しまのようす
「うぎぎ……やっぱ持てないかな……」
ボクことエイシャ・アーカーは旧領主邸――現在はボクと生徒たち、それとラヘンさん、ベロニカの住居になっている――の庭で剣を持ち上げることに挑戦していたのだけど……。無理。どうして皆こんなモノを軽々と振り回してるんだろう。意味がわからない。
両手を使って持ち上げるのが精一杯で、しかも持ち上げていられるのは精々二分位。持ちあげるといっても胸の高さまでがやっとだ。
「アーカー様は随分と非力なのですね」
ベロニカが呆れを通り越してもはやボクの事を憐れむような目でこっちを見てくる。そんな目でボクを見ないでほしい。そんなふうに見られたのは生まれて始めてなので、いまいち腹も立たないけど。
「しかも師匠は魔力もってないから魔法も使えないしなー!」
「それって戦う手段が無いってことじゃありませんの?」
その通りです。魔道具でどうにかなるかなぁと思ったけど最低限起動に必要な魔力すらもたないボクではそれすらも扱えなかった。何というか、折角魔法なんていうものが存在する世界に来たのにこうまでされるといっそ誰かの陰謀じゃないかと思ってしまう。そんなことはありえないけど。
結局のところボクの強みはアカシック・レコードだけということだ。これさえも自分でどうこうじゃなくて他人に情報を与えて初めて真価を発揮する場面のほうが多い。ボク個人は弱っちいままなのである。
「情報収集なら……、駄目だ。細かい情報とかに関してはリーズに勝てない」
「まー師匠は後でドーンと構えててくれればいいんだよ! なんせアタシ達がいるんだからな!」
ラグが薄い胸をはってそう言うので、そういうものかと自分を納得させることにする。一応対外的にはボクが首領ということになってるからちょっとでも戦えるようになっておきたかったんだけどなぁ。
「……アーカー様、目がいつも以上に死んでますわ」
「落ち込んでるんだよ……、それにその言い方だとボクの目がいつでも死んでるみたいじゃないか」
「みたいというか、その通りでしょう。お気づきになられていないのですか? この前いった感情が表情に出やすいというのも、要するにその目のことなのですけれど。貴方普段はどんなことを考えて過ごしてますの?」
うーん、異世界に来ればそんなことは言われないと思ったのだけど。やっぱりそういうわけにもいかないらしい。目が死んでるって散々言われているけれどボク自身としてはそんなことはないと思っているので困る。
あと普段どんなこと考えてるって言われても皆と同じ事考えてるはずだけどなぁ。今晩のおかずのこととか。
「師匠はなー、アタシ達になにか教えてくれる時とか、悪巧みするときはすげーキラキラした目なんだけどなー」
むう、ラグにまで言われてしまった。もう少し気を使ったほうがいいのかなぁ?
「まー、その内なんとかするよ。それじゃボクは島の様子見てくるねー」
――――――
「はいおばちゃん、銅貨三枚ね」
「毎度どうもね魔王さん。串一本サービスだよ」
「ありがとねー」
街を散策する前にこの島に来た当初から食べている串焼きを買っておく。ちょっと小腹も空いていたので歩きながら食べやすいものを選んだ。
意外にも、というか想定外の事態としてフルエンス領民総魔族化に関して恐れていた暴動は発生しなかった。区別派の方々は流石に大暴れだったけど、人数もそこまで多くなかったので鎮圧。なんというか、ここの人達はおおらかを通り越している。魔族化したことで能力が上がったことを喜ぶ声のほうが多い始末だ。
「本当、来た当初と何も変わらない。これって異常だよなぁ」
そうひとりごちながら商店街を歩く。この周辺では暴動らしい暴動が全く起きなかったので、建物に損壊はない。行き交う人々が人間から獣人だったりドワーフだったりエルフだったりに変わっただけである。
元から魔族だった人達は結構複雑な気持ちになることもあるらしいけれど……。そりゃ昨日まで人族だった人達が魔族になりましたーって言われたら戸惑うよな。あまり気にしてない人が多い気もするが、あくまでボクの目の届く範囲の事なので実態は分からない。
それにしても、この後どうしようかなぁ。流石に大陸全部を支配なんていうのは夢物語だし、優秀な人材に関してもすぐにこっちに来れるような人はそういないに決まってる。そういう人こそ人族が手放さないだろうし。
最終的に大陸の一部を国として帝国に認めさせるのが限界かな? 完全独立が最上だけど、かなわない場合はボクが大公になれば大公領として自治権は手に入る。もっとも帝都中枢の意識改革をしないとボクが大公になるのはどんなに強大な力を手に入れても難しいかな?
なんせ宗教家が政治にあれこれ口出ししてるみたいだから、人族至上主義になってるみたいだし。ってこの諸島だと違う宗教の方が主流なんだっけ、暴動が怒らなかったのもそこら辺が関わってるのか。忘れていたけど思い出せばこれ以上しっくり来る理由もない。
「なんにせよ、まずは人材確保か」
アイディアが浮かんでこないかなー、と思いつつボクは夕方の商店街を見て回ることにしたのだった。
次回から、人材確保のお話になります。




