7.天界最強の俺、下界での自分の名を知る
『それで…ずっと気になっていたが、その血大丈夫か?』
「血?」
ルークの視線が自分から出てきた赤い液体に向けられていることに気づいた俺は、平気だと答えた。
【これがあの血か…親父が言っていたのはこれのことか。人間には赤い液体が流れるって、これは俺たちで言う体を駆け巡る神聖力、聖流と同じ働きだと。】
「これのことなら平気だ。」
『そうか、それなら良かった!…それで他に気になることはあるか?』
俺の横を歩くルークが俺に笑顔で問いかけてきた。
【聞きたいこと…】
「…魔素と魔力についてもっと教えてくれないか?」
ルークはニカッと笑った。
『あぁ、いいだろう。道のりも長い、俺が知っていることは全て教えるぞ!』
「…ありがとう。」
天界では下界の話から逃げるために必死だった自分が、今となっては自分から質問して聞いている…なんもと言えない気持ちになるな…。
『そうだなぁ…この世界は魔素によって成り立っていると言っても過言では無い。人間だって、魔物だって、物にだって魔素が含まれているからな。』
ルークは手を動かしながら続けて話した。
『魔力は自身の体にある魔素を自由にコントロールできる力のことを指すかな。だから魔力量が多ければ多いほどできることが多くなるんだ。』
【…魔力は神聖力みたいなものか?】
「ってことは自分の魔素量は限界があるんだろ?鍛えたところで扱える魔素がないんじゃ意味無いじゃねーか。」
『意味はなくないぞ。』
『あるじゃねーか…』
ルークは指さしを空中でくるくるさせるとニヤッと分からった。
『ここに。』
【…!】
「もしかして…人間は空中の魔素まで操ることができるならのか?!」
『その通りだ!』
『だが、大気中の魔素をコントロールするのは自分の体内の魔素をコントロールするよりもずっと難しい。簡単に表すと…5倍くらいだな!5倍難しくなる。』
「5倍…でも、それってつまり魔力量に限界がないってことだろ?」
『ガッハッハー!限界かぁ …面白いことを言うな!そうだな、人間は成長が止まらないからな!可能性は無限に広がってるぞ!!』
【無限…終わりがない成長??】
俺はニヤニヤが止まらなかった。
「人間…面白いじゃないか!!」
ルークは少し驚いていたがすぐに笑って答えた。
『そうだな!!人間は面白い生き物だな!ガッハッハー!』
【天界で俺は神聖力のコントロールが誰よりも上手かった。だがそれは元々俺の中の神聖力が誰よりも多かったのが1番の要因だ。】
「おい!ルーク!俺の体内の魔素はどうやって知ることができるんだ?!…魔力もだ!!」
『まぁ待て、街に着いたら冒険者ギルドへ連れて行ってやる。』
【あぁ、急にこの世界が楽しくなってきた!無限な力…最高じゃないか!】
『ほかには何か気になることはあるか?』
【ほかに…?】
「…すまんが、何が分からないのかも分からない。」
『そ、そうだよな!また気になることがあったら言ってくれ。』
『あぁ…』
しばらく沈黙が続いたが、景色が少し変わってからだろうか。ルークが急に声をかけた。
『あれだ!見えるだろ!もうすぐで着くぞ!』
ルークが指さす先を見た俺は目を見開いた。
「すっげぇ…なんだこれ…」
遠くに見えるその〝街〟には見たことがない建物が密集していた。天界にはない茶色や黄色、白を中心にいろんな色の建物が新鮮だった。
「天界にはこんなんじゃなかった…白ばかりの建物だった。…綺麗だな…。」
『ガッハッハー!そうか!そうか!この国にはもっと面白いところが沢山ある!楽しんでいってくれ!』
「あぁ!」
ルークがまた足を進めた。
『おい!置いてくぞ!』
「すまない!」
俺はルークの元まで駆け寄ってまた肩を並べて歩き始めた。
ザッザッ ザッザッ
『もうそろそろ着くな。』
「…あぁ!」
目の前にある一本道の先には横切るように流れる大きな川があった。そして、その川にかかっている大きな木の橋の上には人が集まっていた。
『この先にあるのがアルセリオ王国の冒険者の街リュミエールだ。各国の冒険者もよく出入りするから街に入るのには少し検査が必要になる。』
ルークは俺をじっと見つめて言った。
『…その、お前は記憶が曖昧だろ?でも、あそごではっきりと自分の情報を確認できるからな…もう少しの辛抱だ!』
「…何を言ってる?」
ルークはまるで俺が可哀想だと言わんばかりの顔をしている。
『…もうつくからな!当分は俺の家で生活していいからな!』
何を言おうとしてもルークはそういうばかりであった。
【…もう否定するのは諦めよう。】
『着いた!』
俺たちは前にいる2人の後ろで足を止めた。
「これは何をしているんだ?」
『あぁこれはだな、身分を証明させてるんだ。重罪人はそんなにやすやすと入れられないだろ?それに街の人間以外の人間は入る時にお金がいるからな、それをここで徴収するんだ。』
「…お金?あぁ、人間が物や物事の対価として渡す便利なやつだったな。」
『そうだな…!そんな風に言ってる奴は初めてだがな!』
『次の方はこちらにどうぞ!』
前の2人が門の先に入っていった瞬間声をかけられた。
『あぁ!』
ルークはそう返事をすると足を進めた。そして、門の横にある小さな建物の中にいる人に話し始めた。
『ご苦労だなニール!』
『あぁ!ルークか!随分遅かったじゃないか?なにかトラブルか?』
『まぁ、トラブルといえばトラブルか?』
そう言ってルークは俺の肩を叩きながら話し始めた。
『こいつを大森林セレナの西で見つけてな、どうやら記憶喪失みたいだ。少し調べてみてはくれないか?』
『記憶喪失?それは大変だったな!…名前はなんて言うんだ?』
「…モルディアだ」
『モルディア…』
そう呟くとニールは紙にモルディアと書き、その紙を前にある大きな石版の空いている穴に放り投げた。
しばらくしてからだ、
〝ティロン〟
なにか音がしたかと思うと石版から出てきた紙を見てニールは話し始めた。
『…モルディアって名前で君くらいの歳の人はいないみたいだ…本当にその名前で合ってるか?』
「いや、俺は間違いなくアル=モルディアだ!」
『アル??お前貴族か何かか?』
ルークが驚きながら問いかけてくる。
「…貴族?なんだそれは?」
『…やっぱりこいつは混乱してるんだ!家名なんてこの国じゃ王族、貴族しかないんだぞ!あまり人前ではその冗談を言うんじゃないぞ!ガッハッハー!』
そう言って肩をバンバン叩いた。
【…どういうことだ?それはじゃあ…ここでは誰なんだ?】
『名前が分からないんじゃしょうがない。血判から見つけるか…』
ニールはそういうと俺の前に紙と、木の台に刺さった針をコトンと置いた。
『この針に指を突き刺して、紙の…ここだな、ここにその血を押し付けてくれ。』
ニールは黒い線で囲われた場所を指さしながら針を少し前に突き出した。
「…分かった。」
俺は恐る恐る人差し指を針に近ずけるとグッと力を入れた。
「イテッ」
ぷくっと血が指から溢れてきた。
【何度観ても慣れないな…】
血が流れる血を指示された場所にグッと押し付けると、ニールがその紙をすぐに石版の穴に放り投げた。
またしばらくたってからだった
〝ティロン〟
石版から出てきた紙をこちらに向けて広げるとにーるは言った。
『素性がわかったぞ!…えっと名はハーファンと言うんだな!』
「ハーファン?!」
『そうか!そうか!ハーファンと言うのか!ちゃんと自分の名を思い出して良かったな!ハーファン!』
「あ、いや…俺はモルディ…」
『ハーファン!混乱して大変だろうけど、この名前になれていこうな!』
背中をバシバシと叩きながらルークは言う。
【ハーファン…】
俺はこれからここでハーファンとして生きて行くみたいだ。




