ボクとアカシック・レコード。そして、異世界へようこそ。
自分が書いたものを他人に呼んでもらう、というのは初めての経験です。書き始めたのも大分最近ですが。
稚拙な文章ですが、お付き合いいただければ幸いです。
「アカシック・レコード」というものがある。いや、あるんじゃないかと言われている。ボク個人からすればある、と断定できるのだけれど。
ご存知な方も多いとは思うがあえて説明すると……ええと、なんて言うべきかな。「なんでも分かるデータベース」みたいな感じかな? ちょっと大雑把すぎるかもしれない。まぁ、大体の意味をわかってくれればそれでいい。
物心ついた頃からボクはそれにアクセスすることができた。「こんな情報がほしい」と願うだけで頭のなかに浮かび上がってくるのだ。これ以上に便利なものはない。そんなことではしゃいでたのも最初だけだったけどね。
アカシック・レコードの存在を認めていながら、オカルティックなものに否定的だったボクはある日ふとそれら―幽霊だとか、精霊だとか―を検索してみたのだ。
解答はこう。
『現在の世界では存在しません』
なんだそれ、とひとりごちてしまった。ファンタジーのようなものは存在しないのはわかるのだけれど、別の世界なんてものがあるらしい。しかし現代の暮らしに不自由を感じないボクとしてはどうでもいいことだったのでその時は特に気に留めなかった。
この世界にない新しいものを発明してやる! なんて息巻いたことも会ったけど、材料と労力の割にできるものがあまりにもしょっぱかったのでこれもやめた。ボクが興味を惹かれるような―それこそ反重力装置だとか、核融合炉だとか―は既に研究している人たちが沢山いて、既に誰かが思いついているものを作るのはつまらないと思ったし。
宇宙人はさすがにいないと思ったら割とすぐ近くにいた。ジョン、君は自分のことをよく宇宙人だと言っていたけどホラを吹いているわけじゃなかったんだな、疑ってすまなかった。などとも思った。宇宙人はボクの中でオカルトでは無くなった。
こんな感じに『知らないこと』を塗りつぶしていくと、酷くつまらない情報しか残らなくなった。他人の情報なんていらないしね。
そんなこんなでアカシック・レコードにアクセスできる少年(もちろんボクのことだ)、エイシャ・アーカーは結局そこら辺の18歳男子と同じく生活していた。
ただせっかく使えるものを使わないと言うのは酷くもったいないように思えた(余談だがこのもったいない、という言葉、元の国の言葉と寸分違わず伝わってるらしい。すごい)。
その為、毎朝面白いことはないかとアカシック・レコードにアクセスしていた。最初の頃はいちいち調べたいことを頭に思い浮かべていたがいかんせん面倒が過ぎる。
そのうちボクは、昨日と比べて更新された人物情報以外の情報だけを見れるようにカスタマイズした。というかそうなったらいいなーとか考えてたら勝手になった。アカシック・レコードすごい。
どれぐらい凄いかというと、いつの間にか自分の興味がある分野の情報しか出なくなってた。興味がある分野の情報なら人物情報も入ってた。本当にすごい。
などと考え事にふけっていたら朝ごはんのトーストが焼きあがったようだ。何を隠そう今現在、朝飯前である。パンの焼ける匂いが鼻を通して胃を刺激する。ああ、お腹がすいた。
アクセスも朝にやると決めているので、トーストをかじりつつ今日のトップニュース世界板を覗くことにした。
へぇ、あの会社とうとう新作出すのか。今日の競馬は大穴が勝つようだ。ボクはまだ賭けてみたことはない。つもりもないけどね。まじめに予想してる方々に大変失礼だ。
未来の情報は活用しないというのがボクが決めている数少ないルールである。本当に数少ないルールで、なんと三つしか決めてない。
と、今まで見たことがないマークが頭についた記事がある。記事名は、ええと……
『この世界終了まであと1日』
なんてこった。これは実に由々しき事態だ。
このアカシック・レコードというやつに書かれたことが当たらなかった試しはない。明日にはこの世界は残念ながら滅んでいるだろう。
が、それに巻き込まれたくはない。そうだ、そういえばこの世界以外にも世界というのは存在するらしい。どうにかそこへ移動できないだろうかとダメ元で検索してみる。
『異世界、あるいは別世界へ移動する方法』
念のため検索範囲を広く取る。
来た。いつもの情報が頭に入ってくる感じだ。
『異世界移動法について』
あるのかよ。
『移動先指定について』
指定できるのかよ。意外と世界を飛び越えるのは楽らしい。
ボクが指定したのは、かつて憧れたファンタジックな世界。魔法が飛び交い、人は剣をもって、エルフやドワーフ、それに獣の耳が生えた獣人たちとともに恐ろしい魔物を退治するような、そんな子供の夢の様な世界。ボクはそれをどうしても見てみたかった。それだけの理由で。
やがて、視界が白く染まり始める。そういえばどうしてこの世界は急に滅びることになったんだろうか? これもいずれ、わかると面白いかもしれないな。心に留めておこう。今度はしっかりと。
そして、次にボクの視界が開けた時には、見慣れた自分の部屋は跡形もなくなっていた。そのかわり、石造りの立派な建物が両サイドに立ち並ぶ大きな道の中心にボクは立っていたのである。
「来たぞ、異世界にっ! 本当に違う世界なんだ!」
ボクは嬉しくなって、叫んでしまった。此処にはボクの見たこともないようなものがきっとある。見たかったものもきっとある。それはとても素敵なことのように思えたのだ。
5/26 プロローグ改訂。