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第二章 狩りと過去

ミストファーに水晶のことを教えた夜から日が昇った。


朝をとっくのとうに過ぎているというのに昨日ウォーン族にお告げを聞きに行ったフォールウィングはまだ帰ってこない。


サンダーストームはそのことに気づいて集会を開いた。


皆集まったのを確認するとすぐ話し始めた。


「昨日出かけたフォールウィングがまだ帰ってこない。普段は半日で帰って来れるはずだが・・・」


「途中でなにか遭ったとか?」シェイドファングが群れてる猫のなかから声をあげた。


「それが一番考えられるかもしれない」サンダーストームがしっぽを一瞬だけ激しく振った。「フォールウィングが帰ってきたらこの頃続いている日照りのため小川へ水を飲みに行こうかと思ってたが・・・」


「そうだよ!日照り!」タイドフットが声を張り上げた。「フォールウィングを待つより水分補給した方が良くないか?」


「だが副長が帰ってこないのでは心配だ」


リーフスモークはグゥっとのびをして言った。「う~ん、僕はやっぱりフォールウィングを待ってから言った方が良いと思うよぉ?」


サンダーストームはリーフスモークの言葉を聞いてうなずいた。「少し待とう」


タイドフットは自分の思い通りにならなくていらいらしたのか、しっぽを激しく振っていた。


「フォールウィングはいったいなにをもたもたしているんだ・・・」タイドフットが静かに言った。「このままではフォールウィングが帰ってくる前に小川が干上がってしまうぞ!」


それを聞いていたシェイドファングが笑って言う。「もう少し待ってもいいだろ。そんなにすぐ小川は水たまりのように干上がらないから!」


「知っているそのくらい!」


「タイドフットにとっては小川と水たまりは同じようだな!」


タイドフットは今にも襲い掛かってきそうな目でシェイドファングをにらみつけてきた。


「俺は待ちきれない!」タイドフットはそういうと族長の部屋にずんずん歩いて行った。


「サンダーストーム!」タイドフットは部屋の前で叫んだ。「フォールウィングを置いて行って今すぐ行くべきだ!小川が干からびちまう!」


部屋の中からサンダーストームの声が聞こえた。「心配するな、今さっき帰ってきたんだ。集会をしている間に裏口から戻ってきたみたいだ」


「遅れた理由はなんだ?寄り道か?」タイドフットが厳しく訊いている。


「凄く荒々しい、ながいお告げだったそうだ。もう疲れきっていて歩けそうもないからフォールウィングは置いていく」


「結局置いてくんじゃないかよ!」タイドフットはフウっと勢いよく息をはいた。「なら早く行こうぜ!」


サンダーストームはタイドフットを無視してゆっくりファイヤ族の皆を集めに行った。


猫たちが集まるとサンダーストームは何も言わずに列の先頭に立ち、ゆっくり歩き始めた。


サンダーストームのとなりには、いつもならばフォールウィングがいたはずだがフォールウィングは留守番のためにいない。


代わりにタイドフットがついていた。副長の代わりができてうれしそうに歩いている。


シェイドファングはミストファーやリーフスモークと一緒に列の最後尾を歩いていた。


 シダの茂みをいくつも飛び越え、太陽が西に傾き始めた頃ついに小川にたどり着いた。



「わぁっ!これが川なんだ!」ミストファーが歓声をあげた。ミストファーは川を見たことがなかったのか?


「さっそく水飲も~」リーフスモークがのんきにそう言って川に顔を近づける。


他の猫もリーフスモークにつられて飲み始めた。


「僕も飲む!」ミストファーは子猫のように川にバッと跳びより、勢い余って川に顔を突っ込んでしまった。


「ぶぇっ!水が鼻に入って痛いよ!」


シェイドファングはその様子を後ろから見守っていて胸がいっぱいになった。ミストファーがこんなに元気になってくれた!


「なぁ、リーフスモーク」シェイドファングはリーフスモークに言った。「こんなに暖かいんだし、サンダーストームに許可もらってミストファーに狩りを教えないか?」


リーフスモークは顔をあげてうなずいた。「訊いてくるよ」


 リーフスモークはすぐに戻ってきた。


「良いってさぁ」リーフスモークが木陰にいるサンダーストームからこちらに向かって歩きながら言った。「ただ、遅くても夕方になる前に帰って来いって」


「よし、じゃあ・・・」シェイドファングはミストファーのもとに行った。「ミストファー、狩りに行こう。リーフ族のなわばりの方へ行くぞ」


ミストファーは呼ばれるなりバッと勢いよく振り向いた。「ぇえ!狩りですか!行きましょう!どこに行くんですか?」


「今言っただろう。リーフ族の方に行くって」シェイドファングは笑いながら言った。「さっ、行くぞ」




川からだいぶ離れたところで三匹は立ち止った。リーフ族のにおいが強くする。


「ここで良いよねぇ。獲物のにおいもするし」リーフスモークがそっと尻尾で木の上にとまっている鳥をさした。「僕は狩り下手だしさぁ、シェイドファングが手本見せてくれるよね」ちらっとシェイドファングを見た。


「そんなこと聞いてないんだけどな?」シェイドファングはふざけてリーフスモークを睨んだ。「まあ、いいや。確かにリーフスモークが手本になるとは思えないから俺がやってやるよ」


「いつもこうなんですか?シェイドファングとリーフスモークは」ミストファーが笑って言った。


シェイドファングは答えず、狩りに集中した。さっき木に止まっていた鳥はもういないが、ネズミが地面を這っている。


「頑張れ~!」ミストファーが小さく言った。


シェイドファングは音を立てずにそろそろとシダの茂みのなかを動き始めた。


ネズミはシェイドファングに全く気付いていない。何かの実をかじっている。シェイドファングはネズミのどんなに小さな動きでも見逃さなかった。


しばらくするとネズミはシェイドファングに背を向けた。


シェイドファングは身体に力を込める。


そしてシェイドファングは地面を力強く蹴り上げ、ネズミに飛び掛かった。


逃げる隙のなかった獲物の体に爪を光らしながら食い込ませるとネズミはすぐにくたっとなった。


シェイドファングは捕まえた獲物を銜え、誇らしげにリーフスモークたちのところへ戻る。


「わぁぁぁっ!すごいですね!」ミストファーが歓声を上げて言う。「僕にできるでしょうか?狩りはやったことありません」


「今から努力すればすぐできるようになるよ」リーフスモークがぐぅっとのびをしながら言った。「やってみ?」


シェイドファングはあたりを見回して獲物がいないか見た。フェズ岩より一回り小さい岩の上にキジがいる。


「あのキジを捕ってみろ」ついさっき見つけたキジを顎で指した。


「ええ・・・・あんなに大きい獲物捕るんですか・・・」自信なさげにミストファーが言う。


「的が大きくていいだろう。だが抵抗する力も強いからな。気をつけろ」シェイドファングが静かに言った。


ミストファーはいそいそと身体を伏せてキジに近づいていく。


シェイドファングはその間にリーフスモークにネズミを渡した。


気づけば、ミストファーはキジまで1、2メートルほどまで近づけていた。


ミストファーは思ったより近づけることができて興奮したのか、キジが丁度警戒しているときに大きな足音を立てて飛び掛かったのだ。


キジはさっと素早くミストファーの爪から逃れ、シダの茂みに消えた。


ミストファーはキジのいた岩を飛び越え、着地しようと足を踏ん張ったようだが失敗して転んだ。


「はははっ!これじゃあ、狩りより先に着地の練習だね!」リーフスモークが大声で笑った。


ミストファーは恥ずかしそうにしながらシェイドファングの後ろに隠れた。


「ま、最初はこんなもんだよ。失敗から学ばなくちゃ」シェイドファングはミストファーをかばって言った。


「そ・・・・そうですよね」


その時にリーフスモークが急に黙ってシェイドファングに渡されたネズミをミストファーの頭に乗せたのでミストファーはびくっとして乗せられたネズミを落としてしまった。


「ちょっと用事を思い出したんで先に帰るよ」リーフスモークが突然そういうと走りだした。


「お、おい!」シェイドファングは驚いてリーフスモークを呼び止めようとしたが聞こえなかったのか、それとも無視したのかわからないがそのまま行ってしまった。


「なんだよ、あいつ。」シェイドファングはあきれて言った。


「あの、このネズミどうしますか?」ミストファーはそう言った後にお腹が鳴ったようだ。背中の毛が逆立っている。


「腹減ったんだな。このネズミ食べるか」


「いいんですか?」ミストファーの目が輝いた。


「もちろん。俺はもう一匹獲物捕ってくるから居心地良いところ探してそこで待ってろ」


「わかりました。シェイドファング」


シェイドファングはミストファーがそういうと茂みに飛び込んで行ってしまった。



 シェイドファングがミストファーから離れてしまうと急に周りが不気味なほど静かになったような気がした。


そしてさらに周りが怖くなった。


シェイドファングたちがいなくなると自分があまりにも無防備に感じ、そこらじゅうから何かが自分を襲ってくるかと思い、背後が気になって仕方がない。


そうびくびくしながらミストファーはシェイドファングが捕まえたネズミを銜えて木々に囲まれた小さい岩のある窪地に座り込んだ。


 ここなら木々に守られているような気がして安心だ。


風が心地よく、ミストファーはしばらく窪地で思わずうとうとしていた。


だが何か気配がしてはっと目が覚めた。


 敵なの?


ミストファーはさっきよりもっと怖くなり、背中の後ろにある木に身を寄せた。


 その気配はいったいどこから・・・・・?


木の上など隅々を見て気配を感じ取ろうとしたが、どこにいるのかは感じられない。


ミストファーはあまりにも怖くて悲鳴をあげそうになった。


 どこにいるの?! こっちに来ないで!


そう思った次の瞬間、急に体が横に吹っ飛び、大きな足で強く体をおさえられた。


 やっぱり敵だ!


ミストファーは怖さの残ったまま必死にもがいた。爪を出し、相手をひっかく・・・だがそうはいかず、中をかくだけで敵の体には全く届かなかった。


一瞬、相手の力が弱まったのを感じ、ミストファーは身を翻し相手の腹の下から抜け出した。


そして相手の顔がいま初めて見えた。


濃い灰色の毛に黒い目。


「シェイドファング?」ミストファーは驚いてこれ以上声を出せなかった。


「そうだよ」シェイドファングは笑いながら言う。「信じられないかい?」


ミストファーはほっとして背中の毛をねかせた。


 殺されるかと思った・・・


「なんで急に僕を襲ったりしたんですか?」ミストファーはさりげなく訊いた。


「試したんだよ」


「試した?僕を?」


「そう。どのくらい戦えるかを、ね」


ミストファーは恥ずかしくなった。自分の攻撃は全く相手に届かず、やられっぱなしだった。試されるほどの実力じゃなかったのだ。


「…僕は戦うのは嫌いです」ミストファーはうつむきながら小さく言った。


「だったら戦えるようにしてあげるよ。それが指導者ってもんだろ?」シェイドファングがやさしく言ってきた。


「こんな僕が戦えるでしょうか・・・」


「ああ。戦えるよ。努力すればできる」シェイドファングは目を輝かせている。「諦めずにね」


ミストファーはシェイドファングが目を輝かせているのを見てなんだか今からでも立派に戦える気がした。


 頑張ってみよう!


「よし、獲物捕ってきたし、食べるか」シェイドファングがさっき捕ってきたとみられる鳥を木陰から持ってきて岩に背を向けてもくもくと食べ始めた。


ミストファーもシェイドファングと争って遠くに飛んで行ってしまったネズミをシェイドファングの向かいに座って食べた。


 「そういえば」シェイドファングがもごもご言う。「お前の後ろにある木はリーフ族のなわばりとファイヤ族のなわばりの境目なんだ。昔に母さんとリーフ族にいたんだろう?生まれた場所のにおいがしないか?」


 におい?


「まぁ・・・確かにそうですね。でも今気づきました」適当な返事をした。


「今?」シェイドファングは少し驚いた顔をした。


 変なこと言っただろうか。


「結構リーフ族のにおいがするから遠くからでもわかるはずなんだけど・・・。それも知ってるにおいのはずなのに・・・」


「え・・・僕今日鼻が利かなくて・・・」


シェイドファングはやっぱり変な顔をしている。


「・・・まあ、いいや。とにかく、リーフ族のなわばりに近いところに今までいたんだから間違っても他の部族のなわばりに入らないようにしてくれ。入ったらごたごたが起こるだけだ」


「ええ、すみません。前に追い出された僕は入ったら余計に騒ぎになってましたね」ミストファーは追い出されたときを思い出し悲しくなった。「気を付けます」


「そうしてくれ」シェイドファングはそういうと鳥を食べ終わり、毛づくろいをし始めた。


 「ところで」シェイドファングはミストファーの毛づくろいをなんとなく見ていながら言ってみた。


「なんでお前の母さんはいないんだい?悪いけど教えてくれないかな」


ミストファーは一度大きく目を開いてからすぐにうつむいた。


 やっぱり訊いちゃ駄目だったかな・・・


しかしミストファーはゆっくり話し始めた。


「僕の・・・母さんは・・・リーフ族の族長のある提案に納得がいかず反対したのですが、反対意見を出したのは母さんだけで・・・このころまだ仔猫の僕と一緒にリーフ族に追い出されました。


僕たちは行き場所がなくてリーフ族からはるかに遠い小さな森で長い間暮らしていました。


しかしある日に大きな犬が僕たちを襲いに来たんです。


僕は逃げようと母さんを探しました。


でも母さんは逃げるどころか犬と戦おうとしていたんです。


僕は母さんにを呼びました。『戦っても死ぬだけだ』って。


でも母さんは『私はミストファー、お前を逃がすために戦う。私が逃げればお前と私どちらも犬のいい餌になってしまう。でも母さんがここで犬の足止めをすればお前は逃げれるんだよ』って言いました。


僕はまた逃げるように言おうとしましたが・・・


犬が母さんに飛び掛かったんです。


母さんは犬と戦いながらもこう言いました・・・


『喋る暇があるのならにげるんだよ!私の死を無駄にするでない!』・・・」


ミストファーは静かに涙を流していた。


「僕は母さんの言葉に突き動かされ、全力で走りました・・・母さんを見捨てて・・・・。走りつかれて休もうと座り込んだのはこの前シェイドファングやタイドフットたちと初めて会ったあの場所です」


シェイドファングは本当に悪いことを訊いたと思った。だから会ったばかりの日はあんなにおびえていたのだ。


・・・母を失って間もないミストファー・・・


「ごめんな。こんな事訊いて・・・」


「いえ、いいんです」ミストファーはやっと顔をあげた。涙が顔をあげたのと同時にきれいに散った。


「いずれ話すことになると思ってましたから」


「そうか・・・」


 自分もミストファーのような過去をたどってきたのだ。凄く共感できる・・・


「僕はその勇敢だった母さんにお礼として・・・強くなって母さんより立派になります」ミストファーが少し笑顔になった。


「いい決意だ」シェイドファングはすっと立ち上がった。


もう空がきれいな赤で染まっている。早く帰らなければ。


「帰ろう」


ミストファーもゆっくり立ち上がった、その時。


「おいおい、なんでこいつらがここにいるんだよ?」



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