第五話 出会い
俺は、試験が終わるのを待っておくのも面倒だったので、引きこもり引退のリハビリとして街を散策することにした。
普段は家でゲームしたり筋トレてただけやから、ヒーロー試験のことは知らんかったなぁ。
外に出ると分かったことがあった。
『ヒーロー』が増えているということだ。
ヒーローだけではなく、彼らに感化された人々は人助けのようなことをしている。
ヒーローというのは、異能力がなくても目指すことは可能である。けれど、異能力を持たずしてヒーローを目指すことは、夢を見過ぎだと人々に思われるだろう。
実際、ヒーローの中で何かしらの異能力を持つものは九割以上を占める。
異能力を持つ者ってのは人間の上位互換なのかもしれない。
歩いていると、小さな本屋サイズの店があった
こんな店が、近くにあったのか。
そこには、自分が気になっていた昔のアイドルのグッズなどが売ってある。
店の扉を開けると、ぎっしりと圧を感じるほど並べられたアイドルグッズがあった。
これは…オタクの俺からしたら、まさに最高のオアシスを見つけたようだ。
店内を舐め回すように見ていると、クルイが尊敬しているアイドルのグッズが並んでいた。キシキシとなる地面を蹴ってその商品棚の前に向かう。
「うわぁ、かっけぇな。やっぱり、オーラが違うなぁ。」
このグループは、歌が上手いんだよ。
自分の好きな男性グループのグッズを見つけて、手に取って眺める。値札を見るとそこまで高くなかった。
さらに、推しているグループのグッズも下の棚で見つかる。
「まじか!このグループのこんなグッズあんのか?かわいいなぁ。まじで二次元やな。」
しゃがみ込んで、推しのグッズを眺めた。
推しの見たことないグッズがあり興奮が止まらない。
自然と顔が笑顔になっていた。
空いている方の手に推しのグループのグッズを持って、両手に宝を握った。
俺は探していた宝を見つけた海賊になった気分だった。
小学生に戻ったように人目を気にせず喜んでいると、店主らしき人がキシキシと床を鳴らしながら近づいてきた。
少し太った優しそうな人だ。
「そのグループ好きなんですか?」
高校生の男子が両手にグッズを持ち喜んでいるという状況の中、微笑みながら優しそうな声で話しかけてくれた。思春期には、とても気まずい。
というか、思春期じゃなくても死にたくなる。
近づいてきたお前が悪いからやっぱりお前が死ね。
「あ、はい、推しがいたもので興奮してました。」
そんな本音は口から出ることはなく、腑抜けた声が漏れた。
耳が真っ赤に染まる。
こんなに興奮しているところを人に見られていたと思うと、とても恥ずかしくなってきた。
自分とこいつを消したい気分だった。
今すぐにでも立ち去りたい状況だった。
そこで、店主が俺の顔を見て一瞬目を見開いた。
「とてもかっこいい方ですね。アイドルかと思いましたよ。」
驚いたような声で、俺に言った。
今の時代アイドルなんていねぇよ。
俺は褒められて少し恥ずかしかった。
けれど、少し緊張が緩んだ気がした。
「あ、ありがとうござます」
頭をかきながら情けない声が出る。
人から褒められるのはなんか照れ臭い。
グッズを一旦棚に戻して話をする。
「ははっ、お兄さん若いのにアイドル好きなんて珍しいね。」
俺が落ち着けるように、笑いながら優しそうに言った。
確かに若者でアイドルを好きな人は少ない。
アイドルなんて昔の存在より、今の若者はヒーローという今時なものが好きな人が多い。
「ヒーローには興味はないのかい?」
おじさんは微笑みながら、新しい話題を振った。
友達に話しかけるように自然に。
この人はずっと微笑んで、こちらが落ち着くように工夫してくれる。
優しい人なのかもしれない。
俺はなんて答えるのが正解か分からず、少し黙ってしまった。その沈黙に気付いたのか、おじさんは慌てて話を変えようとしてくれた。
「あ、ごめんね?興味ないか。」
少ししょぼんとして、
申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。
何も悪くないのに謝罪をされたのが少し嫌だった。
こんな良い人に、自分の目標を言う勇気はない。
だが……
「俺は、ヒーローを目指しています!そして、一番になります」
間違ってはいない。
うん、嘘はついていないぞ。
大切な部分は全部隠しているけれど…
おじさんはしょんぼりした顔から、笑顔に戻った。
まるで、人気のヒーローに会ったかのように。
少し奇妙に思う程の笑顔だ。
ここまで喜ばれると何か申し訳なく感じる。
「そっか!君もヒーローを目指すんだ!」
その後、真面目な顔に戻り、顎に手を当てて何かを考えていた。
先ほどとは逆におじさん側が黙り込んでしまう。
君がヒーローなんて現実的ではないとでも言われるのだろうか。やはり人間なんてそんな生き物だよな。
「すごい目標だね!頑張れ!」
応援するような仕草をして、さっきの笑顔で
俺のことを応援をしてくれた。
思ってなくても良い、ただ応援されたのが嬉しかった。
このおじさんとは、仲良くやれそうだ。
おじさんとの話しが終わって、試験会場に戻る途中に事件は起こった。
俺は何者かに急に首を絞められた。
「っっぐはぁ…」
全身の力が抜けて、グッズの入った袋も手から離れて地面に落ちる。足をバタバタさせて逃げようとするが、首を絞める手の力は緩まることはない。
それでも足掻こうと、後ろに手を出す。
相手には全く効いていない。
色々と体を動かして、どうにかして抜け出そうとするが、俺の体力が減っていく一方だった。
苦しい…こんなところで死ぬのかっ……
そこで彼はあることを思い出す。
自分は瞬間移動ができるのだと。
なんとか抜け出すことに成功したが、まだ安心できない。
後ろを振り返ると、そこに人はいない。
怪霊もいない。
そこにいるのは、もっと奇妙な“何か“が存在した。
「なんだあいつ。気持ち悪っ。」
こういう時にヒーロー来てくれよ。
そう願っても、ヒーローは来ない。
俺はとりあえず、グッズのことを諦め、一目散にその場から逃げた。走っても力が入らず何度も地面に倒れた。ズボンの膝の部分は破けて深い傷ができている。
ズボンに血が染みる。
疲労により、瞬間移動が使えない。ふらつく足で走って逃げるしかない。
周りに人はいないため助けが呼べない。必死に走ったが、フラフラの体では当然逃げきれない。
俺を追いかける化け物が、俺に手を伸ばした時に誰かが来てくれた。
俺は運がいいのかもしれない。
後ろで肉が潰れるような不快な音がした。
「よく、逃げられたね。」
俺を褒めるような口調で言った。
そこには、メガネをかけたチャラい男が立っていた
頭の左は坊主、右は長髪という独特な髪型をしている。まだ20代といったところだろう。彼の手には汚い血がドロっと付着していた
彼の後ろには、俺を襲っていた化け物が壁へ地面へと飛び散り肉片と成り果てていた。
「きみ凄いね、しかもあれが見えてるのか。」
男はポケットに手を入れてこちらの方に歩いてくる。独り言をぶつぶつと喋っている。
今日はなんて日だ。思考が追いつかねぇよ。
なんかの番組のドッキリか?見えてるってなんだ。あれは心霊か何かなのか?
見てはいけないものだったのか!?
「いやっ!何も見えてないですよぉ!」
慌てながらついた嘘が下手すぎて、男は笑った。
別に何もしないよという仕草をして、「大丈夫だ」と俺に言った。
男が、情けなく倒れた俺の目の前に立ち、俺の顔をじっくりと眺めてくる。嫌な笑みをしながら俺に言った。
「僕は、君を推薦しよう」
ニコッと微笑み、男は俺の方を指差した。
なぜか分からないが、この人は一目見ただけで今まで見た人間よりも格上だと思った。
そんな人からの謎の推薦……
普通は恐怖でしかない。
けど、俺はこの時
俺の人生が変わる予感がした。




