サラリーマン、こっそり作家やってます
昼休みになると、僕は急いで仕事をやめる。
オフィスの片隅の、あまり人が通らない小さな机が、僕の席。
周りの同僚はランチを楽しんだり、スマホを覗き込んだりしている。
そんな中、僕だけが自分の世界に浸っている。
⋯⋯ようやく、小説が書ける。
文章を書くことは、僕にとって特別な時間だ。
小説を書くときだけ、現実のざわめきから離れられる。
仕事のプレッシャー、上司の無言の圧力、メールの通知音、鳴り止まない電話。
そういうものが、一瞬で遠くに消えるような気がする。
指先がキーボードの上を走るたび、登場人物が動き出し、物語が少しずつ形になっていく。
でも、昼休みは短い。たったの一時間。
LINEを見て、食事をして、少し休んだらもう休憩が終わる。
そんな中で文章を書くのは、決して楽なことではない。
頭の中で構想をまとめ、言葉を選び、文章にする。
まるで砂時計の砂をすくい上げるように、一分一秒を大事にして文字を紡ぐ。
今日は、急いで昨日思いついた物語の続きを書く。
主人公は、いつも勇気が出せずに躊躇してしまう青年だ。
僕自身と似ているところもあって、書いているときは自分を重ねてしまう。
青年が小さな一歩を踏み出すたびに、胸が熱くなる。物語を通して、僕は違う世界に生きているんだ。
(でも、もっと時間があれば……)
僕は何度もそう思う。
きっと、僕と同じようにサラリーマンとして働きながら小説を書いている人ならば、みんな同じことを思うだろう。
働いていると、仕事が忙しくて定時を過ぎてもデスクに向かうことがある。もちろん、これは残業。
なかなか、時間通りになんて帰しちゃくれない。
昼休みのわずかな時間にだけ、物語の世界に逃げ込むことで、僕は何とかこうして働いている。
さて。
昼休みが終わる。
机の上のノートパソコンを閉じ、弁当箱を片付ける。
現実に一気に戻される。容赦がない。
会議、電話、資料作成⋯⋯
どれも小説とは比べ物にならないほど味気ない。
しかし、それでも僕は諦めたくない。わずかな休み時間でも、文章を書き続ける。それが、自分を少しでも生き生きとさせてくれる唯一の方法だからだ。
小説があるからなんとか働けるんだ。
帰宅後ももちろん書く。
電車の中ではスマホにメモを取り、眠れない夜はノートに文字を書きなぐる。
仕事の疲れで体は重いけれど、心は少し軽くなる。アウトプットするのが気持ちいい。
文章を書き終えた後の充実感は、何にも代えがたい。
誰も褒めてくれなくても、読者がすぐに増えなくても、僕は書く。書くことで自分を確かめるのだ。
これが自分なのだ、と。
たまに、ふと思う。もしも小説で生活できる日が来たら、どれだけ幸せだろう、と。
でも現実はそう甘くない。
文章で稼ぐのは簡単ではなく、安定した生活を考えれば普通の仕事に戻るほうが手っ取り早い。
けれど、僕はやめない。諦められない。
気づくと、なぜか、つい小説を書いてしまうんだ。
同僚の誰かが横目で見ているかもしれない。
昼休みの小さな時間に、何をしているんだろう、と。
それでも構わない。
自分の小さな世界に、少しの時間でも浸れたら、それだけでいいのだ。
僕はふと画面の文字を見つめる。
物語はまだ途中だ。
主人公は、今日も迷いながらも一歩を踏み出す。
僕はその一歩を、そっと応援する。
昼休みの小さな時間に紡ぐ物語は、僕にとって生きる糧になっている。
そしてまた、次の昼休みを待つ。
わずか一時間の自由な時間。
そこに僕は、現実の重さを少しだけ忘れて、自分だけの世界を持つ。
文章を書くことは、僕にとって仕事以上に、人生を豊かにするものなのだ。
もちろん、僕だって人間だから、ついつい周りの評価が気になって、評価ポイントを何度も確認してしまうのだが。
ちっとも増えていないブックマーク数やPV数を見て、
「くそ。もっとおもしろい小説を書いてやる!」
そんなことを考える毎日なのである。
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