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09.冷徹な視線

ゴブリンに襲われてた馬車の集団に合流し、一緒に近くの村まで行くことになった。


「俺はこの辺りにいるというコカトリスの討伐に来たのだが、どの辺に居るか判るか?」


さっきは固まっていた警備のリーダの冒険者に尋ねると知っている事情を話してくれる。


「今から向かう村のそばにコカトリスが住み着いたらしいです。

詳しいことは知りませんが、石化する息のせいで周りの草や木が枯れ、作物にも影響が出ていると聞いてます」


どうもその村が今回の討伐依頼をしてきたようだ。

街道に面している村で規模的には街に近くかなり繁栄している。

街道の入口付近の宿屋に部屋を取り、荷物を置いた後、依頼者の村長に詳細を確認するために出かける。

聞いた話と違い、コカトリスの影響自体はそれほど大きくないらしく村自体は活気に満ちている。


(コカトリス、それほど行動範囲が広くないのか)


村の様子を観察しながら進んでいると、宿屋で聞いた石造りの塀を持つ大き目の家を捉えた。

村長の家だ。

挨拶もそこそこに依頼の詳しい状況を確認する。


「それで村から山側に1日行ったところに縄張りを持ったらしく、その周辺の池や森林が死の地となっているのです」

「村への影響は少なそうだが・・・」

「山に狩りに行ったものが2人帰って来てません」

「そうか」


村長の話を聞きながら、ゲルマは少しだけ視線を上げ、村長の家の窓から外を眺めた。

村人たちの声や、風に揺れる木々の音がわずかに聞こえる。

村の静けさの中に、彼らの不安が滲み出ているようだった。


「山に行った者たちの居場所について、何か手がかりはあるか?」


ゲルマは村長に視線を戻し、簡潔に尋ねると村長は首を振り答える。


「彼らは、村の東の森に入ったきり戻ってこないんです。

普段はあのあたりで狩りをして、夕方には戻るはずだったのですが……。

山側に向かう道は、すでに枯れ木と毒気のようなものが漂っていると聞きました。」


村長の声には焦りと恐怖が混じっていた。


「なるほど。その道を辿るしかなさそうだな」


ゲルマは淡々と返事をし、わずかに口元を引き締めた。

相手がコカトリスだけに慎重に動く必要があるだろう。


「準備が整ったらすぐに向かう。手間は取らせない。

ただし、村の者たちには念のため近づかないよう伝えてくれ。もしもの時のために備えはしておいてほしい」

「どうか、気をつけてください……あの化け物は、ただの獣とは違います。」


ゲルマは短く頷き、村長の家を後にした。

次第に日が傾き始め、山側の森が薄暗く見えてくる。

ゲルマは宿に戻り、必要な装備を整え明日にでも聞いた場所に行ってみよう。


翌朝からコカトリスのいると聞いた場所に向かい山に入っていくが、目的の場所は離れていたため、目的地付近についたのはは更に次の日の昼頃になっていた。

コカトリスが住み着いたことで、周りの草がみんな枯れ、この辺にいることが確認するまでもなく判る。

まだ草が枯れないあたりに馬車を止め、周囲を観察すると周囲の音がほとんどなかった。

にしても帰ってきてない二人はどこにいるのか・・・


(結構村から離れているが、本当にこのへんまで来たのか?)


馬車と違い馬で来たのかも知れない・・・

だとしたらかなり裕福な話である。


装備を整え、周辺の探索を始める。

少しづつ草が枯れている領域も探し始める。

まだ本格的にやり合うつもりはないが、可能ならコカトリスがどの辺にいるかも確認しておきたいので、周囲に気を配りながら探索する。

コカトリスが縄張りを持つ場所ならば、自然の生態系が壊されていることも不思議ではない。


ゲルマは枯れた草木を慎重に進んだ。道中、何か硬いものを踏んだ感触があった。

感触の元を手に取り観察する。あまりにも精巧な小鳥の石像だ。

明らかに人間の手で作られたものではない。


(…石化か)


コカトリスが人を石化する話は聞くが、食べられたという話は聞いたことがない。

行方不明者がこの辺にいるなら石像になっていると思ったが、一体どこにいるのか・・・


風に乗って、どこからか強い動物臭が漂ってくる。

近くに何かががいるのかもしれない。

短く息を吐き、臭いの元、風上へ注意深く移動する。


探りながら進んでいくと、突然、視界の先にそれが現れた。

巨大な鳥のようなシルエット。

目の前に立つそれは、まるで巨大な鶏のような恐ろしい生き物


――コカトリスだ。


(見つけたか)


ゲルマの体に緊張が走る。

念の為、ゲルマは剣の柄に手を伸ばし、ゆっくりと息を整えた。


コカトリスは既にゲルマの気配に気づいていた。

大きな鳴き声を上げると、鋭い爪と巨大な羽を広げ、威嚇してきている。


ゲルマは冷静に考え、攻撃のチャンスを待った。

コカトリスは、怒りに満ちた目で彼を見据え、再び口を大きく開け、石化の息を吐きかける準備をしていた。


「くっ…!」

「キシャーーーーー」


ゲルマは素早く後ろに飛び退き、石化の息を辛うじて避ける。

その時、視界の端に、石になった人影が映り込む。

おそらく、帰ってこなかった村の者たちだ。無惨にも固まった姿がそこに並んでいた。


当然、コカトリスが追撃してくると思い、剣を構え、次の攻撃に備える。

しかし追撃はなく、最初に確認した場所から一歩も動いてない。


(あの場所になにかあるのか?)


コカトリスはまだ翼を広げ、低い鳴き声で威嚇しているが、動く気配はない。

不審に思っていると、背後の森の闇から、何かがこちらに地面を引きずるような音をたてて迫ってくる。


「もう一匹、いるのか…?」


木々が大きく揺れ、コカトリスの後ろから、さらに巨大な影がゆっくりと姿を現す。

地を這うような蛇の体に、トカゲの頭を持ち鶏の(くちばし)、ドラゴンの一対の足と羽が付いている。

その眼光は鋭く冷たい。

バジリスクはコカトリス以上の強敵で、その石化の力は一瞬で命を奪うほどに強力だ。


「バジリスク…!」


ゲルマは息を詰め、剣をさらに強く握った。

バジリスク自体はコカトリスの上位種とも言われ、ドラゴンの劣化版のような立ち位置で、ゲルマも見るのが初めてだ。


(こんな強大なヤツがなぜここに?)


しかし、コカトリスの守護者としてバジリスクが現れるとは、完全に想定外だった。

バジリスクが姿を現すと、コカトリスの態度が一変する。

先ほどまで威嚇していた翼をゆっくりと畳み、低い鳴き声を上げる。

まるで、バジリスクに何かを伝えているかのようだった。

その様子を見てゲルマがつぶやく。


つがい(パートナー)だったのか・・・」


ゲルマは、口の中が乾くのを感じた。

コカトリスから話を聞いたのか、現れたバジリスクは怒りに燃えたような唸り声を上げ、その声に呼応するかのように、コカトリスも翼が広げ、鋭い嘶き声を上げる。

そして二匹は、ゲルマに向かって鋭い視線を向けた。


その視線に、二匹がただの魔獣ではないことが明確に現れていた。


彼らは互いを守り合い、戦う意思を共有している。


「クーーー、クーーーー」

「シューーーーーーー」


ゆっくりと低い唸り声を上げる様は、まるで互いを励まし合っているようだ。

コカトリスがバジリスクに寄り添い、バジリスクはゲルマの前に立ち塞がり、守護者の如く立ち振る舞っている。

コカトリスもまた、その背後からゲルマの動きを見つめている。

ゲルマは冷や汗を感じた。


「こいつら、お互いを守り合っている…」


ゲルマは、単に力で押し切るのは難しいかもしれないと感じ始めた。

彼らがつがい(パートナー)として互いを支え合い、戦う姿が目の前にある限り、互いのために命をかけて戦いを挑んでくるだろう。

そして片方を討つたあとは、捨て身で戦うことが想像できる。

バジリスクの鋭い目がゲルマを見つめている。

こちらも何かあれば遠慮なく剣を突き立てるつもりだ。

バジリスクが硬い鱗で身を守っていても少しは傷つけられるだろう。


今はまだお互いに被害が出ていないことでぎりぎり成り立っている膠着状態だが、どちらかが一歩踏み出すその瞬間、互いの命でしか終わらない戦いが始まる。

どちらか一方が勝利することはあっても、必ず何らかの犠牲が生まれる。


バジリスクは、まるでゲルマを試すように動かない。

ただ、その強く冷たい眼差しで彼を睨みつける。

ゲルマはバジリスクの心情が分かったような気がした。


(きっとバジリスクはコカトリスがいなければ、こんなに慎重じゃないんだろうな・・・)


バジリスクはまるで「今退くなら許してやる」と言っているようだ。

コカトリスはバジリスクの背後で、再び翼を広げ、彼に向かって威嚇の姿勢を取る。


バジリスクの視線に石化の力があり、危険であることを知ってはいたが、今、その力を使っていない。


(これは厄介すぎるな…)


ゲルマは冷静さを保ちながらも、二匹を同時に相手にする難しさを強く感じ、内心の焦りを感じていた。

コカトリスとバジリスク、二匹の強敵のどちらかに隙を与えれば命取りになるだろう。

考えている間もバジリスクはこちらを睨んでいるだけでなにも行動をとってきてない。

こちらの判断を待っているのだろう。


バジリスクの目にはコカトリスは自分が死んでも必ず守り抜くという決死の覚悟が感じられる。


「今は…退くしかない」


苦渋の決断だ。

村人たちの石像を守るためにも、ここで無闇に戦うべきではない。

石像が壊れさえしなければ、高位のヒーラーに頼めばまだ蘇生できる。


深呼吸をし、バジリスクとコカトリスの動きを注視しつつ、勘違いさせないようにゆっくりと剣を鞘に収める。

剣が収まった音が静まり返った戦場に小さく響く。


戦闘態勢を解き、バジリスクに対する敵意を霧散させても、バジリスクは一切油断を見せない。

そのかわり、既に無防備になったゲルマに襲ってくることもなかった。

こちらが背を向けても、不意打ちを狙わないその姿には、自身の力を信じる誇り高さが感じらる。

バジリスクのことは知らなかったがドラゴン並みにプライドがあるのだろうか・・・

二匹は動かずに俺をじっと見つめている。


(双方ともに賢い選択だ)


ゲルマはバジリスクに背中を向けて歩き、村人の石像のそばでバジリスクに振り返り話しかける。


「なぁ、あとでこの石像を回収しに来てもいいか?」

(まぁ、おそらく言葉が通じないだろうが…)


コカトリスとバジリスクはかけられた言葉には反応せず、ただ俺が去るのを見守っていた。


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