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我ら修行中①

累計ユニークが100を超えました。次は4桁を目指して頑張ろうと思います。

「ぐっ、テメ、何者……」


 最後の1人に一撃を食わせてやった後、いかにもな台詞を吐きながら倒れこんだのを見てアタシはせっかくなので実戦で言ってみたかった台詞を叫んでみる。


「よーっし、片付いたぜ!」


 フルエンス諸島近海上、行商船『ホーリー・メイデン号』の甲板に10人ほどの賊がブザマに倒れ伏していた。全員アタシの剣技で峰打ちにしてやった。

 その横で剣を柄に収めた赤髪をポニーテールにまとめた美少女(師匠がそう言ってくれた)がこのアタシ。異世界人エイシャ・アーカー師匠に鍛えられた炎龍のラグだった。


「しっかし師匠の言うとおりだったな、型を全部極めても実戦じゃそれ通りに動いてくれる敵なんていやしない。私はより実戦的な剣術を身につけられるってわけだ!」


 傍目で見ても引きつった笑顔で「え、もう全部覚えたの?」とか言ってた師匠を思い浮かべる。誇り高き炎龍のアタシがこれくらい覚えるのは別に大したことでもないと思っていたのでどうしてそんな顔をするのかもよくわからなかったしね。

 まあ師匠の教え無しに自分がここまで成長できたと考えるほどアタシはバカじゃないけどね。まあものすごい師匠とアタシのものすごい才能が噛みあった結果こうなったのだ……多分。


「……驚いたな。まさか海賊10人相手にこうも立ちまわってしまうなんて」


「おお、フェルナンドのあんちゃん、出てきちまったのか」


 本当に驚いているのだろう、目を見開いているのが今回の依頼主であるフェルナンドのあんちゃんである。その正体はアタシたちの住むゼノウ島に唯一存在する商会『ルザック商会』の次期当主フェルナンド=ルザックご本人だ。師匠がどうやって3ヶ月でコネを作ったのかすげー気になる所ではある。

 自分で言うのもなんだが、現在この世界でアタシたちみたいな魔族はあまりいい扱いをされていない。それは島の連中も同じはずなんだけどな……。


「いやー、アーカーさんから聞いた以上の動きだね。これだと賭けは僕の負けかなぁ」


「ん、あんちゃん師匠と賭けでもしてたのか?」


「あー、これ言わないように言われてるから教えられないんだ。ごめんね」


「おう! それなら仕方ないよな!」


 師匠が秘密にすることだ。きっと私が聞いても仕方がないようなことなんだろう。本人曰く『この世界のすべてを知っている』らしいからそんなことはいくらでもあるだろうと考えて、賭けの話は頭のなかから追い出すことにした。


「海賊の装備についてなにか聞いてるかい?」


「うんと、確か全部依頼主が持ってっていいって言ってたぜ。いらないものがあって、アタシが欲しいと思ったものは貰ってもいいとも言ってたかな?」


「太っ腹だねぇ。君たち、あの屋敷の維持にすら事欠いてた筈だろ? 正直今回の依頼料も破格だったし大丈夫だとは思えないんだけど」


「それはアタシがどーこーできることじゃないからよくわからないな! たぶんレイシアが上手くやるんだろーって思ってるけどな!」


 レイシアはアタシ達と違ってあの5人の中で唯一の龍神である。神様なんて魔王の側近やってた奴が行方知れずになってから歴史に現れたことがないなんて聞かされていたアタシは会った当初はものすごく驚いた。

 そんなレイシアは師匠からひたすら経営だの経済だのアタシが苦手なことを熱心に教わっていた。元々家計を計算していたのもレイシアだったのでそれも上手くハマったのだろう、教えてる師匠もニコニコしてたのが印象深かった。

 出された宿題を一晩で片付けて師匠に出したときはやっぱり引きつった笑みを浮かべてたけど。どうやら一週間分の宿題だったらしい。

 そんなレイシアがいるんだからまぁ金に関しては問題無いだろう、と勝手に思っているのでアタシは話を変えることにした。


「で、この後アタシの出番ってあるのかな?」


「んー、ここも海賊影響範囲のギリギリってとこだし多分行きに関してはもう無いと思うな」


「そっか、それなら船を見て回ってもいいか!? アタシ、実はこんなでかい船乗るの初めてなんだ!」


「そういうことならいいけど、荷物積んでるところには入らないでね」


「合点承知だぜ!」


よっしゃー、船の中を探検と洒落こんでやるぜ!

そう決めてアタシはとりあえず甲板から海を眺めるのを最初の目的に設定したのだった。



――――


「ふう、これで一息つけますね」


 このゼノウ島唯一の商会である『ルザック商会』の本館にある一室で私は息をついた。あの異世界から来たといったアーカー先生に元々興味のあった商いのイロハとそれに合わせて必要とされる知識を叩きこまれた私は今現在ルザック商会の手伝いをやっている。

 仕事内容は至って簡単で、売上と売れた商品、買った相手の資料から来月の仕入れを決める仕事だ。正直簡単とはいえないのかもしれないが、今の私には先生から授けられた知識があるため簡単な仕事にしか思えない。

 それにしても、仕入れの決定なんて商会にとってはかなり重要な事柄であるはずの事を何故私が任せてもらえたのだろうか。

 この世界では私のような魔族は人間からすれば差別の対象になってもおかしくない程の扱いのはずなのだけれど。

 そんなことを考えていると扉を開けて誰かが入ってきた。


「おや、休憩中だったかな。これはちょうどよかった」


「これはディエゴ様。どうしてこんなところに?」


 入ってきたのはこの商会の主、ディエゴ=ルザック氏だった。代々このゼノウ島で商会を開くルザック家の現当主で、本土の承認と比べても引けをとらないどころかその上をいくとも言われている傑物だ。


「いや、アーカー殿の紹介とはいえ君は魔族だからね。私個人としては信頼しているのだが部下がうるさくてな……。調子はどうかな?」


 彼の言うことは至極もっともなので私は特に気分を害することもなかったが、それと同時に紹介の主に魔族を信頼しているとはまで言わしめる先生は一体何者なのだろうな、などと考えた。

……いけない、ディエゴ氏から仕事の進捗状況を確認されているのだった。


「ええ、とりあえずひと通りの仕入れ予定は完成しています。それと……どうかしたのですか、そんな顔をして」


「い、いや。なんでもない。続けてくれ」


「では続けさせていただきます。片手間ではありますが売れ行きからお客様が欲しがっているであろう商品も別枠で仕入れるものに追加しましたのでそちらは別途確認して許可をいただこうかと」


「う、うむ」


 手元の書類を手渡すと一通り目を通した後に黙りこんでしまった。調子に乗って出すぎた真似をしてしまったのかと思ったがそういうわけでもないようだ。

 もう一度、今度はゆっくりと読みなおすと言われたので先ほどの考えを続けることにした。

 おそらく先生は私達に授業をしていた3ヶ月間、ゼノウ島の住民と仲を深めようとしたのだろう。客観的に考えると決して友好的な関係が築けるとは思えないのだけれど果たしてどんな魔法を使ったのだろうか。本人曰く魔法は使えないらしいが。

 どうやったらここまで仲良くなれるのかと考えていたら、書類確認が終わったようで再び声をかけられた。


「素晴らしい出来だ。正直うちの倅でも敵わないくらいだろうな。指定期間よりも早く終わらせてもらってこちらとしても嬉しい限りだ」


「そうですか。それでしたら残りの期間、私はどのように過ごすべきでしょうか?」


「君は知識も既に多く持っているしそれを実際に使うこともできているが……。私達商人としてある意味では最も大切な駆け引きについては少々疎いと思う」


 それは当たり前だ。ほんの3ヶ月前まで私はちょっと計算のできる魔族でしかなかったのだし、まして名のある商人のディエゴ氏からすれば私は商会の見習いよりも未熟に見えるに違いない。


「それでだ。その才能を活かすため、駆け引きについての私の経験を聞くつもりはないかな?」


 3ヶ月前なら絶対こんなことは言わなかっただろうな、と苦笑しながら聞かれた私は、一も二もなくその提案を受け入れたのだった。

5/26 改訂

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