ボクの捉え方
「ラグ、反省」
無事お嬢様を連れてきたと言ってくれたラグは、小脇にそのお嬢様を抱えて部屋に飛び込んできたのだ。幸か不幸かお嬢様は気を失っていたようで、移動中のことに関しては記憶になかったけど。
「そんなことより師匠! 今ベロニカにやったのって前に修行の中身を確認するとかいってたやつだろ! それってアタシにも出来ないのっ?」
教えて教えて! とすりついてくるラグに拳骨をかましておとなしく反省しとけと言う。うう、拳が痛い……。まるで岩を殴ったかのような感触だ。もちろんボクは岩を殴ったことなんて無い。
「……魔力、感じないのに。変な感じした。私も気になる」
「あ、ルドもいたの……。うーん、気になるって言われてもなぁ」
ボクとしてはそんなに難しいことをやったわけじゃないからなんとも言えないんだよなぁ。出来れば使いたくない手段ではあったし、出来るという確証もなかったけどボクの唯一の取り柄とも言えるものが使えないのだからしょうが無いのだ。
ボクがやったのは、アカシックレコードへのアクセス方法をちょっと変えただけだ。本当のことを言えば人は気付きさえすれば誰でもアクセスすることが出来るのだけれど、それに気づく人というのはまず存在しない。ボクの世界の歴史上には何人かいたようだけど、数えるほどだったと考えるといかに少ないかがよく分かる。
ここで重要なのは歴史上に何人アクセス可能な人物がいたかってことじゃないな……。ようはアカシックレコードというものの捉え方の問題なのだ。ボクはアレを一種のネットワークのようなものだと捉えている。ヒトの身体というのはただのインターフェースに過ぎない。しかしながら、インターフェースから接続するとそのインターフェースの中を視ることが出来るようになる。以前のボクはアカシックレコードを通じて他のヒトの中身を見ることも出来たんだけど、今の世界では何故かそれが出来ない。その為、お嬢様ことベロニカ様の身体をちょっと借りて彼女の記憶を見てみたというわけである。壁をぶちぬくとかラグにはどうも常識がかけているみたいなのでそこら辺は後でみっちり教えないとなぁ。
と言った感じの事を噛み砕いて二人に説明した。
「師匠。長いし出来ればお仕置きは勘弁してくれっ」
「……、現状は、むり?」
聞いてきたから答えてあげたのにこれじゃあ説明のしがいが全くもって無いじゃないか。それとラグはお仕置き確定だから諦めてね。
しかしこうなると領主様の方も動き出すだろうなぁ。今のところは向こうとの打ち合わせ通りに事が進んでいるわけだし。とりあえずはリーズが戻ってこないとどうにも――
「たっだいまー!」
「おお、リーズじゃん。おかえりー」
「おかえ、り?」
はい、お帰りなさい。そのまま報告をどーぞ。
「んーと、計画通りお嬢様を攫われたのを大義名分として本格的に次男坊さんをやっつけるってさー。内部から情報漏らしつつ、てきとーなところで脱出して欲しいって。ラグとかルドの助けも必要なくてすみそうとも言ってたかな? ぱっと調べた感じ、雇う予定の傭兵もここより二段くらい上のレベルがいたくらいだし、何より人数的にも上回りそうだしね」
想定より随分と領主様側の戦力が多いな。ドラ息子の扱いに困っていたところに調度良く排除するきっかけが転がり込んできた、という感じなのかな? 実の息子を排除しようとするあたり、次男坊が相当救いようがないのかそれとも冷酷なだけなのか。ボクとしては前者の理由を支持したいところだ。
「あら、今のところ先生の思惑通り進んでいるようですね。これでは私達の出番も無さそうなのかしら?」
「ユアン、私は一応仕事があるということになっているはずなのだが……」
「あらら、何のことかしら?」
話を聞いているだけだったユアンとレイシアも会話に混ざってきた。どうやら今回の作戦で仕事がほとんど割り振られていないことが少々ご不満なようだ。ボクとしてはそもそもこういった事態向けの教育をしていないので何ともしがたい。もちろん戦闘能力で言えば今回集められた傭兵さん達よりよほど頼りになるというのは確かなのだけれど、今回はそれをお願いする予定もないしな……。必要なのは戦力じゃなくて圧倒的な示威行動が可能な人物なわけだし……。
でもこうまで態度で示されちゃうとどうにか仕事を与えてあげたくもなってくるんだよな。何かいい案は無いもんかと考えるもそんな都合よくアイディアが浮かんでくるほどボクは頭が良くない。なんたってアカシックレコードにアクセスできること以外は極めて一般的な青年なのだボクは。
と、改めて自分の役立たなさを嘆いていると部屋のドアがノックされる音に思考を中断される。リーズに目配せすると問題無さ気なので、それでも用心しながらドアを開ける。
「……竜人を従えてるって聞いてたんだが、見た目ガキじゃねえか。いや違うな、小間使いか。オイ、お前のご主人様はどこ行ったんだよ。とっとと言え」
なんと不愉快な男なのだ。十分大人びてきているはずのボクを捕まえてガキ呼ばわりもそうだし、なにより態度がデカい。コイツが誰なのかは知らないが仲良くはしたくないタイプの人物だ。
「ボクがご主人様ですよこの野郎。そういうアンタこそ何者だってんですかこの野郎」
「ああ? そいつが冗談じゃねえってんなら失礼したな。俺は今回集められたクソ共をまとめてるロベルトってんだ。ちょっと問題が発生しててな、アンタらの力を借りたい訳なんだが来てもらうぜ」
なんで付いて行くのが既に決まっているんだ! 本当に横暴な人間である。とはいっても次男坊様の手前協力を願われたら断れないし、困ったものだ。荒事なんかが起こってもまず問題はないだろうけどわざわざ企みに乗ってやるっていうのも癪だ。
「うふふ、恐れながらご主人様? ミゲル様に協力なさるならば付いて行くべきだと思います」
「ユアン、ボクは発言を許した覚えはないんだけどな。しかもボクに指図するなんて、お前にはもう少し身の程というものを刻み込んでやるべきなのか?」
こんなことは微塵も考えていない。あくまで演技。ポーズである。高圧的な物言いは苦手なのでバレないように冷や汗をかいてしまう。
とはいえユアンは明らかに楽しそうな顔をしているし、何かあるのだろうと考えたボクは結局付いて行くことにした。ユアンのためであって行きたくはなかったんだからっ。と誰に弁明しているのか分からない弁明をして、五人についてくるよう指示を出す演技をした。




