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短編集

サラリーマン、こっそり作家やってます

作者: 逢坂巡
掲載日:2025/11/05

昼休みになると、僕は急いで仕事をやめる。

オフィスの片隅の、あまり人が通らない小さな机が、僕の席。

周りの同僚はランチを楽しんだり、スマホを覗き込んだりしている。

そんな中、僕だけが自分の世界に浸っている。

⋯⋯ようやく、小説が書ける。


文章を書くことは、僕にとって特別な時間だ。

小説を書くときだけ、現実のざわめきから離れられる。

仕事のプレッシャー、上司の無言の圧力、メールの通知音、鳴り止まない電話。

そういうものが、一瞬で遠くに消えるような気がする。

指先がキーボードの上を走るたび、登場人物が動き出し、物語が少しずつ形になっていく。


でも、昼休みは短い。たったの一時間。

LINEを見て、食事をして、少し休んだらもう休憩が終わる。

そんな中で文章を書くのは、決して楽なことではない。

頭の中で構想をまとめ、言葉を選び、文章にする。

まるで砂時計の砂をすくい上げるように、一分一秒を大事にして文字を紡ぐ。


今日は、急いで昨日思いついた物語の続きを書く。

主人公は、いつも勇気が出せずに躊躇してしまう青年だ。

僕自身と似ているところもあって、書いているときは自分を重ねてしまう。

青年が小さな一歩を踏み出すたびに、胸が熱くなる。物語を通して、僕は違う世界に生きているんだ。


(でも、もっと時間があれば……)

僕は何度もそう思う。

きっと、僕と同じようにサラリーマンとして働きながら小説を書いている人ならば、みんな同じことを思うだろう。

働いていると、仕事が忙しくて定時を過ぎてもデスクに向かうことがある。もちろん、これは残業。

なかなか、時間通りになんて帰しちゃくれない。

昼休みのわずかな時間にだけ、物語の世界に逃げ込むことで、僕は何とかこうして働いている。



さて。

昼休みが終わる。

机の上のノートパソコンを閉じ、弁当箱を片付ける。

現実に一気に戻される。容赦がない。

会議、電話、資料作成⋯⋯

どれも小説とは比べ物にならないほど味気ない。

しかし、それでも僕は諦めたくない。わずかな休み時間でも、文章を書き続ける。それが、自分を少しでも生き生きとさせてくれる唯一の方法だからだ。

小説があるからなんとか働けるんだ。



帰宅後ももちろん書く。

電車の中ではスマホにメモを取り、眠れない夜はノートに文字を書きなぐる。

仕事の疲れで体は重いけれど、心は少し軽くなる。アウトプットするのが気持ちいい。

文章を書き終えた後の充実感は、何にも代えがたい。

誰も褒めてくれなくても、読者がすぐに増えなくても、僕は書く。書くことで自分を確かめるのだ。

これが自分なのだ、と。


たまに、ふと思う。もしも小説で生活できる日が来たら、どれだけ幸せだろう、と。

でも現実はそう甘くない。

文章で稼ぐのは簡単ではなく、安定した生活を考えれば普通の仕事に戻るほうが手っ取り早い。

けれど、僕はやめない。諦められない。

気づくと、なぜか、つい小説を書いてしまうんだ。


同僚の誰かが横目で見ているかもしれない。

昼休みの小さな時間に、何をしているんだろう、と。

それでも構わない。

自分の小さな世界に、少しの時間でも浸れたら、それだけでいいのだ。


僕はふと画面の文字を見つめる。

物語はまだ途中だ。

主人公は、今日も迷いながらも一歩を踏み出す。

僕はその一歩を、そっと応援する。

昼休みの小さな時間に紡ぐ物語は、僕にとって生きる糧になっている。


そしてまた、次の昼休みを待つ。

わずか一時間の自由な時間。

そこに僕は、現実の重さを少しだけ忘れて、自分だけの世界を持つ。

文章を書くことは、僕にとって仕事以上に、人生を豊かにするものなのだ。

もちろん、僕だって人間だから、ついつい周りの評価が気になって、評価ポイントを何度も確認してしまうのだが。


ちっとも増えていないブックマーク数やPV数を見て、

「くそ。もっとおもしろい小説を書いてやる!」

そんなことを考える毎日なのである。



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最後までお読みいただき、ありがとうございます。

作品の感想を、★〜★★★★★で評価していただけると嬉しいです。

今後の創作の励みにさせていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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