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これからのこと

「ふあぁ……」


この世界にやってきてから二日目。ラヘンさんに用意してもらった部屋でいつも通りボクは眼を覚ました。

ふかふかとは決して言えない布団だけど、いざ起きようと思うと億劫だ。


ぶんぶん、と頭を振って意識を覚醒させる。

毎朝の癖でアクセスを開始……あれ?


「反応がないな、どうしてだろ」


いつもならすぐに出てくる情報が出てこない。やっぱり世界が変わると設定をしなおさなきゃいけないみたいだ。

それなら、と昨日あった面々の情報を調べようとする。


「おや、これも反応なしか」


前の世界にいたときは、人の名前と顔(絵なんかでも可能)を思い浮かべるとその人に関する情報が全部見れるというプライバシー保護法に真向から喧嘩を売ることが出来たんだけど、それも出来ない。おかしいな、ラヘンさんの情報はちゃんと手に入ったんだけど……って、あの時はそうか。条件が整っていたんだった。

 もしかしてアクセスできなくなったのかと思ってそれ以外の情報を検索すると問題なく頭に浮かんでくる。どうやら別の問題らしい。

 現状として、世界情勢の把握と人物情報の把握ができないと分かっただけでもよしとしよう。


「先生ー、朝メシだぜー!」


階下からボクを呼ぶ声が聞こえた。朝から元気だな、なんて思いつつベッドから出て向かうことにする。


「おはようございます、アーカー殿」


「おはようございます、ラヘンさん」


 部屋にはいるとまずはラヘンさんが挨拶してくれた。既に席についていた子どもたち5人にも挨拶をしてボクも席につく。

 それを合図にみんな朝食を食べ始めた。どうやら食事前の挨拶やお祈りは無いらしい。主に感謝を、と違う世界の神様にお祈りしながらボクも食べ始めることにした。あまり信じてはいないのだけど、習慣というのは怖い。


「ふぇんふぇーはふぉふぉふぁらふぃふぁんふぁ?」


「ラグ、口にものが入ったまましゃべるなんてみっともないですよ」


もごもごとしゃべるラグをユアンが軽く叱った。最年長というだけあってしっかりしている。ボクも先生として見習うべきだろうか?


 ごくんと飲み込んで再度口を開くには


「先生はどっからきたんだ?」


 とのこと。好奇心いっぱいといった感じに目を爛々と輝かせて聞いてくる。他の四人も気になっていたようで、食べる手を止めてこっちを見てくる。美少女五人に見つめられると照れちゃうじゃないか。


「ボクはね、こことは違う世界から来たんだ」


隠していてもしょうが無いから先に言っておくことにする。一瞬固まった皆を見かねてラヘンさんが口を開いた。というか初めて会った時に言ってあるんだから最初からフォローして下さいよ。


「おや、それは随分と遠くからいらっしゃったのですね」


「あ、そう思います? それとこのスープ凄い美味しいですね」


 なんとも言えない反応だったので適当に返してスープを褒めておいた。嘘偽りなくおいしいと断言できる。あと2杯は飲みたい。


 皆の反応といえばだけど――


「……スープの問題、じゃない」


 昨日のすまし顔とは裏腹に目を大きく開いたルドとか。


「そそ、そーだよ! 異世界人っていったらお伽話じゃんか!」


 ありえない、と言わんばかりのリーズとか。


「ふおお、スゲー人だったんだな先生!」


 さっきよりも更に目を輝かせたラグとか。


「……あの、冗談ですよね?」


 なにやらジトッとした目線を向けてくるレイシアとか。


「うふふ」


 と笑顔のまま固まっているユアンとか。


 それぞれが全く違う反応を見せてくれた。


「嘘じゃないんだけどな。上手く説明できないや」


 そもそも異世界なのに言葉が通じている時点で向こうからすれば信じられないだろう。アカシック・レコードの自動翻訳機能が異世界対応だっただけなんだけどね。超便利。

ラヘンさんはいい加減にフォロー入れてください。


「とりあえず、食べ終わってからお話しません?」


冷えたスープは、美味しくないからね。





「はい。それじゃあ授業を始めます。何か質問ある人?」


「ハイ! アタシ先生の話聞きたい!」


 お腹も膨れた所で教室に案内してもらおうとしたらこの部屋でやって欲しいと言われた。広い割に集まって勉強できるような部屋は此処くらいしかないのだそうだ。それってどうなんだろう。

 朝食を食べたテーブルの上を片付け、五人を座らせた前にボクは立っている。


「ラグ、いい質問だね。それじゃあボクの詳しい自己紹介といこうか」


「改めて、ボクの名前はエイシャ・アーカー。さっきも言ったけどこことは違う世界から来た人間だ。昨日も言ったけど魔法は使えないし武器のたぐいも扱えないからそこのところよろしく」


 現状の自分に関しての事を完結に説明する。改めて文に書くととんだ役立たずだ。と、別の手が挙がった。


「では先生は私達に何を教えて下さるのですか? 魔法や剣術などは実際に扱うものでなければ教えるのは無理だと思うのですが」


「全てだ。この世界の全てを教えてあげようレイシア」


 ここぞとばかりに自慢気な顔だ。こういう時は自信をもって発言するべきなのだ。


「仰いる意味がわかりかねますが」


「ボクはこの世界の全てを知ってる。例えば最上級魔法の更に上の魔法の使い方だとか、歴代最高と謳われた剣豪の秘伝とか。そういうのひっくるめて全部識っている。君等が教わり続ける限りボクは聞かれたことをすべて教えるよ」


最初はもちろん基礎からだけどね。と付け加えておく。


「……荒唐無稽なことを仰りますが嘘を付いている眼ではありませんね。わかりました、信じましょう。続けてください先生」


 そう言って彼女は椅子に座り直してくれた。信じてくれてどうもありがとう。後でみっちり知識を叩きこんであげよう。


「そんな訳で気になることがあったらなんでも聞いてほしい。それじゃ授業を始めるにあたっていくつか確認するけど、いいかな?」


「「「「「はい」」」」」


うんうん、良い返事だね。




 さて、授業の前に確認した所彼女らは実に優秀な生徒だとわかった。文字の読み書き、四則演算が既にできているのだ。これはラヘンさんのお手柄としか言い様がない。

 この世界の識字率は決して高くない上に、数字を扱う職でない限りは最低限の勉強しか許されないはずなのにこれだ。というか魔族でってことを加味すると相当ありえないことなんじゃないだろうか。


 しかし、ここでボクはラヘンさんが冗談交じりに言った魔王なったらどうか、という言葉を思い出した。空きはある、そう言っていたのだ。彼が魔王と関わりを持っていたのも事実だし、何かあったのかもしれない。詳しく彼の記憶を覗いたわけじゃないから実際のところはわからないけど。

 でも、ボクはこの世界でどうやって生きていくかまだ何も決めていない。今は成り行きで彼女たちを教える立場に就いているけど、成り行き故に自分からやろうと思ったからではない。

 それならいっそのこと、魔王でもやってみようかなということにした。彼女らを育てつつ親睦を深めて部下をやってもらえばいいのだ。なんせ龍族なんだから才能は折り紙つきだろう。知識的にもこれは間違いがない。


 当分の目標はこのフルエンス諸島の支配かな、なんて事を考えつつ、時間を確認。うん、そろそろ書き終わったかな?


「それじゃ、書き終わった人からボクのところに持ってきてもらっていいかな?」


 彼女たちには紙を渡した。それを2つに切って、自分の得意分野と苦手分野を書きだすように支持しておいたのだ。

 四則演算と読み書きができるなら、適性がある事を教えたほうがいいと勝手に判断したんだけど、魔王の部下というなら尚更だね。


「先生! アタシのヤツ見てよ!」


 どれどれ、ラグの紙を見る。苦手なこと、勉強。得意なこと、武器。得意なこと武器ってなんだ。


「この武器、っていうのは具体的にはどういうなの?」


「アタシ、剣でも槍でも弓でもなんでも使えるんだぜ! すごいだろ!」


 凄い。それはたしかに凄いことだ。これはもうあれだ。軍事担当決定。


「それじゃラグの授業は戦うことについてにしようか。目指すはすべての武器で世界最強だね」


「望むところだぜ!」


 よしよし、はい次の方どうぞ。


「……ん」


 ルドが差し出してきた紙を眺める。苦手なこと、運動。得意なこと、魔法。なるほど、典型的な魔法使いちゃんだ。軍事部門を魔法とそれ以外で分けるのもいいかもしれない。


「うん、ルドの授業は魔法についてにしようか。多分世界最強の魔術師になれるよ」


「ん、がんばる」


 ぐっ、と握りこぶしを作って席へ戻っていった。はい次。


「これ、意味あるのー?」


 意味はあるんだ、リーズ。まぁ書いてくれたからには見てあげよう。苦手なこと、空白。得意なこと、空白。


「……書いてないじゃないか」


「ちょーっと皆に見せたくないの! 耳かしてっ!」


 どれどれ、そこまで言うなら貸して差し上げよう。


「実はね、鍵をこっそり開けたりとか誰かの後をバレないようについていったりするの得意なんだ」


 なるほど。それはこっそり伝えたい訳だ。でもこれすっごく便利じゃないかな。諜報担当決定。


「それじゃあ、そっちの技術を伸ばしていこうか。得意なことは伸ばさないとね」


 小声でそう返しておいた。ちょっと驚いた後、嬉しそうに席に戻っていった。ほい次。


「次は私ですね。よろしくお願いします先生」


 ニッコリと微笑んで紙を渡してくる。苦手なこと、人の嫌なこと。得意なこと、面倒を見ること。彼女の物腰から大体わかるけど一応確認。


「この面倒をみる、って言うのはどういうことかな?」


「小さい子の面倒を見たり、困ってる人を助けるのが得意というか、そういうことができるようになりたいんです」


 うんうん。やっぱそんな感じだよね。よし内政担当決定。


「ユアンは聖系の魔法と、それと人を助けるための技術について勉強しようか」


 人を助けるための技術とは建築関連であり土木関連であり、政治的技術だ。何もしない王の代わりに辣腕を振るってもらおう。ククク。


「最後は私、ですか。どうぞ」


 えー、苦手なこと、無し。得意なこと、金銭関連。まごうことなき財政担当だなこれは。とりあえずは商人よりの勉強でもしてもらうか……。


「ああ、レイシアが家計の管理してるんだっけ。その延長で商人の勉強でいいかな?」


「かまいません……、ができることなら魔法や剣術なども習いたいですね」


「うーんと、どうしてかな?」


「自分で言うのもなんですが、まだまだ伸びしろはある、と思いますので。もちろん私以外も皆伸びしろはあると思いますが」


 なるほど、一点特化ではいけないと言ってきているのだ。それももっともだな。


「わかった。そこら辺もちゃんと考えるよ。教えてくれてありがとうね」


「いえ、せっかく教えてくれる方がいるのですから教わらないともったいないと思っただけです」


 レイシアは周りのことをよく見ているようだ。これからも何かと頼りになるかもしれないな。何はともあれ、5人の教育方針が決まった。どれくらい伸びるのか、今から楽しみだな。

5/26 改訂

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