何度でも何度でも
――もう、何度目だろう。
数え切れないほどアナタは繰り返しました。
何度も笑って、何度も泣いて、何度も怒って、何度も苦しんで、何度も耐えて、何度も挫けて、何度も発狂して。
それでも、それでもアナタは諦めない。
私にはそれが理解できません。
どんなに意気込んで臨んでも、結果はいつも変わりないのに。
過程がいくら変わっても、結末は一緒なのに。
それなのに何故アナタは何度も繰り返すのでしょう。
今もアナタは泣いています。
大事な人をまた救えなかったから。
何度目かわからない世界、それなのにまだ流せる涙があるのは凄いことだと思います。
――さあ、もうすぐアナタがこちらに来る時間ですね。
大事な人が亡くなってすぐ、アナタはいつも通り自分の命を絶ちます。
噂をすれば、ほら。
「…………」
涙を流し、がっくりと肩を落とした状態で彼はそこに姿を現した。
いつもと変わらぬ表情、そしていつもと変わらぬ絶望した顔。
何度目かわからないその表情に、私はいつもと同じ言葉を口にする。
「もう、諦める気になりましたか?」
このセリフも何度目かわからない。
私は無表情で、そう問う。
アナタはそんな意地悪な質問にもいつも通りの強い眼差しを私に向けた。
「諦めねえよ。何回でも何回でも成功するまで繰り返すに決まってんだろ」
いつもと変わらない返答。
この世界も繰り返しているのではないかと錯覚するほど、アナタはいつも同じ答えを私に返してくる。
「だから俺はもう一度繰り返す。何回も同じ台詞を言わせるな。俺はどんなことを言われようと絶対に諦めねえからな」
彼はもう立ち上がっていた。
その目に涙はもうない。
あるのは覚悟だけ。
何度も見続けてきた、その目。
私はその目を見ると何も言えない。
何を言っても、彼は聞いてくれないから。
「…………一つ」
でも、それでも一つ。
私は尋ねる。
もう何を言っても無駄なことは承知の上で、私は問う。
「アナタは、何故そこまで頑張るんですか?」
「大切だからだよ。俺は何度も救われた。だから次は俺が救う番だ」
「……それでも、もう何度も何度も失敗したではないですか。次も失敗して、その次も失敗して、アナタが苦しむだけなんて――」
「俺は何度言われても繰り返す。100回失敗しても101回目は成功するかもしれない。1000回苦しんでも1001回目は報われるかもしれない。10000回ダメでも10001回目は何か変わるかもしれない。俺が何回失敗しても次のチャンスが来るんだ、だから少しでも可能性がある限り俺は諦めない――絶対にだ」
言い切った。
私の目を見つめながら、強く。
果てしない覚悟で、強く。
「…………」
今度は本当に、口を噤むしかなかった。
圧倒されたのだ、彼の覚悟に。
私はずっと彼を見てきた、でも今の彼は私が見てきた彼とは全然違う。
弱くて脆かった彼は、もうそこにはいない。
そこにいるのは一人で立ち上がって一人で歩くことが出来る、強い男の子だった。
「ったく、いつまでも泣き虫だけは直らないんだな。じゃあ、俺そろそろ行ってくるよ。もう何回目かわからない世界に」
「あ……」
「安心しろって。絶対無茶はしないから。だからそこで見とけ、俺の頑張りを」
そう言って、アナタは歩いていく。
世界を変える為に。
あったことを無かったことにする為に。
自分の体を犠牲にして。
「――それと、もう泣くなって。絶対俺が救うからさ――義姉ちゃん」
「うる、さいですよ」
「いつも俺を親父から守ってくれてありがとう。だから今度こそ俺が義姉ちゃんを助けてみせる、救ってみせる。だから成功した時はさ、一緒に二人で暮らそう。あの家を出て、二人でさ」
「……あり、がとう」
「じゃ、行ってくるからさ。見ててよ、俺の頑張りを」
義弟は旅立った。
私を救う為に、あの地獄のような生活に。
ありがとう、本当にありがとう。
「……頑張ってね」
私は姉より妹の方がもっと好きです。