系でも構わん。 この際ヤンデレでもあり」


 腰まで下がる長い黒髪、東洋人の女性が白目で眩い太陽が昇る青空を仰いだ。 セーラー服姿に背中へ背負っている大きな杖がアンバランスに見える。


 「リュウさん、いきなり何を言っているのです。 とうとう脳ミソに蛆でも湧きましたか?」


 隣のマントとフードで全身を覆い隠した男性が、リュウと呼んだ女性から少し距離を取り、口汚い罵倒を浴びせた。 声からしてやや若い印象を受けるだろうか。


 「うるさいわね。 願望が口から洩れただけじゃない」


 「……」


 マント男の、麗しき女性の概念が崩れた。 いや、そもそもこのリュウと共に過ごしてから、彼の女性に対する見方という物は既に滅茶苦茶破壊された後だ。

 今みたいに男欲しい男欲しいと、アホみたいなことをそばで言われ続け、しかも下ネタ好き、人前でオナラをこけば「オホホ!」とわざとらしい高笑いで誤魔化すのだから、その内ブッ飛ばしてやりたいと考えている。 因みにリュウは男欲しいと言うが処女だ。

 恐らくこのふざけた性格が原因だろう。


 「引くんじゃない。 大体これはアンタのせいでしょ」


 「そうやって人のせいにするのは止めてくれませんか。 あと唾が飛んでます、汚ねぇ」


 ことの発端は昨日、二人が旅の途中に寄った小さな村の話し。 訪れた時、偶然にも魔物達の襲撃を目撃したリュウは村人からお礼を頂くため──ゲフンゲフン、ではなく助けるために全て蹴散らした。

 金銀財宝をジャイアニズムで頂き、そんな二人の強さを見込んだ村長は更にある依頼を申し出たのだ。


 「オラん達の村ぁ、最近魔物達のボスに狙われてるんだぁ。 それは返さなくて良いから懲らしめくんねぇ?」


 「やる必要が無いわね。 さいなら」


 「バカなことを言うのは止めなさい」


 マント男が後ろからリュウの頭を叩いた。 衝撃により彼女の顔が地面に突き刺さり、彼は後頭部を踏みつける。


 「貴女、其処らにいる悪魔より外道ですよ」


 リュウはマント男の脚を退け、無理矢理顔を引っこ抜くと元気に立ち上がった。


 「こんな可愛い娘に外道って何よ。 大体、私は命懸けないといけないから、それなりの対価は用意して貰わないとやってられないわ。 マジ正論!」


 「そこで私達は、と言わない辺り根性悪さが滲み出てますね」


 「…ちっ」


 「何処見ているんですか。 そして舌打ち止めなさい」


 「私には関係ないもーん」


 「関係ないとかそういう問題じゃありません。 貴女、人でなしすぎます。 自分を大切にしすぎ、もう少し自身を嫌いになりなさい。 そんなことだからモテないんです」


 「モテないとか言わないでよ!」


 「おや、ここまで言ってまだ反発しますか。 どうしようもない人だ、そんな状態が続けばいつまでも願いは叶いませんよ」


 「お、おのれ…っ」


 結局、マント男の圧力により人助けをすることになったリュウ。 何故、彼女が彼の言葉でいうことを聞いたかといえば、それが彼女の姿によるアンバランスを説明することにもなる。

 リュウは生前、普通の女子高に通う普通の女の子だった。 まぁ、今と変わらぬふざけてる性格ではあったため、ちょっと…変わっていたと言うのが正しいか。

 ある日、通学途中でイケメンを見つけた時のことだ。 完全なタイプであったため、なめ回すような視線でイケメンを凝視していた彼女だったが、なんと相手の社会の窓が全開で開いていることに気付き。


 「やっべえええ! イケメンのパンツ見えそうじゃねぇかあああ!」


 魂の雄叫びを上げて、イケメンのパンツをこの目でしっかり見ようと急速接近。 しっかり堪能してから教えて、あわよくば御近づきになろうと企んだ。

 友達の静止も聞かず、グヘヘとスマホカメラのシャッターを構えながら走り、トラックが曲がろうとしているにも関わらず横断歩道をダッシュで入った彼女は案の定轢かれてしまった。 あまりにもアホな末路。

 その後、リュウの最後を見た友達は口を揃えてこう言う。


 「幸せそう顔で轢かれた」


 次に彼女が目を覚ました時、そこは天国で神様がいた。 神様が言うには本来は死ぬはずでは無かったが、いきなり死の運命に飛び込んで来たのだからかなり驚いたらしい。

 神様もビックリな死に様だった。 本人はテンプレテンプレと呟き対して悲観的になっていなかったが、代わりに凄く図々しい対応を取る。


 「美少女にしてチート逆ハーレム出来るような世界で好き勝手させろ」


 考えることが女性のものではない。 神様としてもこんなぶっ飛んだ人間に力を与えることはあまりに危険だと理解している。

 故に、一つだけ叶えてあげるから残りは善行積んだら叶えてあげると交換条件を出した。 …善行なのに自身の為にとは、果たしてそれは善行と呼べるのか。

 仕方なくリュウは知識タイプのチートになることを選び、異世界へ転生して行ったが、やはりどうしても不安な神様は自分の友達を一人送り、彼女の監視を任せたのである。 その人物こそマント男だった。


 「では村長、詳しく教えて頂けませんか? 私達ならお助け出来るかもしれません」


 「本当かぁ! ありがてぇ、ありがてぇ。 実はな、近々村で狩りの祭りが始まるんだがぁ────」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 村長から事情と魔物の住みかを聞いた二人。その足は鬱蒼とした森に入る。リュウはサンドイッチにパクつきながら、道を塞ぐ草木をファイアボール(小)を常時放出、自然を蒸発させていく。完全に魔力の無駄遣い、彼女に立ちはだかる物は全てジュウジュウ。


 「思えば、貴女の監視を任されてから苦難の日々」


 マント男が私を恨めしそうに見る。 何よ、このサンドイッチは私のだからね。


 「2才にして惚れ薬で成人男性を落とそうとした時は驚きでしたよ」


 ああ、そんなこともありました。 それくらい可愛いもんじゃない。 ていうか、サンドイッチ欲しいわけじゃないんかいっ。


 「可愛い? 貴女本当に自分のこと理解してます?」


 「ちょっとドジな普通の女の子」


 「この前、魔術の実験に失敗して大陸が消滅しかけたのは誰のせいですか…」


 いやいやいやいや、あれは米を食べようと巨大釜戸作ろうとしただけだし。 消滅とか有り得ないしー。

 こっちの世界だと粉物主食がパンかパスタだから、久しぶりに他の穀物も食べたいんだよね。 アイスはやってみたら意外といけたけど、どうやら私の魔力コントロールが影響しているみたい。

 アイスは氷結だけだが、米だと一気に複雑で難しくなる。 流石米。 農家さん、私はアンタらを尊敬する。

 日本人の魂。 ソウル・ライス。

 ソウル・ライス、結構良い名前ね。 今度の必殺技にはこれにしようかしら。


 「貴女、魔力量が化け物染みているんですから威力も馬鹿にならないんですよ」


 この前、自称魔王とやらを一撃で倒したのが後引いてるらしい。ファイアボールで魔王城が蒸発したのは流石にヤバかったかしら。


 「それとリュウさん、あれは本気ですか」


 本気? 何の話しよ、米か?


 「違います。 魔物のボスを倒したら村一番の美男子を貰うという話しですよ」


 それね、本気も本気。 もうその為に頑張っちゃうくらい本気。

 だって念願の美男子よ! こんなカスみたいな任務で美男子手に入るなら私、死んじゃっても良い!

 いや…流石に死ぬのはもう嫌か。 とにかく美男子だ美男子だ! ヒャッハー!

 何をして遊ぼうかな、やっぱり18禁的なグッヘッヘ。


 「犯罪臭がします」


 隣で陰険野郎が何か言っているけど、無視無視。 いよいよ私の美しき処女を捧げる美男子が手に入るのだ。

 その後の目標もある。 更にもう一人美男子を手に入れて美男子同士の禁断の愛を仕立て上げるつもり。

 主人に飼われている同士、けして結ばれない恋! あぁ、なんて素晴らしいのかしら!


 「今度は腐った臭いが…」


 はいはい無視。 そうこうしている内に獲物…じゃなくて敵のアジトに着いた。

 入り口には魔物のオークが二匹見張り番しているけど…あんなブスにエロ同人誌みたいなことはされたくないわ。 無理やりなら美男子のヤンデレ系に決まり。

 これ、宇宙誕生から決められた法則。


 「見張りがウザいわね。 仕方ない──いけ! マント男、たいあたりだ!」


 「ブッ飛ばしますよ!?」


 「ちょっと! アンタが大声出すから見張りにバレちゃったじゃない!」


 「その前に貴女が叫んでました…!」


 ほらほら、そう言っているとオークがこっちに来た。 やはり此所は美少女リュウちゃんが圧倒的強さでやるしかないみたいね。

 セーラー服のスカートに手を突っ込んで、バスケットボール台の黒い爆弾を取り出す。 導火線には火が吹き出ており、隣で見ていたマント男は気味が悪そうな様子で後ずさった。


 「いつ見てもそれの取り出しには慣れません」


 「スカートだと色々隠せて便利なのよ」


 「最初見た時は、うんこかと──」


 「それいけー!」


 轟音と共に燃え上がる前方。 二匹のオークは黒焦げに撃退出来たが、入り口は爆弾の破壊力で崩壊してしまい、中に入ることは出来なくなった。 おっ、オークはぴくぴくしている。まだ死んでないようね……ちっ!


 「どうするんです。 これじゃあ手も足も出せませんよ」


 「大丈夫大丈夫。 それは向こうも同じだし」


 「まさか貴女、あれで解決したとか言わないですよね…」


 え、駄目かしら。


 「外にまだ味方がいれば脱出も出来ます。 そうなれば奴らは村に報復するでしょう」


 「うわ、面倒くさ。 ねぇ、アンタがどうにかしてよ」


 「なんで俺が…」


 アンタ、私より魔術使え無いけど、馬鹿力だけは無駄に凄いじゃない。 こう、小石を退かすように、崩壊した岩を取り除いてね…。


 「誰じゃあああ! 儂のマイホームを崩落させた奴はあああ!」


 少し離れたところで蜥蜴型の魔物が現れた。 背中には黒い羽、黒い尻尾が這えており、その手には大量の果物が抱えられている。


 「あの羽、悪魔ですね。どうやら出掛けていた最中だったようです」


 「んなこと分かってるわよ。 それより最悪のタイミングで現れたわ」


 「悪魔さん、悪魔さん。 この人が犯人ですよ」


 何あっさりバラしちゃってるの、この毒舌マント! アンタ一体誰の味方!?


 「貴女は一度痛い目にあったほうが良いです。 …ついでに俺のストレス解消になりますし」


 本音は後者だろおおお!


 「仕方ないわ! こんな事もあろうかと新必殺技を用意しているから!」


 「さっきのうんことは違うんてすか?」


 うんこうんこ言うな! その内マジでうんこ投げるわよ!


 「必殺っ! ソウル・ライス・ビィィィム! 説明しようソウルライスビームとは高圧縮に耕された魔力の塊を108分割しでんぷん質を発生させネバネバとした特殊性を持たせると無数のビーム擬きとしてマッハ2の速度と共に打ち出すリュウの新たな必殺技なのである相手は死ぬ」


 「ぐあああああ!? ネバネバするー!」


 「弱い!?」


 どやぁ。 相手が弱いんじゃない、私が強すぎるのよ! 流石天才魔法少女である私、見事に蜥蜴悪魔は断末魔を上げて瀕死状態だ。 ネバネバのせいで身動きも取れないようだし、トドメはそうねぇ…。


 「後はアンタに任せたわ」


 「ちょっ、嫌ですよ! あんなにネバネバしているのに!」


 あ、そういえばアンタは馬鹿力だけはあるけど、逆に殴ることでした攻撃出来ないんだったかしら。 私より役に立たないわね。

 やっぱり戦闘は魔法ブッパが最強よ!


 「待ってくれ! 降参だ!」


 「頼む! お頭を殺さないでくれ!」


 悲痛な声が私達や悪魔とは違う方向から聞こえる。 見れば羽やしっぽが生えていない普通の蜥蜴が沢山集まっており、膝ま付いていた。


 「どうやら、この悪魔の子分みたいですね」


 マント男の言う通りだろう。 身動きが取れない悪魔は諦めたようにガックリと頭を垂れる。

 何か、想像していたよりアッサリ解決したうえ、潔い連中ね。


 「お前達、あの村に雇われて退治に来たんだろう?」


 悪魔は静かに口を開く。 話も通じそうじゃない、マント男と違ってアタシ好きよん。


 「あら、よくわかったわね」


 「村特有の強い訛りがない。 すぐにわかった」


 ああ、なるほどなるほど。


 「それで? 雇われているからって何よ、まさか見逃せとか言わないわよね」


 「その、まさかだ…。 俺達を助けてほしい」


 「まぁ、なんてことでしょう。 人様に迷惑をかけといて助けてほしいなど」


 思った通りである。 おほほ! 片腹痛いわッ!


 「それは誤解だ話しを聞いてくれ!」


 おやー、面倒そうな展開になってきたわね。 子分達の言葉に蜥蜴悪魔は一喝するような声をあげるが、何やら事情がありそう。

 尚も懇願するような目で私を見る。 キラキラうぜぇ、こっちみんな。

 あの腹黒マントを見なさい。


 「お前達見ただろう、村で始まろうとしている祭を」


 「そういえばそうねぇ、年に一度の狩り祭とか言っていたかしら?」


 狩りという言葉に苦虫を口に含んだかのよう、険しい表情を浮かべる子分達。 まさか、これは…。


 「その狩りの対象というのが、俺達のことだ」


 あらー。 超めんどくさいぞー?

 

ムシャクシャしてやった。

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