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第一章 新入り

シェイドファングは夢の中で自分を呼ぶ声が聞こえた。


「・・・シェイドファング、シェイドファング!起きろ!なわばりのパトロールに行くぞ」


シェイドファングは目を開けると、薄い灰色の毛にエメラルド色の目をした、サンダーストームが目の前にいたのが見えた。


シェイドファングは仕方なくゆっくり立ち、グウッとのびをした。今日はいい天気だ。日の当たり具合が丁度良い。


「パトロールにはタイドフットも連れて行く。じゃあ、フェズ岩の前で待ってるぞ。」


サンダーストームはそう言うとシェイドファングの寝床から出て行った。


 タイドフットも行くのか。


シェイドファングはタイドフットとはあまり仲が良くない。


 今日のパトロールは面倒そうだな。


そう思いながらシェイドファングは自分の寝床から出て、フェズ岩のそばで待っているサンダーストームとタイドフットのところまでゆっくり行った。


フェズ岩はファイヤ族のキャンプの中心にあり、族長が集会をひらくときなどに使ったりする岩だ。


「よう、寝坊助」タイドフットはシェイドファングがそばに来るなり目を細めて言った。「待ちくたびれたぜ?」


「そうかよ、昨日は一日中獲物取りに行ってたんだ。疲れてるんだよ!」シェイドファングはカッとした。「俺はお前と違って忙しいの!!」


その時、隣にいたサンダーストームが口をはさんだ。「毎日、毎日うるさいぞ。パトロールの時にもやるようだったら追い出すからな!」


その言葉でシェイドファングとタイドフットはやっと静かになった。さすがに追い出されるまでやりあう必要はない。


「さぁ、行くぞ。」座っていたサンダーストームが立ち上がった。太陽の光を浴びて毛がきれいに光った。「いつもはウォーン族のところに行くが今日はもうすでにフォールウィングが告げを聞きに行っている。だから今日はリーフ族近辺をパトロールするぞ」


「わかりましたよ、サンダーストーム」タイドフットも立ち上がり、けだるそうに言った

 ウォーン族とは、リーフ族、ファイヤ族と違い、不思議な部族で、風の流れからこれから起こることを読み取ることができる部族だ。ほぼ二か月に一回は必ずウォーン族へ行くようにしている。


シェイドファングはサンダーストームの後ろについて行ったが、後ろにいるタイドフットの鋭い視線を感じていた。ちょっと睨みつけてやりたかったが、サンダーストームの言葉を思いだし、静かにしていた。


タイドフットはやっぱり嫌いだ!もうかかわりたくない!!



三匹は一緒になって歩き出した。シダの茂みにはいっても、獲物を見つけようが、だれも話さなかった。

やがて、リーフ族のなわばりの近くまで来た。


サンダーストームが口を開いた。「さ、この辺に異常がないかしっかり見てくれ」


「わかってるよ!」タイドフットがぶっきらぼうに強く言った。


シェイドファングは静かにちゃんと聞けよ、と言ってやろうと思って口を開いたがすぐ閉じた。どうせ言っても面倒になるだけだ。


しばらくうろうろしていると、タイドフットが急にうっそうと茂ったシダの茂みに向かって背を低くして鋭く唸りはじめた。


「どうしたんだ?」


シェイドファングが目を細めてタイドフットに訊いた。


タイドフットは爪をだし、尾を膨らませて言った。


「リーフ族の奴がそこにいる!」


そういうとタイドフットは雄叫びを上げて茂みに飛び込んだ。


猫の威嚇の声が一瞬聞こえたかと思うと、すぐ静かになり、タイドフットは茂みをするりと抜けてきた。


「なんだよ?」シェイドファングはあきれた。「今はお遊びの時間じゃないぜ?」


「そうだよな」めずらしくタイドフットはシェイドファングの言うことを聞いた。シェイドファングは驚いて耳を疑った。「今はパトロール中だ。パトロールはこういうのを見つけたりするもんだろ?これも異常のうちだ」


タイドフットはそういうとさっき飛び込んだ茂みの方を向き、「来い」といった。


  来い?誰かいるのか?


よく見てみれば、タイドフットの口に何かぶら下がっている。


「なんだよ、それ?」


「リーフ族の見習い猫だ」タイドフットはもごもご言った。そしてそのおびえきっている白い毛の見習い猫をシェイドファングの目の前に置いた。


シェイドファングは近づいて見習い猫のにおいをよく嗅いだ。


「タイドフットの言った通り、リーフ族の見習いだな。でもにおいが薄い・・・」


「確かに僕は見習い猫です・・・」白い見習い猫が静かに言った。「でも・・・だいぶ前に追放されて・・・」


「追放だって?見習い猫が追放されるなんてあまり聞いたことないぞ?」タイドフットが笑いながら言った。


「でも、本当なんです・・・!僕のお母さんと一緒に出たんだけど・・・もう・・・母さんは・・・!」


「おいおい、まずはファイヤ族に来いよ」シェイドファングが見習い猫に言った。「サンダーストームが許してくれればファイヤ族の仲間入りだ」


「なんだと?」タイドフットが爪を出して言う。「そいつがリーフ族がファイヤ族に送り込んだスパイってことは考えなかったか、シェイドファング?」


「それは考えすぎだ。」


シェイドファングは後ろから声が聞こえて振り返った。


サンダーストームだ。


「いくら悪い部族でも見習い猫を送り込むことはないだろう。においも薄かったんだろ?だいぶ前に追い出した証拠だ」


サンダーストームの言葉を聞いてタイドフットはいらいらと頭を振った。


「族長さんもシェイドファングも警戒しなさすぎる」


「お前は警戒しすぎ」


シェイドファングは言った。タイドフットはまたシェイドファングをにらみつけている。見習い猫はその様子を見てぽっかり口を開けていた。


「俺はファイヤ族にこいつが仲間入りするのは認める」サンダーストームが穏やかに言う。「だが、ファイヤ族の猫の承認を得なければならない」


サンダーストームはそういうとタイドフットと一緒にキャンプへ戻ろうと歩きだした。


「あ、そういえば、お前の母さんはどこだ?」シェイドファングが訊いた。


「・・・もう・・・いないです・・・・」悲しそうに見習い猫が言った。


「そうか。悪いな。お前名前は何て?」


「ミ、ミストファー」


「へぇ、戦士みたいな名前だな」


「はい・・・母さんがつけてくれました・・・まだ戦えないのに・・・」


「大丈夫だよ。俺が教えてあげるから!」


「あぁ・・・ありがとうございます」


「ちなみに俺はシェイドファングっていうんだ。」


「シェイドファング・・・」


「ああ。」シェイドファングはサンダーストームがキャンプに戻っていることに今気づいた。「じゃぁ、キャンプに行くか。」


「はい・・・」



その会話を聞き耳を立てて聞いていたタイドフットは歩きながらつぶやいた。


「シェイドファングはあんなにすぐ友好的になるから自分に甘いんだ」



ファイヤ族のキャンプに戻ってきた。


ミストファーはフェズ岩まで行くのにどれだけの猫に見られたのだろうか。しばらくはほとんどの猫から異様な目で見られ、落ち着かないだろう。


サンダーストームが一匹フェズ岩に登った。


「集会を始める。すぐ終わるから早く来てくれ」


シェイドファングはフェズ岩の方を見てタイドフット、こげ茶色の毛をしたリーフスモークと並んで座った。


・・・・・もう立ち歩いている猫はいなかった。


「よし、いいな」サンダーストームが言う。「もう聞いてるかもしれないが、新しくファイヤ族に入った見習いがい―」


「なんだって?新しくファイヤ族に入る?」


一族の誰かが声をあげた。


「なんで見習いなんだ?普通の戦士だろうが見習いだろうがどちらにしろ受け入れないがな!」


その時シェイドファングはリーフスモークにささやかれた。「僕は受け入れるんだけどなぁ。一応役には立ってくれそうな猫じゃない?あの子」


「調子が戻ればいい猫だと俺も思うよ」シェイドファングもこそこそ言った。


「黙れ」サンダーストームが冷静に言う。「リーフ族に何らかの理由で追い出されたとこいつ―ミストファー―は言っている。まだ見習いだし、戦いも狩りもまだできない。ミストファーの指導はシェイドファングに任せることにする」


「余計なもの持ってこないでほしいね、本当」雌猫の誰かが言った。


「まぁ、お前らがどう思っていてもミストファーはファイヤ族の一員だ。文句があるならミストファーを追い出したリーフ族に言ってくれ」サンダーストームはそういうとフェズ岩から飛び降りた。


それを合図に集会は終わり、猫たちは散らばり始めた。


「シェイドファング」


シェイドファングは誰かに呼ばれ、あたりを見回した。サンダーストームがしっぽで招いている。


シェイドファングは急ぎ足でサンダーストームに近づいた。


「なんでしょうか?サンダーストーム」


「ミストファーのことだ」サンダーストームはシェイドファングの後ろに目を向けて言った。シェイドファングの後ろにミストファーがぴたりとついてきていたのだ。


「今日の夜、キャンプの外に連れ出して水晶のことを教えてやれ。一人で出歩いても大丈夫なようにな」


「水晶ですか・・・」シェイドファングは小さく言った。なかなか見れないが、水晶は木の根の近くにあり、すごく大きいのだそうだ。そして一つのかけらごとに不思議な力がある・・・。


「よろしく頼むぞ」サンダーストームが言った。


「あ、ええ、はい。」シェイドファングの頭から水晶は消え去った。「しっかり教えます」


「よし」サンダーストームはまたミストファーに目を移した。「ミストファーもちゃんとシェイドファングの言うことを聞くんだぞ」


「はい・・・」



 そして、ついに水晶の現れる真夜中になった。


 シェイドファングはサンダーストームに言われた通りミストファーをキャンプから連れ出し、一番水晶が輝くといわれている大木へ行った。


「わぁ・・・」ミストファーは月より明るく輝く水晶を見て声をあげた。「凄いですね・・・」


「そうだな。」シェイドファングも静かに言った。「これは水晶っていって、あちこちの町にいる情報屋の情報との引き換えに使えたりするんだ」


ミストファーは水晶に近づいて不思議そうにつぶやいた。「へぇ・・・こんなにきれいだもん、価値ありますよね・・・?」


「ああ。それには一つ一つのかけらに不思議な力があるしな」


「力・・・?」


「そうだ。持ち運ぶとき水晶にツタを巻きつけて首にかけるんだが水晶の数に限りがある」シェイドファングはしっぽをさっと振った。「見習い猫は二本まで、戦士の猫は三本までなんだ」


「え・・・なんでですか?」ミストファーが首をかしげる。


「さっき言った不思議な力のせいだよ」シェイドファングは水晶をしっぽでぽんっと触るふりをした。


「子猫が付けると水晶の力に耐えられなくて頭に異変が起きてしまう。ミストファーは見習い猫だから二本までつけられるな。それ以上つけると死ぬかもしれないから気をつけろよ」


ミストファーは話を聞いて唸った。「見かけによりませんね。きれいなのに」


「だから子猫は危険だとは知らずに水晶に触る。それで問題になったから水晶は細かく砕かれて撤去されている。だから水晶はこの部族の森くらいにしかないんだ」シェイドファングは少しニヤッと笑った。


「武器にもなるんだ。でも普通の猫はたいてい使えないんだよ。小さくしても水晶は重いし、くわえて水晶を操らなければならないし」


「へぇ・・・」


「あ、生えている水晶に直接触るなよ」シェイドファングが水晶を見てまぶしく目をつぶった。「砕いて小さくしてないと何万本もの水晶に触れているのと同じになるからな」


「わかりました」ミストファーは元気に言った。もう本調子になってきたのだろう。シェイドファングはうれしく思った。


「もう水晶については教えることはないかな」シェイドファングは大きくのびをした。「さ、かえって寝よう」




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