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魔王様はこの世の全てをご存知です  作者: いせえび
西部魔族解放戦線
20/30

村長と狼娘

 ゼノウ島から船と馬車を乗り継ぎ早一週間、ようやく西大公都までの行程の三分の一を消化したかというところで御者から今晩は街道での野宿ではなく街道沿いの村で夜を明かすと説明を受けた。

 旅の初めこそ島とは違う街道の風景にはしゃいでいたラグとリーズ、興味深げにあちこちに視線を飛ばしていたルドの三人もすっかり変わらない景色に飽きたようだった。しかし今夜は街道沿いの村に泊まると伝えると再び瞳を輝かせた。大陸に揚がった時の港町以来、始めての人が住む場所なので当然といえば当然かもしれない。ボクも、知識としてはわかっていても実際に目にするのは楽しみだ。


「おおっ、師匠の目が生き生きしてる! 師匠も楽しみなんだな!」


 不意に、ラグがボクの顔を覗きこんできた。というかそんなにボクの目は死んでいるのだろうか。こうもはっきり言われてしまうと自分に自信が持てなくなる。

 一体ボクの何がいけないのだろうか……。そんなことを考えていると、街道の向こうに今までと違うものがおぼろげに見えてくる。木の柵、それに門。どうやら今日泊まることになる村のようだ。

 もうすぐ着きますんで、荷物の方を準備してくださいよ、と言われたボク達はそれぞれ荷物を準備する。ラグは腰の両側にそれぞれ短剣を一本ずつ、それと着替えが入ったリュック。ルドはカモフラージュ用の杖を手に。リーズは特に何も持たず。ボクといえば護身用のナイフを懐に確認して、食料と路銀が入ったバッグを肩からかける。非常に荷物の少ない面々だった。ルドの魔法で洗濯もできるから着替えもそこまで量があるわけじゃあないし。

 ラグの獲物が短剣なのは、見た目違和感が無いという理由である。同年代の少女と比べれば決して小さいというわけではないのだけど、如何せん『少女』と見た目で判断されるラグが長剣や槍を振り回すというのは目立つ。島の時はそれでも良かったけど、今回はできるかぎり目立たないようにしなければいけないのでこの措置だ。二本持っているのは予備用でもなく、本人的には二刀流のつもりらしい。それってカタナじゃないけど大丈夫?

 それとルドの杖がカモフラージュ用というのは、そもそも魔法を使うのに杖を必要としないルドが目立たない用にという配慮である。要するにこの世界では杖に限るわけではないけど何かしらの触媒を使うのが一般的だということである。改めてボクの弟子は凄い。

 ボクが食料とお金を管理するのは、二人の年齢を考えれば妥当だと思う。リーズが何も持ってないのはいざというときに素早く動けるように。そんなに荷物ないし。


「そこの馬車、この村に何のようだ?」


「あ、御者さんボクが説明するんで大丈夫ですよ。ええと、ボク達は西大公都に向かう最中なんですよ。それで今夜はこの村に宿を取ろうかと」


「なるほど。身分証はあるか?」


「ありますよー。ハイこれ」


「ゼノウ島だって? 随分と遠くから来たもんだ。それにしたってアンタみたいなのが悠々と大陸を『観光』しに来てるってことはやっぱ二代魔王の魔族化ってのは中央の言うとおりでまかせってこったな。歓迎するぜ、エイシャ・アーカー殿。馬車ン中の奴隷も入れちまってくれ」


 身分証、とは自分が住んでいる場所の領主の名前のもと自分の身分を保証するもので、ボクの身分証はゼノウ島の領主ベロニカの名前が記してある。魔法であれこれ効果が付けられているようで、今回は保持奴隷の確認効果が使われたようだ。例によって竜人三人娘は奴隷扱いである。出発前にあれこれご機嫌を取るのが大変だった。


閑話休題それはさておき


「ようこそ。この村では旅の方というのも珍しいものですからな。ゆっくりしていってくだされ」


 ボク達は村長の邸宅へ招かれていた。今晩の宿はここである。村自体も寒村というわけでもなく、どちらかというと裕福なようで村長の邸宅は豪邸とは行かないものの立派な建物だった。地主、といった表現が一番しっくり来るかもしれない。

 旅人を泊めるための部屋まで備えている辺り、珍しいとはいえ旅人が来るのは想定されているようだった。普段は物置代わりになっているそうだが。


「ほほう、竜人とは! アーカー殿は、随分と良い奴隷をお持ちですな。私の奴隷と比べるのもおこがましい程です。ああ、奴隷二人も部屋に入れて結構ですよ。奴隷とはいえその身なりでは、大事にされているようですしな」


 ほっほっほ、と笑いながら村長は意外なことを言った。奴隷がいるっていうのもそうだけど、奴隷(扱い)の三人も普通に部屋に泊めてもらえることになった。勿論相部屋ではあるけど。魔族を奴隷化しているからといって無条件に魔族を排除しようとするというわけでもないらしい。だから下世話な目線は見なかったことにして、村長の奴隷について尋ねることにする。


「村の中で奴隷を見かけないからここにはいないと思ってたんですが、村長さんは奴隷をお持ちで?」


「奴隷というのも決して安いわけではありませんし、量は少なくて済むとはいえ食い扶持が増えるわけですからな。この村で奴隷を持っているのは私だけです。狼人の姉妹なのですが、女とはいえ獣人ですから力仕事もこなしますし、便利なものです」


「狼人! 獣人は結構見て来ましたけど狼人はまだ見たことがないですね。よろしければ後ほど見せていただいても?」


「確かに、狼人は珍しいですからな。私も幸運に恵まれたと自負しています。後で向かわせますよ」


 我が意を得たりといった顔で、ニッコリと笑った村長は狼人の奴隷に会わせてくれると言ってくれた。あれ、一体何を考えているんだ? こんな時に頼りになるユアンは残念なことにゼノウ島で内政に勤しんでるからボク個人ではどうも対処ができない。

 深く考えてもしょうが無い、なんかあっても生徒三人がいれば大抵の状況はどうにかなるさ、それより晩御飯のメニューが気になるな。


 そんな事を考えていたボクは、やっぱり知識ばかりで知恵はどうも回らないんだな、と後々気付いた。具体的に言うと寝る時に。


 何故かボクは一人だけ別の部屋に通された。確かに性別は違うけど、それなら御者さんも一緒の部屋でいいはずなのに。まぁ一人で広々と部屋を使えるのもそれはそれでいいよな。よし、今日はゆっくり休ませてもらおう。そう考えて扉を開けたボクを出迎えたのは――。


「こ、今夜お相手を努めさせていただきますメリアです」


「てぃ、ティニア、です」


 大きなベッドの上に殆ど全裸じゃないかという布切れで最低限身体を隠した二人の女の子。ただ、本来あるべき場所に耳がなく、頭頂部にちょこんと狼の耳が鎮座している。なるほど、村長の言っていた奴隷とはどうやらこの二人のようだ。

 メリアと名乗った大きい方――姉だろう――の少女は、茶髪のポニーテールに同じ色の瞳。隠すものがないためにあらわになっているボディラインは、ちょっと痩せているかな。ただ、スタイル自体はいいほうだろう。少なくともいま別の部屋で寝ているはずの三人娘とは比べるべくもなし。震えながらも妹をかばって前に出てきている。

 ティニアと名乗った女の子、こんな子にまで相手をさせようとは村長の頭はどうなっているのだろうか。と思ったけど、奴隷をこういう風に扱う相手にルドやらラグやらリーズやらを連れているの見せたらそりゃこうなるか。顔立ちにあどけなさは残っているが徐々に大人びてきている最中といった造形の彼女は、顔を真赤にして姉の後に隠れようとしている。怯えの表情を浮かべて。言うまでもないが起伏のない体型をしている。

 そんな二人は実によく似ていて、なるほど姉妹なのだなとボクに思わせる。髪の色も瞳の色も顔立ちもそっくりな二人の首には、金属製の首輪がはめられている。これが本物の隷属の首輪らしい。生憎と魔法的才能はボクには皆無なので変な模様が刻まれた重そうな首輪にしか見えないけど。

 と、眺めるばかりで何もしないボクに何か思うところが会ったのか、メリアが口を開いた。


「出来れば、妹には手を出して欲しくないんだけど……」


「お姉ちゃん、言葉!」


 意外とフランクな口調でお願いされた。見た目が弱そうな(実際弱いが)ボクならお願いを聞いてくれると思ったのかもしれない。ティニアの方はビクビクしながら言葉遣いを諌めていたが。殴られるとでも思ったのだろう。

 さて、どうしたものか……。この場を上手いこと切り抜けてベッドでゆっくり眠る算段を立てていた所、屋敷の中に轟音が鳴り響いた。何事か、と屋敷の人間が慌てている。目の前の姉妹も何が起きたかわからないといった表情だ。


 ボクにはなんとなく予想がついてしまったけど。頼むから、あまり暴れ過ぎないでくれよ……。屋敷ごとぺしゃんこにはなりたくない。

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