夕暮れの持ち主
掲載日:2026/06/09
夏の記憶というものは、もっと自分のものだと思っていた。
風が温く感じる頃に響く虫の声が好きだった
正確には、好きだと思ってた
窓の外で鳴き続けるあの音を聞くたび、胸の奥に懐かしさが広がる。
理由は分からない。
ただ、そういうものなのだと思っていた。
誰にでもひとつくらい、説明のできない思い出があるように。
例えば、青い家。
私の記憶の中には、古びた青い家があった。
玄関先には風鈴が吊り下げられていて、風が吹くたびに涼しい音を鳴らす。
庭には背の高い向日葵が
太陽を向き日光を浴びていた、そこで私はどうやら犬と遊んでいた。
白い犬だった
名前も知っている。
何度も呼んだことがある、何度も撫でたことがある、何度も一緒に走ったことがある。
だから、それは私の記憶だった。
疑う理由すら無かった。
少なくとも、あの日まで
高校の課題で昔のアルバムを整理することになった。
押し入れの奥から引っ張り出した段ボールは
埃っぽくて、空けた瞬間咳が出た。
写真を1枚ずつ、机に並べていく。
運動会、入学式、海水浴。
どれも確かに私だった
だが、探しても見つからない。
青い家、向日葵、白い犬がいなかった。
夏が終わると、思い出は少しずつ色を失っていく。




