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今までのお話

 すべての始まりは、ママが鏡台に置き忘れたピンク色の口紅だったの。それを見付けた私が、お化粧の練習をしようって考えたのは、そんなにおかしいことじゃないでしょ? だって、私は八歳で女の子なんだから。

 でも、そのせいで大変な事になってしまったの。あの時、ハロルドが体当たりしてきたのは、きっとそうなることがわかってて、私を止めようとしてくれてたんじゃないかしら。ハロルド? 私のペットで、あなたたちと同じ白い子兎よ。ジロー坊ちゃまには話したけど、私は彼を探してるの。それと、ママの口紅もね。

 とにかく、私がママの口紅を使おうとしたとき、それが起こった。鏡の中の私が鏡から逃げ出して、私はそれっきり鏡に映らなくなったの。それから、ぐにゃぐにゃになった鏡がクラゲになって私に絡みついて――ハリー、口を挟まないで。ショクシュプレイってなに? いいえ、説明しないで。あなたが言うことなんだから、どうせエッチなことに決まってるわ。


 目が覚めると私は窓の無い石の部屋に寝転がっていたの。口紅が無くなって、ハロルドもいなくなった事に気付いたのは、その時ね。部屋の中には、魔法使いみたいな恰好のおじいさんがいて、彼は私にこの懐中時計をくれたの。ええ、見た目は普通の銀の懐中時計ね。でも、これは魔法の懐中時計で、鏡の前で蓋を開けると大人に変身することができるの。どんな仕組みなのかはさっぱりわからなかったけど、使い方を勉強した私は部屋を追い出されて、このお屋敷にやって来た。

 最初に私を出迎えたのは執事のジェームズさんで、彼は私が口紅とハロルドを探してると知って、あなたたちのお父様のラビーノ伯爵と奥方様に引き合わせてくれたの。彼らはとても親切にしてくれたけど、それは私をここから逃がさないためのお芝居だったのね。そうとは知らずに私はお屋敷の探険を始めて、あなたたちに出会った。私はジロー坊ちゃまに協力して、おやつのケーキを割り当てよりたくさん食べた犯人を突き止めて見せた。そして、ジロー坊ちゃまと私は友だちになった。

 私の影が、私と同じようにお屋敷を探検して回ってるのを見つけたのは、そのすぐ後。影って言うのは、鏡から逃げだした私のことよ。地面にできる黒いのも影だけど、鏡に映る姿も影なんだって。私は伯爵様の寝室に彼女を追い込んだんだけど、私はジェームズさんに邪魔されて寝室に入ることが出来なかった。そこで私は、ジロー坊ちゃまの知恵とサブロー坊ちゃまのネズミを借りて、ジェームズさんにイタズラを仕掛けることにしたの。私はジェームズさんの前に来たところでくるりと背中を向けて、しゃがんでからスカートに隠したネズミの瓶を取り出した。

 なあに、ハリー。ネズミがうらやましい? ねえ、サブロー坊ちゃま。このエッチな天使がギリギリ入るくらいのガラス瓶、余ってないかしら――無い? そう、残念だわ。ええ、そうね。余裕で入る瓶なら要らないわ。私は、彼がギリギリ入る窮屈な瓶が欲しかったの。

 とにかく私が、ジェームズさんから見えないように、そおっとネズミの瓶の蓋を開けると、ネズミは瓶から飛び出したわ。私、思うんだけど、ネズミって自分を嫌いな人を、ちゃんとわかってるんじゃないかしら。だって、逃げ込める穴ならそこら中にあったのに、あのネズミは、わざわざ私の頭を踏み台にして、ジェームズさんの足下に着地したのよ。きっとネズミって、誰かを驚かせたり怖がらせるのが大好きなんだわ。

 もちろんイタズラは大成功だった。ジェームズさんはビックリして、しばらくぴょんぴょん飛び跳ねてから、どこかへ逃げ出した。お屋敷の廊下に彼の悲鳴がずーっと響いてたから、よっぽど怖かったのね。そうして、私はついに影が隠れた寝室に入ることが出来たんだけど、あの子は寝室に置かれていた鏡を通って、まんまと逃げてしまったの。彼女が口紅を持っているって知ったのは、その時よ。


 私は影を追っかけて、キッチンの地下室へ向かった。でもシェフは、大事な食材があるからって理由で、私が地下室に入ることをすごく嫌がったの。たぶん彼は、地下室にあるものを見られて、私も食材の一人だって気付かれたくなかったのね。それで私は大人に変身して、ジェームズさんに雇われた使用人のふりをすることにしたの。作戦はうまくいって、私は地下室に入ることが出来た。でも、そこにいたのは影じゃなくて、天使のハリーだった。彼は私の影に騙されて、牢屋に閉じ込められてたの。その時、いつまで経ってもおつかいから戻らない私にしびれを切らして、シェフが探しにやって来た。でも、私が大人に変身していられる時間は決まっていたから、彼が見つけたのは大人の私じゃなくて、子供の私だった。シェフは恐ろしい鬼に姿を変えて、私をハリーと同じ牢屋に閉じ込めてしまった。私はどうにかして牢屋から逃げ出そうと頑張ったわ。だって、ハリーと一緒のお皿に、裸で盛りつけるなんてシェフに言われたのよ? そんなの、ぜったいにイヤだもの。でも、うまい方法は見つからなかった。それで、すっかり困ってるところに、やってきたのがジロー坊ちゃまだった。彼のおかげで私は大人の姿になって、ハリーを明り取りの窓から牢屋の外へ逃がすことができた。ハリーが天使の力でシェフをやっつけて戻ってくると、私もようやく牢屋から抜け出せたの。


 でも、地下室から逃げ出した私たちを、ジェームズさんは見逃さなかった。彼はドラゴンに変身すると、伯爵様と奥方の命令で私たちを捕まえようと、炎を吐きながら襲い掛かってきた。するとジロー坊ちゃまは恐ろしい怪物に変身して私たちを守ってくれたの。でも、ドラゴンはとても強かったわ。ジロー坊ちゃまは、ドラゴンの吐く炎で危うく丸焦げにされそうになった。その時、勇敢な子兎の兄弟たちがやってきて、ジロー坊ちゃまを応援し始めたの。ええ、もちろんあなたたちのことよ。彼らは、恐ろしい奥方の脅迫にも負けず、サブロー坊ちゃまの瓶を手に取って、それを一斉にドラゴンへ投げつけはじめた。瓶の中から飛び出したのは、もちろんネズミたち。ジェームズは見た目こそドラゴンになったけど、中身はやっぱりネズミ嫌いのジェームズだったの。彼は、子兎たちが投げつけたネズミ爆弾にビックリして、蛇みたいな頭をめくらめっぽうに振り回したわ。ジロー坊ちゃまはその隙を見逃さなかった。さっとドラゴンにお尻を向けると、後ろ足でドラゴンの頭にキックを食らわせたの。ドラゴンはひっくり返って床に大穴を空けると、伯爵様や奥方も巻き込んで、その中に落っこちた。そして、彼らは二度と戻らなかった。


 これで、この冒険はひとまずお終いよ。続き? そのお話は、まだ出来てないの。でも、最初と最後は決まってるわ。最後は、あの意地悪な影をとっ捕まえる。そして始まりは、この玄関の扉を開ける。さあ、ハリー、ジロー坊ちゃま。新しい冒険に出かけましょう。三人でね?

再び始まったマリーの冒険。推理と言うには物足りないかもしれませんが、眼鏡の少年探偵マンガのようにセリフが長くて辟易するのは保障します。

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