ラヘンさんのお願い
「そうであれば、大陸西部、ペルセクト地方に足がかりを作るのがよろしいかと。そうですな、西大公都アンレゾなど丁度よろしいのでは? 新しい領主としての挨拶もしなければならないようですし」
結局いい案が思いつかなかったボクは、屋敷に戻りラヘンさんにアドバイスを求めた。長生きしているということはそれだけ知識を―ボクほどでは無いにしろ―持っている訳で。しかもそれを知恵として働かせることに関してはボクは足元にも及ばない。
「ああ、一応名目上はベロニカのクーデターってことにしたんだっけ。領民を魔族化させるクーデターってのも珍しいと思うけど。
それでペルセクトっていうと……、奴隷になってる魔族をどうにかしようって話? 正直現時点じゃ奴隷だって十人買える余裕もないよ?」
大陸西部ペルセクト地方。大きさとしては……ロシアを除いたヨーロッパと同じくらいかな。南部との境界には大陸内部に食い込むような海岸線と、アルプスもかくやというほどの山脈。北部との境界には巨大な湖。どちらも通過しようと思えば可能だけどこれを越えようと思う人はいないだろう。理由は……まあ今のボクには関係ないか。
それよりもこの地方で特筆すべき点といえば、かつて初代魔王が統治していた地域がほぼそっくりこの地方だということだ。それ故、大陸全土の魔族の内実に八割がこの西部出身だと言われている。当然魔族の集落も多い。そして人族は、この地方から他の地方に魔族の奴隷を出荷しているのである。
「いえ、わざわざ彼らを金銭でどうこうする必要はないでしょう。簡単なお話です。魔族の王として開放してやれぼよい。それだけのことです」
「……それは、人族に宣戦布告するも同等じゃない? この諸島を落としておいて今更だとは思うけど。そんなことを、今度は大陸の大公領を脅かすようなことをしたら、流石に魔族の小さな反乱じゃ片付けてもらえないと思うんだけど」
結局、ボクらの最初の反乱は中央にあまり重く受け止められなかった。所詮は大陸の外にある小さな諸島での出来事だし、魔族化というのも虚言だろうというのが中央の出した結論だ。これはすぐさま大陸全土に帝の言葉として広められたようだった。
「なればこそ、ですよ。あの小さき一歩は人族の大きな足跡で覆われてしまいました。我らはより力強い一歩をしっかりと大地に刻まなければいけません。そのための――」
「そのための、奴隷解放? それを口実に旧魔王領を奪いとろうってわけ」
「無論、それは最終的な目標ですが。何も大陸全土を手に収めて欲しいわけではないのです。魔族が、同志が安寧に生涯を終える地をもう一度大地に取り戻したい。それだけがこの老いぼれの、前魔王様の願いです故」
「ま、ボクも今は魔王様だしね。自分の民の心配くらいはするさ。他に案があるわけでもなし、今回はラヘンさんのお願いを聞いてあげるよ」
「ありがたき幸せにございます」
「だから、そういうのはいいってば」
確かにボクは魔王様だけど。自分の何十倍も生きてる人に傅かれる趣味はない。それにラヘンさんはこの世界での仲間の中では唯一の男性だ。なんというか、もっとフレンドリーに対等な立場で接してほしい。なんとかならないかな。いずれは、そんな風に接してくれたらいいんだけど。そんな夢みたいなことを考えて、ボクは自室へ戻った。
「まずは、お願いを聞いてあげないと。そうじゃないとフェアじゃないからね。とりあえずは奴隷の解放かー。使えそうな人がいればいいんだけど」




