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豪邸の朝

朝日が静寂の山脈を照らし、レオネス荘の大きな窓からやわらかな光が差し込んでいる。広々としたダイニングルームでは、メリサが家計簿を広げて深刻な顔をしていた。彼女の前には電卓と複数の書類が整然と並び、まるで戦場の司令官が作戦を練っているかのようだった。


「レオ、現在の借金総額を確認したい」メリサは眼鏡を押し上げながら言った。「あなた999億、カイロス2億、私50億...合計1051億セルン」


キッチンから漂ってくる香ばしい匂いと共に、レオが手作りの朝食を運んでくる。【神器創造】で作った完璧な調理器具で作られた料理は、どんな一流レストランにも負けない出来映えだった。しかし、メリサの冷静な計算報告に、レオの手がわずかに震える。


「月利を考えると、毎月約150億セルンの利子が発生するな」カイロスが渋い顔で計算する。彼は普段の威厳ある竜王の風格を保とうとしているが、借金の話になると表情が庶民的になってしまう。


「うわあああ!そんなこと考えたくねぇよ!」レオは両手で頭を抱え込んだ。「朝っぱらから絶望的な数字を聞かせるなよ!」


メリサは感情を押し殺すように冷静に計算を続ける。彼女の指先がそろばんのように素早く電卓を叩く音だけが、静寂な朝のダイニングルームに響いていた。


「前回の依頼では報酬ゼロ、むしろ損害賠償で3200万の赤字。このペースでは3ヶ月で魔導スレイブ契約発動よ」


その言葉に、3人の顔が青ざめる。魔導スレイブ契約。借金が返済できなかった転移者に課せられる、恐ろしい契約。(ただし恐ろしいことの内容はわからない)


「俺様たちは討伐依頼を受けるたびに仲間が増えるが、金は減る一方だな...」カイロスが苦笑いを浮かべる。「このままでは借金返済どころか、借金返済仲間収集所になってしまう」


そこに、レオの【万能解析】スキルが新しい情報をキャッチした。アルカディア大陸の冒険者ギルドネットワークを通じて配信される依頼情報の中に、異常に高額な報酬の文字が踊っている。


「おい、これを見ろよ...」レオの声に緊張が走る。「『ダークエルフ族討伐』報酬10億2000万セルン!?」


メリサの電卓を叩く手が一瞬止まる。「10億...それだけあれば当面の利子は返せるわ」





ノルム町のギルドでの情報収集


ノルム町の冒険者ギルドは相変わらず活気に満ちていた。しかし、レオたちが現れると、他の冒険者たちがざわめき始める。「あの借金まみれの変人たち」「討伐依頼を受けて敵を仲間にする奇人集団」などという噂が囁かれるが、3人はもう慣れっこだった。


受付カウンターでは、いつものように心優しい受付嬢ミア・ハートフィールが笑顔で迎えてくれる。彼女の温かな笑顔は、この殺伐とした冒険者業界では珍しく貴重なものだった。


「お疲れ様です。ダークエルフ族の件ですね...」ミアの表情が少し曇る。「実は他の冒険者の方々も何人か挑戦されたのですが、皆さん敗退されて...」


レオは身を乗り出す。「敗退?殺されたのか?」


「いえ、不思議なことに全員生きて帰ってきました」ミアは首を振る。「ただ、『もう二度と森には近づかない』と震え上がって...特にベテランの冒険者パーティー『鋼鉄の牙』の隊長なんて、帰ってきた時には髪が真っ白になっていました」


メリサが依頼書の詳細を精査し始める。彼女の鋭い目が契約書の隅々まで見逃さない。魔王軍で経理を担当していた経験が、こういう時に活かされる。


「依頼主は『アルドハイム王国内務省』...国家からの正式依頼ね」メリサは眉をひそめる。「報酬が異常に高いのも気になる。普通の討伐依頼の20倍以上よ」


カイロスが腕を組む。「国家が動くということは、それなりの理由があるはずだ。単純な害獣駆除ではあるまい」


ミアは申し訳なさそうに説明を続ける。「実は最近、『月影の森』周辺で人間の商隊が襲われる事件が多発していて...」


「襲われるって、殺されてるのか?」レオは拳を握りしめる。もし無辜の人々が殺されているなら、それは確かに討伐すべき相手かもしれない。


「それが...」ミアは困ったような表情を見せる。「こちらも商品を奪われるだけで、人的被害は一切ないんです。でも王国は『ダークエルフの野蛮な行為』として討伐令を出しました」


レオたちは互いに視線を交わす。何かがおかしい。商品だけを奪って人は殺さない?それは単純な野蛮性とは違う、何らかの理由があるような行動パターンだった。


「商品だけ奪って人は殺さない...これは略奪というより...」メリサが呟く。


「生活に困っての行為かもしれんな」カイロスが推測する。「竜族にも似たような例があった。食べ物に困った竜が家畜を奪うが、人間は殺さない...そういう時は大抵、何らかの事情があるものだ」


レオは立ち上がる。「とりあえず、現場を見てみるか。依頼を受けるかどうかは、実際に状況を確認してからだ」


ミアは心配そうに見送る。「お気をつけて...あの森、とても不気味な噂があるんです」




月影の森への道中


カイロスが【竜化】で10メートルほどの大きさになり、レオとメリサを背中に乗せて空を飛ぶ。【時空操作】による瞬間移動も可能だが、周囲の地形や状況を把握するためには、あえて通常の飛行を選択した。


アルカディア大陸北部の景色が眼下に広がる。緑豊かな丘陵地帯から、次第に深い森林地帯へと景色が変わっていく。人間の集落は次第に少なくなり、最後に見えたのは小さな農村だった。そこから先は、まるで人間を拒絶するかのような深い森が続いている。


「なあ、この世界のダークエルフってどんな種族なんだ?」レオが風に髪をなびかせながら質問する。


「人間の話によれば、野蛮で残虐、人攫いをする邪悪な種族だそうだが...」カイロスは飛行しながら答える。「しかし、俺が知る限りでは、そんな単純な悪ではない」


「でも私は魔王軍にいた時、何人かのダークエルフと会ったことがある」メリサが記憶を辿る。「皆、静かで誇り高い人たちだった。特に自然を愛し、森を大切にする種族として知られていた」


「つまり、人間の話と実際は違うかもしれないってことか...」レオは考え込む。「差別と偏見か。地球でもよくある話だな」


月影の森の入り口に近づくと、巨大な木々が空を覆い、昼間なのに薄暗い雰囲気が漂っている。森の境界線は明確で、まるで見えない壁があるかのように、一歩森に入ると別世界のような静寂が支配していた。


カイロスが着陸すると、森の入り口に警告の立て札が立っているのが見える。


『人間立入禁止 - 月影の森族長 リューナ・シルヴァムーン』


文字は美しく、ダークエルフ語と人間語の両方で丁寧に刻まれている。


「丁寧な警告だな...野蛮な種族にしては妙に礼儀正しい」カイロスが立て札を見上げる。


「それに、ダークエルフ語と人間語の両方で書いてある。配慮が行き届いている」メリサが契約書を見る時のような鋭い目で文字を分析する。「文字の美しさからして、相当な教養のある人物が書いたものね」


「ますます怪しいな...本当に悪い奴らなのか?」レオは立て札を見つめながら呟く。


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