西大公都到着!(ただし壁外
「いやぁ、長い長い旅だった!」
「師匠、まだ街の中に入ってないから」
島を発ってからおよそ一ヶ月。道中で絡まれまくったせいで予定より遅れたものの無事西大公都へとボクらはたどり着いていた。もっとも街に入るには検査が必要らしく、その待機列に並んでいる状況ではあるのだけれど。待ち時間が非常に長い。かといって訓練するには狭すぎるしやることはない。精々暇つぶしにアクセスするくらいしかできない。それでいいのかとは思うけど。
生徒三人と狼姉妹も暇そうだ。時折行列の方を馬車から首を出して覗いてはいるが、その度にため息を吐いて中へと戻っていく。もう少し我慢して欲しい。というかラグは自分も辛いのにボクの現実逃避を許してくれなかったのか。なんてやつだ。
下手をすると一晩は壁の外で寝なければいけなくなりそうだ。正直食料もカツカツなので避けたいのだけれど……。あ、そうだ。
「リーズ、この近くで行商やってるような馬車を探してきて欲しいんだけど頼まれてくれる? 折角だしちょっと豪勢な晩御飯にしようと思って」
「豪勢!? わかった、10分で探してくるよせんせー!」
言うやいなやリーズは目の前から消えた。相変わらず目で追えない速度だ。ボク以外の全員には見えているようなのだけれど。いつもはこういうお願いをするとリーズは一言二言文句をいう事も多かったけれど、今回はそれがなかった。技術だけじゃなくて精神的にも成長してくれているのかも知れない。
そんなことを考えていた10分前のボクを引っ叩いてやりたい。結局リーズは帰ってこないまま、予想だにしないお客さんがボク達の馬車を訪れたのだ。
「竜人の、しかも雌の奴隷をこの目で見ることが叶うとはな。商人よ、言い値で買ってやるから速やかに私にこいつらを売れ。なんなら狼人二匹も買い取ってやるぞ?」
現在ボクの目の前にはでっぷりとした体格の男がなにやら喚き散らしている。見るからに高そうな服装で見るからに高そうな装飾品を身につけたこの男、どうやら西大公の長男らしい。どこから仕入れたのか謎だが、竜人と狼人を連れた男が西大公都に向かっているという情報を手に入れてボク達を探していたということだった。迷惑極まりない。
「だからですね。彼女たちはボクの個人的な奴隷で売りものではないわけでしてね」
「だからどうしたというのだ。大公の長子である私が希望しているのだから、よろこんで売り渡すべきではないのか、ん? 大体、三匹いたはずの竜人が二匹しかおらんではないか? つまり誰ぞに売ったというのだろう。売り物ではないなどという嘘は通じんぞ」
リーズが帰ってこないことで余計な詮索をさせてしまっているようだ。頼むから帰ってきてくれ。
誰にかは知らないが願いが通じたようで、リーズが戻ってきた。男連れで。
「おーっす、ただいませんせー! 遅くなってごめんねーって、誰この人」
「ちょ、おま、この人大公の長男だって。くっそー、美幼女につられてホイホイ荷物持ちなんてするんじゃなかった」
いつも通りなリーズと、どうやら荷物持ちをさせられている男――いや、まだ少年かな? この世界では珍しい訳でもないけど、この辺りでは見ない黒い髪と黒い瞳。ボクより少し年下くらいの男の子だ。肌の色としては、極東の国々の民族に近いものを感じる。それにしても、リーズに大公の息子のことを教えた後に何やら呟いた時、この世界では聞いたこともない言語を喋ったように聞こえたな……。ちょっと確かめてみるか。
「リーズ、随分かかったけどどうしたの? そこの少年のことと合わせて説明して欲しいんだけど」
あー、それはねー。と話しだしたリーズを制して、少年が説明を始めた。
「この子が奴隷狩りに目ェつけられたみたいで、攫われそうになってたんだ。そこを俺が助けて、なんでかしらないが荷物持ちを任せれて連れて来られたってわけだ」
とのこと。嘘はついてないみたいだけど、何か隠している事情があるな。普通、奴隷狩りなんて奴らになんの意味もなく攻撃するっていう思考をする人間はこの世界にはあまりいない。例えば肉親や仲のいい隣人が連れ去られるとかでもなければ。つまりたまたま通りがかったリーズを助けたのは何かしら裏があるということだ。
「おい、貴様ら私を無視して話をするとはいい度胸だな?」
あ、ヤベ。大公子の事をすっかり忘れていた。しかしリーズが帰ってきた今、改めて売らないということを示す以外に特に話すこともない。青筋を立てている彼には申し訳ないがお取り引き願おう。
「繰り返しますが、彼女らを売る予定は今後一切ありませんので。どうか諦めては頂けませんか?」
「チッ、おとなしく渡せばいいものを。まぁいい、今のところは諦めてやる」
ドスドスと足音を立てて大公子は馬車の列から離れていった。ふう、ひとまずはやり過ごせたか。捨て台詞から察するにこの後もめんどくさそうだけど……。
「で、改めてえーっと。どちら様でしたっけ?」
「ああ、自己紹介がまだだったな。ヨシキ=カジワラ、ランクCの冒険者だ」
どうやら極東っぽいのは見た目だけではないらしい。
「カジワラ君ね。よろしく。ボクはエイシャ=アーカーだよ。それで彼女たちが……」
「ラグだぜ!」
「……ルド」
「僕はさっきも言ったけど、リーズだよ」
「メリアよ」
「ティニアです」
全員でご挨拶。心なしかカジワラ君の顔が赤い。そういえば彼女たちは揃いも揃って美人だった。手を出して握手を求める。
「ここで会ったのも何かの縁だろうし、よろしく」
「おう! よろしくな!」
握手と同時に彼のレコードにアクセスする――
「ッ!」
「どうした!?」
予想以上の情報量に驚いてしまった。ふふ、まさかボク以外に異世界人がいるとは思わなかったし、何よりこのスペックと、この世界にやってきた方法と理由……。面白くなってきた。
「ああ、大丈夫大丈夫。力が弱いから握手が思いのほか強くてびっくりしたんだ」
なんだそりゃ、と笑われたが、場は和んだようにも思えた。なんでも拠点を移すためにやってきたそうで、同じく一晩は待ちそうということだった。
折角ということでボクたちの馬車で一晩過ごすことにしてもらった。まだパーティーを組んでいないそうで、彼一人ということだからぎりぎりなんとかなるだろう。
リーズの買ってきた食料をチェックしながら、予想以上に面白くなりそうだとボクはひとりニンマリとしたのだった。




