西大公都に入ろう!
「コイツか。大公子様から連絡があったものというのは。のこのこと城門まで現れるとはいい度胸をしている。連れて行け」
「あー、大公子様から連絡ってどんな感じですか?」
「何を今更。しらばっくれても無駄だぞ。お前が大公子様の元から後ろの奴隷たちを連れ去ったというのは隠し様のない事実なんだからな。今はおとなしく捕まってろ」
一晩立ってようやく大公都に入れるかと思ったら門の検問でこれだ。考えるまでもなく大公子サマが裏で手を回してくれたようだ。面倒な事この上ない。
かと言ってここで暴れようというわけにもいかない。魔王的にはそれでもいいんだろうけど、あくまで拠点づくりが主目的なわけで。拠点となる予定の場所を荒地にしてしまっては意味が無い。荒地にするのはボクじゃないけど。しょうがない、ここは3人にこっそり指示を出しておとなしく捕まることにしよう。
『余程の緊急事態じゃない限りは大人しくしておくこと』
称号が”魔王の眷属”になったからなのか、念話がスムーズに使えるようになったので簡単な指示を出しておく。彼女たちも十分理解はしているようで、問題ないと目が語っていた。
「わかりました、とりあえずボク個人は何も出来ないのでおとなしく捕まります」
「む……殊勝なやつだな。まあいい、ついてこい。変な真似をしたら即効で首を切り飛ばすからな」
そういってボクの両腕に鉄の輪が嵌められた。その時ちらっと見えた門番(?)の腕にはウロコがついていた。彼も竜人なのだろうか。
なにはともあれ生徒達と一時の別れである。精々無事を祈っておこう。大丈夫、ボクは最悪死んでも問題無い。
別れ際に見た生徒達の顔は、特に不安を覚えているようでもなかった。もう少し先生を心配してくれてもいいんじゃないかな!
がちゃん。
「いやぁ、アンタもついてないよなァ」
牢屋の鍵が閉められて門番さんの一言目がこれである。そりゃついてないといえばついてないんだけど何故あなたがそんなことを言うのか。というかさっきと口調が全然違いますよね。
「ああ、アレは仕事用だよ。後ろの竜人様達を見りゃあこの街の誰だってあのクソッタレの大公子に哀れにも目をつけられたんだろうなってことは簡単にわかる。アンタ、間違っても盗みなんてしてないんだろ?」
もちろんそんなことをはしていない。そんな天に輝く神に顔を向けられないようなことはしていないですよ。あ、もしかしたら神様がボクの顔を見ようとしてないかもしれないですね。ボク魔王だし。
「魔王! アンタが魔王とは面白ぇ冗談だぜ。アンタ人族だろうに! ま、一晩くらいココにはいってくれてれば大公子サマもアンタのことはすっかり忘れてるだろうよ、すぐに出してやる。ただ、あの竜人様と狼人達は……可哀想だが諦めろ」
諦めろって言われても、そもそも彼女たちは奴隷でも何でもないから何を諦めたものかわかんないな。そもそもボクが心配する程でもないしね。
それよりボクはどうしてあなたが彼女たちを竜人様なんて様付で呼んでるのかが気になるな。
「心配するほどでもないってアンタ、随分と冷たいなァ。ま、そうでなきゃ壁の外を旅なんて出来ないのかも知んねぇな。どうして様付かって、俺はリザードマンだ。上位の種族である竜人様に敬意を払うのは当たり前だろ?」
ああ、リザードマンだったのか。どうりでウロコが見えたわけだ。納得した納得した。
ここでリザードマンという種族について軽く思い出しておく。リザードマンは竜人と同じく爬虫類系の魔族で、竜人程ではないけど屈強な身体とその身を覆うウロコによる炎や衝撃への耐性を持つ武闘派種族である。
リザードマンに対する竜人のように、いくつかの魔族には上位種族というものが存在していて、例えばコボルトに対する狼人であったり、エルフに対するハイエルフだったりする。基本的に上位種族は下位の種族から敬われているというのが現状のようだ。かつて魔王が存命中だった頃は上司種族の振る舞いは大分横暴だったようだけど、魔王が倒されて人族の対等が始まると一転して下位種族のために奮闘し敬意を集めたらしい。魔族というのはいざ自分たちが矢面に立つことになるとちゃんと動ける種族のようだ。
「おーい、話聞いてるのか? アンタが良ければ紹介したい奴がいるんだけどよォ」
あーごめんごめん。考え事してたよ。で、なんだっけ?
「ったくちゃんと聞いておけよな。アンタみたいに魔族絡みで大公子サマの被害にあった奴らが集まってるトコがあるんだが、どうしても腹に据えかねるっつーなら紹介してやるってワケ。ま、構成員の殆どっていうか一人を除いてはみんな魔族なんだがそれでもいいならな」
ふううううん? そんな集まりがあるのか。しかも魔族が中核をなしてるなんて随分と面白そうだねぇ。いいよ、紹介してほしいな。実はボク、すっごい腹に据えかねてたんだよね! うん!
「……全然据えかねてる感じしないけどなァ。ま、いいさ紹介してやる。大公子サマをなんとかしてくれるんだってんなら是非とも頼むぜ。なにしろ魔族の肩身が狭くっていけない」
ま、期待して待っててよ。なんせボクは魔王様だし、魔族に肩身の狭い思いをさせたくないしね!
「ハッ、そりゃいいや頼んだぜ魔王様」
よっし任された。とりあえずは今晩のご飯が楽しみだから気持ち増量しといてくれると嬉しいな。
「そりゃ規定違反だ、出来ない相談だな」




