メリサとの対峙
村の中央広場に降り立つと、村長らしき老人が泣きながら駆け寄ってきた。
「冒険者様!助けてください!魔王軍の生き残りが村を...」
「大丈夫です。必ず全員助けます」
俺は村長に力強く宣言した。
広場の中央では、黒いローブに身を包んだ美女が、人質たちを魔法の檻に閉じ込めて立っている。ローブの下からは紫色の髪が覗き、赤い瞳が冷たく光っていた。これがメリサ・デスヴァルト、元魔王軍四天王か。
「また冒険者が来たか...鬱陶しい」
メリサの声は美しいが、どこか疲れ切っているように聞こえた。
「メリサ・デスヴァルト!人質を解放しろ!」
俺は【神器創造】で作った剣を抜いて威嚇する。
「人質を解放?フフ...ならば近づいてみればいい。村人から順番に殺していくだけだ」
メリサが手を挙げると、人質の一人の首に魔法の刃が触れる。
「くそ...」
人質がいる以上、迂闊に攻撃できない。
「なぜこんなことをする?金が欲しいのか?」
「金?」
メリサが僅かに表情を変えた。
「フフ...そんな単純な話ではないわ。これは復讐よ。人間共への復讐」
「復讐?何があった?」
「全てを奪われたのよ。地位も、名誉も、仲間も...全て人間どもに」
メリサの声に憎悪が込められている。しかし、その奥に深い悲しみも感じられた。
「だから人質を取るのか?関係ない村人を巻き込んで?」
「関係ない?人間は全て敵よ。私からすべてを奪った種族なのだから」
メリサが魔法陣を展開する。どうやら戦闘は避けられそうにない。
「カイロス、人質の救出を頼む」
「わかった。お前はメリサを止めろ」
カイロスが小さく変身して、人質たちの檻に向かう。
激戦の開始
「【死霊術】!」
メリサが魔法を唱えると、地面から骸骨の戦士たちが現れた。20体はいるだろうか。
「うわ、気持ち悪っ!【絶対命令】、消えろ!」
俺の【絶対命令】で骸骨軍団が一瞬で消滅する。
「何ですって?まさか、そんな強力な支配魔法を...」
メリサが驚愕の表情を見せる。
「今度はこっちの番だ!【時空操作】!」
俺は瞬間移動でメリサに接近しようとする。
「させないわ!【暗黒の壁】!」
メリサが暗黒魔法で防御壁を作る。俺の剣が弾かれた。
「なかなかやるじゃないか」
「あなたこそ...一体何者なの?」
お互いに距離を取って睨み合う。メリサの魔法は確かに強力だが、俺のチートスキルの方が上回っている。ただし、人質がいる以上、全力で戦えない。
「【暗黒球】!」
メリサが暗黒のエネルギー球を放つ。俺は【時空操作】で回避するが、攻撃が村の建物に命中して爆発する。
「ちっ、建物の修理代がまた...」
頭の中で自動的に損害額が計算されていく。借金持ちになってから、こういう計算が癖になってしまった。
「【暗黒の鎖】!」
今度は拘束魔法だ。暗黒の鎖が俺を捕らえようとするが、【絶対防御】で無効化する。
「なぜ...なぜそんなに強いの?」
メリサの声に焦りが混じってきた。
「【暗黒球】連射!」
メリサが10個の暗黒のエネルギー球を一斉に放つ。
「おお、すげー。でも【完全反射】」
俺に向かってきた暗黒球が全て跳ね返され、今度はメリサに向かっていく。
「【暗黒盾】!【暗黒盾】!【暗黒盾】!」
メリサが必死に防御魔法を重ねるが、自分の攻撃を受けて吹っ飛ばされる。
「ぐはっ!自分の魔法が返ってくるなんて...」
「ごめん、ちょっと手加減忘れてた。【完全回復】」
俺が指を向けると、メリサの傷が瞬時に治癒する。
「なんなのよあなた!治癒魔法まで使えるの!?」
「まあな!【重力操作】!」
俺が手をかざすと、メリサの体が宙に浮き上がる。
「きゃあああ!なにこれ!降ろしなさい!」
「あ、ごめん。【重力解除】」
メリサがドサッと地面に落ちる。
「痛い...もう、なんなのよ一体!」
戦闘を続けながら、俺は【万能解析】でメリサの詳細情報を調べていた。すると、とんでもない情報が表示された。
**メリサ・デスヴァルト**
**年齢:28歳**
**種族:魔族**
**元職業:魔王軍四天王(経理担当)**
**借金:50億セルン**
**借金理由:横領の濡れ衣、実際は元上司による陰謀**
「え?借金50億?」
俺は思わず声に出してしまった。
「何を言っているの?借金って...」
メリサの攻撃の手が止まる。
「お前...借金仲間じゃないか!」
「は?何を馬鹿なことを...まさか、あなたも?」
「999億だ」
「999億ですって!?」
メリサが驚愕して、魔法の構えを解いてしまった。
借金仲間としての理解
「ちょっと待ちなさい。あなた、転移者なの?」
「ああ、一週間前にこの世界に来た。スキルを127個も取っちまって...」
「127個!?正気じゃないわね...」
メリサが頭を抱える。
「まあ、そう言うなよ。お前も50億の借金があるんだろ?」
「それは...」
メリサの表情が暗くなる。
「横領の濡れ衣って、どういうことだ?」
俺は剣を鞘に収めて、メリサに歩み寄る。
「私は魔王軍で経理を担当していたの。でも、元上司が軍資金を横領して、その罪を私に着せた。魔族領を追い出された私はただ静かに暮らしていたのに、何度も人間が討伐にくる...」
「ひどい話だな」
「証拠もあったのよ。でも、私は女で、しかも末端の魔族。誰も信じてくれなかった」
メリサの瞳に涙が浮かぶ。
「それで魔王軍を追放されて、50億の借金を背負わされた」
「そりゃあ、人間を恨みたくもなるわな」
俺は心から同情した。濡れ衣で借金を背負わされるなんて、考えただけでも腹が立つ。
「でも、復讐しても借金は減らないぞ?」
「それは...わかってるわ。でも、他にどうすればいいの?」
メリサが膝をついて泣き始めた。
「誰も理解してくれないのよ...借金の恐怖を。毎月利息が膨らんで、どんどん金額が増えていく。もう、生きている意味がわからない」
俺はメリサの隣に座った。
「わかるよ。俺も最初は絶望した。でも、一人じゃないんだ」
カイロスが人質の救出を終えて戻ってきた。
「人質は全員無事だ。ところで、なぜ戦闘を中断している?」
「カイロス、こいつも借金仲間だ」
「ほう、借金はいくらだ?」
「50億セルンよ...」
「それは大変だな。俺は2億だ」
「嘘でしょう?ドラゴンなのに借金があるの?」
「高級茶葉の爆買いが原因だ。今は麦茶で我慢している」
3人で座り込んで、お互いの借金事情を語り合った。メリサは最初、俺たちを疑っていたが、借金の詳細を聞くうちに次第に心を開いてくれた。
「まさか、こんなところで理解者に出会えるなんて...」
「借金持ち同士、争ってる場合じゃないだろ」
「そうですね。借金仲間を見捨てるなんて、俺にはできない」
俺はメリサに手を差し出した。
「仲間になろう。一人より二人、二人より三人の方が、借金返済の可能性が高まる」
メリサが俺の手を握り返す。その手は震えていた。
「本当に...私を信じてくれるの?元魔王軍なのに?」
「信じるも何も、借金仲間だろ?」