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魔族化

「さて、悪巧みの時間だ」


「ベロニカが寝てすぐそれかよ!」


 あの後体力に限界が来たのかお嬢様……頭のなかでまで敬称っていうのも面倒くさいな。実質仲間みたいなもんだし名前でいいか。ベロニカが寝付いてから、ボクは生徒たちと改めて今後について話し合うことにした。


「正直な所、これ以上策を弄するのにも限界があるのではないでしょうか。彼女が言っていることも的外れというわけではなかったのですから。それに現領主の秘密を使えば民衆からの反発もほぼ無くなると思いますよ?」


「僕もそう思うなー」


「準備、万端」


「アタシもそれでいいぜー」


「あらあら、皆賛成なのね」


 レイシアの提案に他の四人も一様に頷く。ボクとしても話し合うのはこのままベロニカの案に乗るということの確認が目的だったので、手間が省けてむしろありがたい。


「じゃあそれで行こうか。そうするとまずは、周囲の警戒に当たってるラヘンさんを呼び戻した後、この島の周辺を制圧だね」


 基本方針は、ゴリ押しで決定した。


「ルド、ラヘンさんが戻ってくる前にベロニカの魔族化済ませてもらってもいいかな? それとリーズは早急にラヘンさん呼んできて」


「問題無い」


「まったくせんせーは人使い荒いんだからー。すぐ戻ってくるからね!」


 魔族化、これが今回の作戦における最重要項目だ。作戦当初からルドに準備させている魔法陣もこれに関係している。

 ルドに頼んで、修行がてらずっと創らせていた魔法がこれである。資料アカシック・レコードによれば、人族と魔族の間で子供は作ることが出来るということだった。その子供が魔族よりの特徴を示すか否かは個人差が大きいということも記されていた。つまり、人族と魔族は遺伝子配列が似通った生物ということになる。もちろん魔族の中でも種族差があるから魔族内でも差は在るのだろうけど、極論で言えば人族の人種差と大差ない。

 ボクが元いた世界に、ライオンと虎の交配種が存在していた。ライオンも虎もネコ科で在るという他に幾つかの共通点があった。勿論それだけで交配種が生み出されたわけではないんだろうけど、ネコ科でできることがヒトで出来ない理由も無いだろう。どっちも哺乳類だ。魔族もすべからく哺乳類に分類できることは既にチェック済みであるのでそれも問題無し。

 元の世界じゃヒトは何故か知らないが崇高な生き物扱いで、自然のあり方に手を加えるのはタブーになっていた。ボクの家族が信じてた宗教は特に過敏に反応していたっけ。ボク個人としては既に極めてどうでもいいことだったし、いくら禁止してもそれを研究する人達がいるのも知っていた。興味本位であれこれ調べた時期にはそこそこお世話になったテーマでもある。

 ちなみに魔族の保有可能魔力量は人族に比べて遥かに多いとされている。と言うか実際に多い。どうして人族が魔族のことを下に見ているのかボクが理解に苦しむ程度には差がある。これを利用してベロニカの病気を治しがてらこちら側に引きこむ算段を立てている。


「ユアン、ベロニカの適性は出た?」


「ちょうど出るところです……。あら、最初から龍種適正だなんて随分なことですね」


「……それはさすがに予想外だったな。ルド、魔法陣を龍種用に調整しておいてくれるかな?」


「あと、五分だけ待って……」


 適正と言うのは、遺伝子配列から判別する人族を魔族化させる際に最も適した種族を表す指標である。機材がなくともこの世界には魔法という便利なものがあるのでその場でチェックできる。一番正確に判別できるユアンに任せていたというわけだ。


「せんせー、じいちゃん連れてきたよー」


「ただいま戻りました。リーズも随分と成長したものですなぁ」


「おかえり。ちょうどいいとこに戻ってきたね。今からベロニカを魔族化させるんだけど、適性が龍種だったんだよ。ボクは龍に縁があるのかもねぇ」


「やったねじいちゃん、仲間が増えるよ!」


 同じ龍種の仲間が増えると聞いてリーズも喜んでいる。ラヘンさんも心なしか微笑んでいるような……。そんなに珍しいのかなぁ?


「……準備、できた?」


 リーズたちと周辺の情報について話しているとルドから準備完了のお知らせだ。万が一にも失敗は無いはずなので、純粋に人族が魔族化するという事に関しての興味が膨れ上がる。

 始めるように指示を出すと、ベッドを中心に描かれた魔法陣が光り始める。二重の円の間に書かれた文字が淡く光りを放ち、それが円を伝い、内部の幾何学模様に到達した。それと同時に光の色が白色から、徐々に変質を始める。属性の決定がはじまったな。

 魔族人族に関わらず、魔法を扱える生き物には生まれつき相性の良い属性が存在する。種族ごとに偏りもあって、例えばドワーフ種なんかは土属性との相性が良い。そんな中龍種は非常に珍しい全ての属性と相性が良い種である。もちろん一個体が全属性と愛称がいいという意味ではなくて、生まれつきの属性がどれでも、相性が良くなるという意味だけど。

 ベロニカを包む光の色は……黒だった。混じりっけのある汚い黒ではなくて、漆黒のというのがしっくり来る、夜を思わせるような綺麗な黒だった。黒い光が目視出来るっていうのがおかしいことなのだけれど、黒い光としか形容できないのでそうなのだ。


「ほう、この場合は闇龍、となるのですかなぁ?」


 ラヘンさんの言によるとベロニカは闇龍に属する龍人になるらしい。彼女は意外と腹黒かったりするのだろうか?

 と、魔法陣の光がひときわ強くなった後、急速に弱まった。ベロニカの姿は一見すると変わっていないようだったが、龍人との付き合いがあるボクにはすぐその変化が理解できた。無事魔族化は完了したようだ。


「ルド、よくやった。このまま島の方の最終調整に入ってもらっていいかな? 今みたいな小型のならまだしも、大型だとしっかり確認しないで万が一があるといけないからね」


「ん、わかった」


「ベロニカが目を覚ます前に最低限の準備を済ませて、彼女が目を覚ましたら本格的に作戦開始といこう。とりあえずユアンとレイシアでこの島制圧しちゃってー」


「うふふ、がんばりますね」


「ようやくこういう仕事ですね! 確かにラグとルドがずば抜けていますが、私達も並ではないということを忘れないで欲しいですね?」


「はは、ごめんごめん。次からはもう少し頼らせてもらうよ。ラヘンさんはここでベロニカの様子を見ていてください。ラグは……、適当に海上の方々にご退場願ってきて。この島からでもこの世からでもいいから」


「了解しました」


「っしゃー、撃滅だぜー!」


 全員に指示を出し終わった。これでボクはボクの仕事を済ますだけだな……。

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