ツァイト
上をみあげれば、青い空。その青をもっときれいにしているのは、ぽつんぽつんとある、白いくも。
おひさまはきらきらとかがやいて、ことりたちはうたをうたう。
小さな国の、小さな村。
その村の、小さな家に1人の少女がすんでいました。
少女の名前は、ミリィといいました。
今日もミリィは森へでかけていきます。
森にあるたくさんの木、その木の中には実をつけるものがあります。その実はあまかったり、すっぱかったり、にがかったり……。その実をミリィはさがしています。
とった実はミリィのお母さんがおいしいジャムにしてくれます。そのジャムを売って、お金にしているのです。
お母さんのために実をさがしているのはもちろんですが、じつはミリィはお母さんのつくるジャムがすきなのです。
たくさん実をとってくれば、おいしいジャムがたくさん。
ミリィは今日も森へでかけます。
てくてく、てくてく。
ミリィの黒くて長いかみのけがゆれます。
てくてく、てくてく。
「あ、おいしそうな実だわ!」
歩いていくと、ミリィの目のまえには大きな実がなった、大きな木がありました。
きれいなえのぐみたいに赤く、ビー玉のようにきらきらしたその実は、ミリィをわくわくとさせました。
その実をとろうとミリィは手をのばします。
「うー!」
でも、ミリィの手は実をつかむことができません。
ミリィのせのたかさよりも実は上にあるのです。
「きっと、あの実はおいしいにきまっている。がんばってみよう!」
足のさきから、手のさきまで、がんばってのばします。
それでも、手はその実にとどきません。
ミリィはまだあきらめません。
こんどは、ぴょんぴょんととびはねてみます。
実にはすこしだけさわることができました。
それでも、実はとれません。
ミリィはまだまだ、あきらめません。
まえよりもたかくとぼうと力いっぱい、とびます。
でも、手は実にさわるだけでした。
「わ、わわ!?」
じめんに足をつけるとき、ミリィは木のえだをふんでしまい、すってんころりん、ころんでしまいました。
木をみあげると、そこに実はあります。ミリィの目にはちゃんと見えているのに、とどきません。
どうしたらいいのだろう、とミリィは下をむきました。
でも、そのときです。
「この実ですか?」
やさしそうなこえがミリィのあたまの上からきこえました。
こえがしたほうを見ると、そこにいたのはミリィのほしかった実をもった、かおのないにんぎょうみたいなものでした。
どんぐりぼうしに、はっぱのかざり。
ひとではないのは、すぐにわかりました。
ミリィはこえがでませんでした。
あったことのない、ふしぎなものに会ってしまったのでした。
かたまっていると、それはうつむいてしまいました。
「……ごめんなさい、おどろかせてしまいましたね。これはここにおいていくので、もっていってください」
ミリィの目のまえにそっとおかれた、赤い実。
そして、とぼとぼと歩いて森のおくへと、いってしまいます。
ミリィは赤い実を見ました。
どうやってもとることができなかった赤い実。ミリィがほしかった赤い実をとってくれたのでした。
(……やさしいんだわ)
「まって!」
ミリィは赤い実をかごにいれ、走りだして、そのもののうでをぎゅっとつかみました。
かたく、木のようなそのうでは、なぜだかすこしあたたかでした。
「ありがとう!」
ミリィがわらいながらいうと、こんどは実をとってくれたものがかたまってしまいました。ピクリともうごきません。
「……こわくないのですか?」
「どうして? だってあなたはやさしいでしょう?」
ミリィはつかんでいたうでをそっとはなしました。
「わたしはミリィ。よかったら、いっしょに実をさがすのをてつだってほしいな」
「……わたしは、ツァイトといいます。わたしでよければおてつだいしましょう」
「ありがとう、ツァイト!」
ミリィは左の手をツァイトにさしだしました。
ツァイトがその手をにぎると、ミリィはその手をひっぱって森のなかをすすんでいきました。
こうして、ミリィはツァイトというふしぎなともだちと出会いました。
それからというもの、ミリィは森にくるたびにツァイトに会いにいきました。
ツァイトもまた、ミリィが森にくるたびにミリィをむかえにいきました。