今のところ掌の上
いつの間にか1000PV到達しました。こう桁が増えるというのはなんとも言えない感触です。次の桁は大分遠いですがいずれ到達できたらいいな、と思う次第です。閲覧有難う御座います。
「本日はお招きありがとうございますっ」
ボクことエイシャ・アーカーは今現在フルエンス諸島領主であるところのガゼット邸に招かれている。豪邸というほど大きな建物でもなかったけど、飾るべきところは飾ってるしいいお家ですね。
正直な所目の前の美味しそうな料理を早い所食べたいところだけど我慢我慢。
「いやぁ、アーカーさんは領主様とも面識があったようで。その人脈を作る力、実に羨ましいですなぁ」
「ディエゴ殿。儂は彼と面識があるわけではないのだよ。ただ、ここ半年ほど島の噂になっている彼女たちの後ろにいるのはどんな御仁かと気になってな」
いかにも貴族っぽいテーブルに付いているのはボクを含めて5人。ボク、領主のダリオ様、そのご子息のフリオ様。それと商会長のディエゴさんと、その息子のフェルナンドさんである。ちなみに天井裏にリーズが待機中で、席にはついてないけど後にラグが控えている。この二人がいれば荒事はまず問題無いだろう。領主様ご家族については今はまだ目上なので敬称をつけておく。
「初にお目にかかります領主様。エイシャ・アーカーと申します」
「そんなに畏まらないでくれ。儂はそこまでされるような男ではないのだ」
「恐れながらダリオ様。ダリオ様の善政ぶりは大陸まで聞こえ及ぶほど。そのような方相手に礼を尽くさぬわけにはいかぬのです」
最初のお礼はともかくとして、きちんとした帝国式の挨拶をばっちりキメておく。ちょっとやりすぎな感じは否めないけど(現に領主様もちょっと引いてる)、変なことをして機嫌を損ねるよりかはいいだろう。
とはいえも少し肩の力を抜いて欲しいそうなので、ディエゴさんに目配せをして助けを求めてみる。
「アーカーさん、領主様もこう仰っておりますしもう少し肩の力を抜いてはいかがかな?」
ナイスアシスト!
「それではお言葉に甘えて。改めてよろしくお願いしますね、ダリオ様」
「色々と話したいこともあるが、冷めた料理を振舞っても仕方がない。まずは目の前のものを食べるとしないか?」
異議なしです領主様!
――――――
ごちそうさまでした領主様!
「さて、それでは本題に入ろうじゃないか」
「そうですね。まずはボクが呼ばれた訳からお聞きしても? ディエゴさんも一緒に呼ばれている辺りそこそこ重要なことだと推察しますが、そうなるとボクのような一個人が呼ばれる理由がありません」
「いやいや、そんな大仰な理由があるわけではない。先程も言ったが島で噂される龍人たちの後にどんな人物がいるのか気になっただけだよ」
うーん、警戒されてる……違うな。これから話すことを聞くに値するか試されている? どちらとも言えないか。生憎とボクは知識があるばかりで我が生徒たちほどその知識を使いこなせていないのだ、所詮は推測になってしまう。考えすぎず、言葉を額面通り受け取っておこう。
「ボクは大した人間ではありませんよ。彼女たちがただ優秀というだけです」
「そうご謙遜なされるなアーカー殿。ほんの半年でただの少女が一躍島の話題をかっさらうなど不可能だろう」
「そうでしょうとも。私の所で手伝いをしてくれた少女は歴戦の商人もかくやという働きを見せてくれましたよ。商売は本人の才能だけでは決して高みには至れませんからなぁ」
そこで今度は領主様のアシストしちゃうのか、ディエゴさん。しょうが無い、謙遜も過ぎると失礼だしね。
「それでは素直にお褒めいただきありがとうございます。と言わせて頂きます」
勿論、ここで話を終わらせたら言葉を言葉通りにしか受け取れない可哀想な人あつかいされてしまうので、しかし、と続ける。
「わざわざボクを褒めていただくためにここに呼ばれた、というわけではないですよね?」
口角を釣り上げて答えのわかりきった問いを投げてみる。正直な所まだるっこしくてしょうが無いのだ。なまじ識っているから余計にこういうのが煩わしく……と、いけないいけない。せっかくの異世界に来てまでこんなことを考えたくない。スマイルスマイル。
「その様子だと事情はあらかたわかっているようだがね」
苦笑を交えながら領主様は真剣な顔つきになり、続けた。
「うちのバカ次男が騒ぎ始めていてな。アーカー殿のところの彼女らが活躍しているということに腹がたってしょうが無いらしい。それだけならまだいいのだがな」
「領主様、続きは私から。島内でも一部のあー、なんといいますか」
「魔族区別派の、ですか?」
「そうそう、そういった者達が徒党を組み始めていまして。正直私の商会もその対応で取引どころではないのですよ」
ふむ、事前にリーズに調べさせた通りの状況みたいだな。狙ってやったとはいえここまですんなりことが運ぶとちょっと不安になってくる。それだけボクの教え子兼部下たちが優秀だということなんだけれど。
ともかくこの二人が言いたいことはなんとなくわかったので、ちょっと失礼だけどボク自身の口から要求を確認することにした。
「おとなしくしていてほしい、と」
「端的に言えば、そうなるな」
「領主様! 彼らに非はないと以前から申しておるではないですか!」
おお、ディエゴさんはボクたちのことを弁護していてくれたようだ。やっぱり良い人なのかな? それともボクに恩を売るつもりなのかな。どっちもか。
「わかっている。しかし現状では私にこれ以外の対策は無いのだ。声の大きい奴らは、一領主の手には余る。彼らがこの島に与える影響はあまりにも大きい」
これもリーズの調査結果だけど、『魔族区別派』――魔族を毛嫌いする人種のことだ――は、島の長であったり、商会の幹部であったり、或いは領主の次男坊であったり、権力を持っているのが殆どなのだ。老害め、なんて口汚く罵りたくもなるものである。次男坊は別におじいさんじゃないけどさ。
「ええ。彼らは声だけでなく持っている力も大きいですからね。ダリオ様が仰られるのも当然のことでしょう」
「アーカー殿、本当なら島で民のために働いてくれている君たちに恩賞でも授けなければいけないというのに、それと真逆の事をしてしまう私をどうか許してほしい」
「ダリオ様! ボクのような者に頭を下げないでください! それに許す許さないの問題ではありません、民の為を思う行動にむしろ尊敬の念が湧くほどです」
許す許さないでいえばボクはまず許すだろう。そもそも全く怒ってないし、なによりこうなることだって百も承知なのだから。当然手は打ってある。彼がせっかちならそろそろ動いてもいいと思うな。このタイミングで自体が動くのなら本当に上手く行きすぎて怖いくらいだけれど。
(せんせー、部屋に走って近づいてくる人がいるよ。多分執事さんじゃないかな?)
リーズから念話が飛んできた。因みにボクは魔力がないので念話ですら魔導具に頼っている。今使っているのは指輪型のものだ。
ものすごい勢いで扉が開かれ、扉を開けるための音と、勢い良く開けられた扉が壁に打ち付けられる音が部屋に鳴り響いた。
「アルベルト! 会食の場をなんと心得るか!」
リーズの予想通り部屋に飛び込んできたのは執事のアルベルトさんだった。白髪が素敵なナイスミドルだけど、今は走ってきたのか肩で息をしている。もう若くないんだから無理しちゃダメだと思うんだよなぁ。
「失礼致しましたっ! しかし、事態は急を要すると判断したためご報告に参りました! ダリオ様、ミゲル様が……」
顔を真っ青にしてアルベルトさんは絞りだすように叫んだ。
「ミゲル様が、商会の幹部と結託して反乱を起こしました! ロイユ島の邸宅を本拠として、島単位での反乱との情報です!」
おお、こわ。
護衛は寡黙なのでセリフ無し。
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