竜娘と狼娘と獲物さん。
間が開いてしまいました。忙しかったのもあるのですがそれ以上に筆が進まない……。早く更新速度を戻せるよう頑張るつもりです。
「ねぇねぇ、おにーちゃん」
「……兄さん、よそ見しないで」
動けない。
右側にティニアが、左側にルドがそれぞれくっついてきている。どうしてこうなったのかはボク自身よくわからないのだけど、最初にくっついてきたのはティニアなのでそれに嫉妬したルドがくっついてきた感じかな。ボクはこんなになつかれるようなことをした覚えはな断じて無い。ともかくぴこぴこと耳を揺らしているティニアの頭を撫でておいた。一つの現実逃避ってやつだ。
「むぅ、私も……」
甘えるように(実際甘えてきているんだろうけど)ルドも頭を擦り付けてくる。空いている手で頭を撫でてあげる。うん、なんというか犬になつかれているような気分になってきたぞ。実際のところは龍と狼なんだけれども。
「師匠、モテモテだな!」
「嬉しくないよこれは……。メリア、ここ代わらない?」
「エイシャ君、それは野暮ってものじゃない? 妹は可愛がらないとダメよ」
ぐぬぬ、味方がいない。茶化しながらもツッコミを入れてくれそうなリーズは現在周辺を哨戒中なので馬車の中にいない。そのせいで止める人がいないのでボクはどうしようもない。ニヤニヤとこっちを見ている二人が恨めしい。
いくら小さいといっても二人共女の子であることに替わりはないので、女性特有のやらかさというかなんというかを両サイドから感じてる状態である。この状況を誰かに見られたら間違いなくボクは少女趣味と思われるだろう。勘弁して欲しい。ボクにそのケはない。
そんな中、救世主は突然として現れたのである。
「オイ、そこの馬車! 止まれェ!」
何事かと思って外に顔をだすと”いかにも”な容貌の男たちに馬車が囲まれていた。賊の登場である。リーズが戻ってくる前に遭遇してしまうとは、なかなかにツイてないな。
「顔出してるお前、悪いが荷物は置いていってもらうぜ。その後でゆっくりぶっ殺してやるから楽しみにしておけよ、ガハハハ! ……おい、馬車の中のモンを引っ張り出せ」
ボクが反抗すると間違いなくボクの命が危ないのでおとなしく指示に従う。馬車の中からラグとルドの竜娘二人、メリアとティニアの狼娘姉妹がそれぞれ出てくる。こらラグ、嬉しそうな顔しない。
馬車の中にもう人がいないのを確認して、賊の一人が荷物を物色しに入る。大したものは運んでいないのだけど、別に言う必要はないだろう。
「チッ、荷物は大したことねぇ見たいってことはそんなナリでも奴隷商人ってか。なるほどイイ”商品”を扱ってやがる。……ガキばっかりだけどな。しかも見たところ、竜人が二匹に狼人二匹! 半分俺らがいただいて残り二匹を売っぱらっても遊んで暮らせるぜ! 神様に感謝しねぇとな」
もはや恒例とも言える勘違いと、美少女達に対する反応である。竜人も狼人も珍しい部類の魔人のようで、一様に高い金額で売れるらしい。そもそもとして奴隷にするのが難しいんだろうなぁと彼女たちの能力を知っているボクは思うのだけど。
はてさてボクが見る限り賊はリーダー的なやつを含めて全部で8人。きれいに四人で割り切れる数字である。だからどうだといった感じなのだけど。
「兄貴! 荷物の方は大したもんありませんぜ! 金も商人にしちゃぁシケてやがる」
「大方こいつらで一山当てようって算段だったんだろうぜ。俺らに見つかったのが運の尽きってやつだ。ツキは俺らにあるってこったな、ガハハハハハ」
そりゃシケてるも何も商人じゃないしね。荷物だって結局は着替えと食料位のものだ。本当にたいしたことないものしか無いのである。そして運の尽きってやつはどちらかと言うと彼らなんだけど、まあその時までわからないよなぁ。
そろそろ掴まれた腕も痛くなってきたし、いい加減彼らにもご退場願おう。
「もういいよー、やっちゃってー」
「よっしゃ! アタシ真ん中の3人な!」
そういってラグは駆け出した。ボクが目で追えているということは手を抜いてるな? なんてことを考えた次の瞬間ラグは最初に向かったリーダー格とは別の賊へ向かっていた。
リーダー格は「舐めるなよこのッ」まで口走った所でこの世とさようならしたようだ。胸から下が吹っ飛んで跡形もなくなっている。どうやったら一振りの剣で人体を消し飛ばせると言うんだラグよ。
と、ボクが目を丸くしているのに気付いたのか一瞬「やってしまった」という顔をしたあと動きのスピードを落とした。どうやらボクに敵を倒すところを見て欲しいようだ。
「この、化け物がァ!」
ラグに狙われた哀れな賊は持っていた剣を両手で上段からラグに向けて振り下ろす。が、それをあざ笑うかのようにラグの剣筋はそれを真っ向から跳ね返し、真下から打ち上げられた両腕を切り飛ばした。こら、いちいちこっちを見るんじゃない。ちゃんと敵を見なさい。
そんな感じでラグはぱぱっと賊を片付けてしまった。この間わずか1分もかかっていない。やっぱり教育の仕方としてはやり過ぎたのかもしれない。
「兄さん、おわった」
くい、と袖を引かれて目線を移せば既にルドも一仕事終えたようで、やや自慢げにそれをボクに伝えてきた。その後には地面から生えた巨大な氷柱にぶっ刺さった賊3人の死体。うん、かも知れないというかやり過ぎたようだ。
「こ、この化けモン共がぁ、よくも!」
逃げればいいのに残された賊2名は勇敢にもボク達に挑むつもりのようだ。彼らに相対しているのはメリアとティリア両姉妹で、ラグやルドと比べればまだ勝てるかもしれないと思ってしまったのかもしれないが。
「もしかしなくてもナメられてるわね……。誇り高き狼を侮るなんて、一回死んだくらいじゃ許せないわ」
「おねーちゃん、怖いから」
ああ、いつの間にかティリアはメリアのことを「お姉ちゃん」ではなく「おねーちゃん」と呼ぶようになっていた。恐らくは身内の前でしか呼ばないような呼び方だったんだろうけど、旅している内にボクらにも慣れたといったところだろうか。ボクのことは最初から「おにーちゃん」だったけど。
そんな全く関係のないことを考えていると、動きがあった。仕掛けたのはなんとティリア。大地を強く蹴って賊の一人へ向かう見た目からは考えられない瞬発力だ。さすがは狼人といったところかな。
「んなっ!?」
慌てたのは賊の方だ。なんとか最初の一撃を防ぐも、ティリアの速さに追いつけてはいない。ティリアが人間を斬るということを躊躇っているようだ。奴隷になっても人族を斬るのに抵抗を感じるとは心優しい女の子である。
もちろんそれではティリアが危ないのだが、もう一人はすでにメリアによって切り捨てられたところだった。その様子を見て、ため息をつきながらもちょっと嬉しそうな顔でメリアは助けに入った。
「ティリア! 私がやるから下がってなさい!」
「わ、わかった!」
そこから後は推して知るべし、である。村を出てから5日目、累計3回めの襲撃はなんなく撃退されたのであった。アーメン。
戦闘も終わったので、ボクはちょっと声をかける。
「ティリア、ちょっとこっち来てもらっていい?」
ルドがむっ、としたのはわかるけど、すぐ褒めてあげるから待ってて欲しい。
「おにーちゃん、どしたの?」
「んー、ティリアがちゃんと戦えるようにしてあげようと思って」
そういってティリアの額に触れる。個人レコードにアクセス開始。生き物の行動規範もレコードには刻まれているわけで、そこをちゃちゃっと弄る。無制限に殺人への忌避感を減らす訳にはいかないが、敵対者への容赦は不要だろう。と言うわけでそこら辺を設定し直し。
前の世界でボクがやらないと決めていた3つの内の一つ、「生物の再設定」である。もっと噛み砕けば洗脳とも言うけど。こっちの世界では魔王様ということなので、なんとなく解禁した。非人道的ってだけでものすごく便利だしこれ。
「はい、終わり。ティリア、どうもしない?」
「うん、だいじょーぶだよ!」
そうかそうか、ならよかった。さてさて、すっかりむくれているルドを褒めてやるとしますかね。




