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神からの贈り物(ショートショート)

作者: 藻ノ かたり
掲載日:2026/03/26

私は、生涯を神にささげて来た。自分ではただ一心に働いていただけだったが、気がついてみれば司教と呼ばれる身となっており、皆も私を大変信頼してくれている。


そんな私の前に、天使が現れた。


「お前は長い間、よく神に尽くしてきた。よって、神より褒美が賜られることとなった」


見返りなど何一つ期待していなかった私にとって、天使の申し出は大変意外なものであった。


「褒美というのはな、お前に特別な能力を与えるというものだ。


一回限りではあるが、お前は一人の人間の心の中を隅々まで見ることができる。


お前ほどの地位にもなれば、対人関係にも悩まされよう。その苦労を少しでも和らげてやろうという神の思し召しだ」


天使のおごそかな声が、二人だけの聖堂に響く。


あぁ、神に仕えてきてよかった。


私の両の頬には、とめどなく感激の涙がしたたり落ちた。


「ただし、それは三年間に限った話である。人間には過ぎた能力を与えた場合、肉体が長期間の負担に耐えられないからだ」


私は重ね重ねの配慮に、いっそうむせび泣く。


天使が去った後、私は夢ではないかとも考えたが、それはむしろ神への冒涜に当たると思い自らを恥じた。


さて、神からの賜りものをどう使うべきか。


私には有りがたくも、大きな悩みが出来てしまった。くだらない事に使ってしまっては、それこそ神に申し訳が立たないからである。


人の心が分かるのは、確かに便利な能力であったが、いざ使おうとすると”もっと重要な場面があるかも知れない”という思いに駆られ踏ん切りがつかない。


そして神からの賜りものであっても、やはり人の心を隅々まで見てしまうというのは、かなり罪悪感のあるものだ。


どうしよう……。


考えあぐねていた私であったが、日々の多忙さも手伝って、つい能力を使いそびれて三年近くが経ってしまった。


いや、本当に困った。


もう幾日かが過ぎれば、神から授けられた能力も使えなくなってしまう。それでは余りにも不敬であろう。早く機会を得ねば……。


色々と思案を巡らしてみたものの、どうもいい機会には恵まれそうにない。


「おい、しっかりしろ。神のご意志を無駄にする気か」


私は、寝室の壁にある鏡に向かって、自らを鼓舞した。


「そうだ」


フッと、私の脳裏に名案が浮かんだ。


”自分自身の心”を見てみよう。


私は今まで布教に一身を投げうってきたが、それが本当に本物かどうかを確かめる術はなかった。無論、自信はある。が、それは私の思い上がりなのかも知れん。


もし、私の信心が本物であればそれでよし。一点の曇りでもあればその時は残りの生涯をかけて改めていこう。


私は鏡の中の自分を見つめ、意を決して天使に教えてもらった呪文を心の中で唱えた。



翌日、私は司祭を辞め、信徒としても神に仕えるのをやめた。



「神様。どうやら、また不合格のようですね」


天使の顔が曇る。


「あぁ、他人の心を読もうなぞ、思い上がったことをしないまでは良かったのじゃがな」


神が”またか”といった表情でため息をつく。


「人間は元来、おぞましい存在じゃ。多くの者は、それを誤魔化したり知らぬふりをするために神をあがめておる。


”使徒”として働くには、それでは駄目じゃ。己の醜さを自覚し、なおかつ、そのとてつもない卑しさに耐えられる者でなくてはな」


「使徒が見つからないのであれば、新たな救世主を遣わすわけにはいきますまい。まだ当分の間、人間界では地獄の如き世が続きますね」


「そうだな」


その言葉を発した神の心に”滅亡”という文字がチラリと浮かんだが、おつきの天使がそれに気づくはずもなかった。



【終わり】


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