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ティアナのちょっとした意地悪

頭が痛い・・・

いつもの癖でいつもの時間に起きたがまだ酒が残っている気がする。

昨日飲みすぎたか。


「いったい昨日何があったんだ…」


頭を振りながら頭に手を当てる。

少しづつ昨日の記憶が甦ってくる。


~~~


「わかった、わかった。

今日の酒場は全部俺のおごりだ!!

俺に続け!」


ゲルマが勢いよく言い放つと、周りの仲間たちは一瞬驚いた後、大声で歓声を上げた。

「さすが、ゲルマ! 」

「店レベルのおごりなんて滅多に聞けねぇぞ!」


からかうような声も混じる中、ティアナは少し目を丸くしながらゲルマを見つめた。

彼の顔にはどこか吹っ切れたような表情があり、自分の知っているいつもの重苦しい雰囲気がどこか消えていた。

ゲルマが急に真面目になり、真っ直ぐ彼女を見つめた。


「ティアナ、

お前はどうする?」


一瞬、ティアナの胸が高鳴った。

今までの彼の態度を思い返せば、こんな風に堂々と誘われることは想像できなかったからだ。

ティアナは胸の高鳴りを抑えるように深呼吸した。

こんなにまっすぐに誘われたのは初めてで、心の中では驚きと少しの緊張が入り混じっていた。


「はい。一緒に行きます」


微笑みながら答える声は、自分でも思ったよりも落ち着いて聞こえた。

ゲルマは満足げにうなずき、大声で仲間たちを促した。


「さぁ、行くぞ!今夜は倒れるまでだー」


酒場に到着すると、仲間たちは次々に酒を注ぎ合い、陽気な雰囲気に包まれる。

ティアナは、こうした場には不慣れで少し緊張していたが、ゲルマが彼女の隣に座り、彼なりに気を配っているのが伝わってきた。


「すまないな。

明日からはこんなことはないが・・・

帰るなら送っていくぞ」


ゲルマがジョッキを手に持ったまま真剣な顔で訊ねる。

その表情には、どこか柔らかさがあった。

ティアナも笑顔を返しながら、小さな声で答えた。


「いいえ。

こうしてみんなと過ごすのも楽しいですね。」


飲み会はまだ夕方にもならない時間に始まったが、その熱気は夜が深まるにつれ異様な盛り上がりを見せた。

どれだけの酒樽が空になったのか、誰も正確にはわからない。

ただ、楽しげな笑い声と騒がしさが、街の外まで響いていたように思える。


(ま、ただ酒だと盛り上がるな)


「ゲルマ、勝負だ!」

「おぅ、俺は誰の挑戦でも受けるぞ!!」


ティアナはお店のお姉さんや友達と女だけでと何か盛り上がっていたが、友人の方はチラチラと俺を観察して、ティアナに何か言っていた。


まだまだ盛り上がっている飲み会を途中で退席し、ティアナを送っていくとティアナは微笑みながら言葉を続ける。


「またこういう時間があると嬉しいです。明日、ギルドでお待ちしていますね。」

「ああ」


送り終わったので、ふらふらと自分の家に向かう。

そのへんに寝転がってもいいが、家で寝たほうがゆっくりできるだろう。

家に入ったあと、ティアナはその様子を顔を半分だけだして見ていた。


朝日がまだやわらかい光を放つ中、ゲルマはギルドへ向かうため家の扉を開けた。

だが、すぐに足が止まった。

扉の前にはティアナが立っていたからだ。


「おはようございます、ゲルマさん!」


ティアナは笑顔で挨拶し、元気よく頭を下げる。

その笑顔には朝露のような清々しさがあったが、ゲルマにとっては突然すぎて戸惑いが隠せなかった。


「……なんでここにいるんだ?」


思わず聞き返すゲルマに、ティアナは少し頬を赤らめながら言った。


「昨日、『とりあえず一緒に何か依頼を回ってみるか』って」


ゲルマは昨日の飲み会の記憶は途中、いつもの仲間からめちゃめちゃ酒を注がれてから、あやふやになっている。


「そう……だったか・・・

じゃあまずはギルドに行くか・・・」


ティアナはぱっと顔を輝かせる。


「ありがとうございます!」


と勢いよく答える。その表情にゲルマは少しだけ気を緩めるが、それを表情には出さないまま歩き始めた。

こうして、二人でギルドへの道を歩くこととなった――。


冒険者組合(ギルド)の依頼掲示板を見ながらため息をつく。


(あまりいい依頼がないな・・・

いや、ティアナがどこまでやれるか分からないし、無理はできないか。

軽めのものを選ぶべきか…

いや、いっそティアナに選ばせてみるか?)


ゲルマは依頼掲示板を睨むように見つめながら、隣で掲示板を見ているティアナの横顔をちらりと盗み見た。

彼女は初めて一緒に行く依頼を前に、眉を少ししかめて、何か悩んでいるような顔をしている。


「何かいいのがあるか?」

「え?あっ、いえ、昨日までなかった依頼なので・・・

それにちょっと無理だから」


一通り以来は目を通したと思ったが、そんなに難しいのはなかった。

見落としたのかと思い尋ねる。


「ん?どれの事だ?」

「あの・・・、ドラゴンの巣の周辺に生えている竜息草の・・・」


ギルドが依頼者の依頼だ。

安定的に依頼が出るが、薬屋にそのまま売ったほうが儲かるので事情通はまず受けない。

そのマージンがギルドを支えているので悪いわけではないのだが・・・

前回、高難易度の依頼を請けて、ひどい目にあったティアナは少し悩んでいる。

スライム相手だったのでゲルマも簡単に倒していたが、今回はドラゴンだ。

ドラゴンはたまに人の住む町のそばに現れると大騒ぎになって、追い払うのが精いっぱいの魔物だ。


「ああ、それか。

別にドラゴン倒す必要ないから、運があって、時間帯さえ気を付ければ簡単だぞ」

「え?そうなんですか?」

「今日は晴れてるし、一回行ってみるか?」


今まで入っていたPT(仲間)ではティアナの意見を訊かれることもなく請けるか請けないかが決まっていたので少し驚く。

主に討伐の依頼を請けていたPTと言うのも多く、討伐ではあまり役に立たないティアナは蚊帳の外で、親友のエレーヌが気にかけてくれるくらい。エレーヌはヒーラなのでそれでも色々話しかけられていた。

何かいつも疎外感があって、仲間の中にいても一人だった気がする。


ゲルマはそのドラゴンの巣へ行こうというのに、ティアナをまるで町の食糧店に買い出しに行くような軽い言葉で誘ってくる。

ティアナは微笑みながらすぐに答えた。


「はい」

(何か問題があっても逃げれば・・・

目的地まではゲルマさんと一緒・・・)


「今からだとゆっくり行っても、ちょうどいい時間帯に巣につくな。

ちょっと受付に行ってくる」


ゲルマが受付に向かう姿を目で追いながら、ティアナは依頼掲示板に目を戻した。

竜息草を採取する依頼──ドラゴンの巣の近くで見つかる薬草。

高価ではあるが、それ相応の危険が伴う。

もしドラゴンに見つかれば、巣のそばだけに攻撃されるのは間違いない。


「…大丈夫かな」


自分のつぶやきが、耳に届いて少し驚いた。

声に出すつもりではなかったからだ。

ゲルマさんと行くなら、きっと問題ない。


(・・・きっと大丈夫)


それでも、心のどこかでざわつく不安が消えない。


(ゲルマさんは、何であんなに余裕なんだろう?)


ティアナが考え込んでいると、ゲルマが戻ってきた。


「受けてきた。行く前に、道具を少し準備しておくか」

「はい」


返事をしながらも、ティアナの心にはわずかな迷いが残る。

彼の軽い調子を見ていると、慎重に動いている自分がおかしいのかと思い始める。

二人は冒険者ギルドの道具店に立ち寄り、必要なアイテムを物色する。


「ティアナは馬に乗れるか?」

「え?はい。馬を借りるんですか?」

「そのほうが楽だからな」


ティアナは馬を借りるなんて贅沢はしたことがなくてびっくりだ。

前のPTでは討伐に行く時でも人数で倒すみたいな感じだったから、削れるとこは削っていた。


「手を出してくれ」

「?」


よく判らないままティアナが両手を出すと、何かを確認している。

ゲルマは前にティアナに財布を渡す時に一応見てはいたが、念を入れて指輪の有無を確認する。


(あー、やっぱりなにも着けてないのか・・・)

「ん、わかった」


ティアナの手を離し、ゲルマは慣れた手つきで、消費期限切れや少なくなっていた(ポーション)、身代わりの指輪を選び、馬を借りる手続きをしていく。

身代わりの指輪は一度だけ装着者の命の危機を救ってくれる使い切りの魔道具で、上級の冒険者でも持てない程の値段だ。

命の値段と思えばどんな値段でも安いものだが・・・


(まぁ、今回使うとは思えないが・・・

つけさせておけば、俺が安心できる)


ティアナに値段が分からないように清算して身代わりの指輪を彼女に渡す。


「ティアナ、これつけておいてくれ」

「あ、ありがとうございます」


ティアナは不思議そうに指輪を見た後、お礼を言いながら、それを大事そうにそっと両手で握りしめ、指につけた。


(身代わりの指輪って分かってないな・・・

まー、値段とか知られたら揉めるかもしれないから黙っておくか・・・)


「その指輪は、大事なものだから、絶対身体から離さないように」

「はい?わかりました」


準備を終えると、二人はギルドの厩舎の扉を抜け、馬を連れて外に出た。

まだ朝も早いので風の冷たさが一層身に染みる。

ティアナは肩をすくめつつ、ゲルマの後ろに続いて、ドラゴンの巣へ向けて馬を進めた。

徐々に森の奥に入り、木陰で日差しが弱くなり、見通しも悪くなってくる。


「こうして森を一緒に進むのはあの時以来だな・・・」

「そうですね。あの時はお金がなくて、普段は請けない森の奥の依頼を請けて・・・

あ、そういえば私の財布、あれ、ホントに偶然見つけたんですか?」


ティアナはもう確信があったが、意地悪して聞いてみた。

ゲルマは『あっ、しまった』という顔をした後に、何とか答え始める。


「あー、いや、あれは、たまたま。

そう、たまたまあの場所に行く用事が毎日あってだな・・・」


いつもは明瞭に答えるゲルマがつっかえながら、答えている。

セレシアさんがゲルマさんは嘘をつくのが苦手と言っていたのがよく判る。

ゲルマが嘘をつくのにあたふたしている様子を見てティアナが、笑いをかみ殺していると気づいたゲルマが訊ねてくる。


「ティアナって、もしかして少し性格悪いか?」

「いえ、そんなことないですよ」

「そうか?ならいいが・・・

それよりも、失敗したな。

行くだけならいいが、帰ることを考えると途中で食事ができるようにギルドで買っておくべきだった」

「そうですね」


馬の歩みは一定で、周囲から聞こえる木々の葉擦れの音や、鳥のさえずりが心地よく、ティアナは少しずつ緊張を解いていった。


「ゲルマさん、あの…ドラゴンの巣って、本当に近づいて大丈夫なんですか?」

「ま、ドラゴンがいるときに行ったら、すぐに逃げないとまずいな」

「え?」

「あいつら、毒の息を吐いたりするから気付かれたら、無事に逃げ切れるかどうか・・・

遠くにいても追いかけてくるからな」


ゲルマは相変わらず、買い出しに行くようなノンビリした口調で、怖いことを説明をしている。

ドラゴンは討伐経験のある冒険者ですら手を焼く相手。

ゲルマの装備を見ても腰の短剣くらいで、大した武器は持ってない。


「えっと、ゲルマさん、本当にドラゴンと戦うつもりなんですか?」


ティアナの問いに、ゲルマは小さく肩をすくめた。


「戦わないぞ。ただ、巣に行って、ティアナが薬草を採ってくるだけだ。

ドラゴンと戦うならもう少し準備しないと」

「え?」


その言葉に、ティアナは首を傾げた。


「それって、本当に安全なんですか?」

「たぶん、安全なんじゃないか?

俺が先に巣に行って、留守かどうか確かめるから、呼んだら来て薬草を採ってくれ。

俺にはどの草かわからない」


蹄の音が続く中、森はますます深く静かになり、周囲の景色が不気味なほど陰鬱な雰囲気を帯びてきた。

巨大な木々の間に開けた空間があり、そこには信じられないほど大きな足跡が点々と残されていた。

さらに進むと崖に開いた大きな洞窟が見える。ついにドラゴンの巣に到達した。


「…本当に、ここにドラゴンが住んでるんですね」


ティアナは小さな声で呟いたが、その声は震えていた。

周辺は獣臭さとは違う、なんとも表現がしにくい匂いが漂っている。

臭くはないが、なにか本能に恐怖を与える匂いだ。


「ちょっとここで待っててくれ」

「え、私、一人でここに?」


ティアナは驚きに目を見開いたが、ゲルマは状況を説明しながら、慣れた手つきで馬の手綱(たずな)を木に結ぶ。


「大丈夫。この周辺はドラゴンが怖くて他の獣は来ないし、こんなにいい天気のこの時間、家主は、たぶんお出かけ中だ」


そこまで真面目に話していたが、ちょっと考えた後に言う。


「もし、お昼寝していたら、さっさと退散しよう。

きっと寝起きは機嫌が悪い」


真面目な顔でそう言いながら、目が笑っている。

ゲルマは何でもないように巣の方へと歩き始め、松明を付けて、洞窟に入り奥の方まで確認する。


(良かった。卵も子供もない。

さすがに子持ちのドラゴンとはいろんな意味でやりあいたくないし、すぐに帰ってくるはずだからな)


入口へ戻り、ティアナを呼ぶ。


「ティアナ、大丈夫だ。さっさと薬草採って退散しよう。

俺には薬草は判らないから中に入って採ってきてくれ」


居ないと分かっていても竜の巣である。

かなり躊躇し(こわがり)ながら、ティアナが巣に入り、目的の薬草を採取している。


「あ、こんなのも生えてる!」


それでもしばらく経つと大丈夫と思ったのか、普段の調子に戻り、他に生えていた貴重な薬草を見つけている。

無事に薬草採取が終わった高揚感からかティアナが終始ご機嫌だ。

採取が終わって巣から出てきたあともなにか見つけたみたいで声を上げていた。


「さっきは気が付きませんでしたが、巣の周りに生えてるのって”竜足茨”ですよね?」

「いや、俺にはわからないが・・・」


薬草を採り依頼も済んでノンビリした帰り道、もうお昼は過ぎている。

ゲルマが聞こえない程の小声でふと漏らす。


「さすがに腹が減ったな」


それを聞きつけたティアナがゲルマに声を掛けた。


「あ、すみません。どこかで休めるところありませんか?」

「ん?ああ」


何も訊かずに道程の少し開けた安全な草原で休憩にする。

ティアナの馬も木に繋ぎながら声を掛ける。


「ここなら、まぁ、大丈夫か。

どこか行くなら、あまり離れるなよ」

「?、どこにも行かないですよ」


馬を降りた彼女の手に包みを持っていることに気づく。

布で包まれたそれを差し出しながらティアナは続けた。


「それより、これ、手作りのパンなんですけど、よかったらどうぞ」


ティアナの言葉に、ゲルマは目を丸くし、それから少し照れたように口元を緩めた。


「お」

「まさか、今日依頼でこんなとこに来るなんて思ってなかったので量は少ないですが・・・」

「いや、ありがたい。ていうか、行きで話してるとき黙ってたのはなんでだ?」

「ちょっとおどかそうと思って。

びっくりしました?」

「ああ、帰るまで何もないと思ってたからな」

「ちょっとした保存食なら作れるんです。

簡単な干し肉とかパンなら、これまでもPTの依頼受けた時とかは作って持って行ってましたし」


草原でのんびり食事を始める様子はまるでピクニックだ。

ゲルマがバンと干し肉をかじって口の中が乾いてきた時、ティアナは水筒を差し出してきた。


「おいしいですか?」


ティアナは少し心配そうに尋ねる。


「これはうまい。

ティアナもちゃんと食べろよ」

「ありがとうございます。

よかった。少しでも役に立てて」


ティアナはその反応に安心したように微笑む。


「何を言っている。この依頼はほとんどティアナがこなしてるだろ。

俺はただついてきただけだ」


そう言った後、ゲルマはティアナから目を逸らす。

彼女は少し考えながら、軽く顔を赤らめ照れくさそうに言った。


「ほんとうにありがとうございます」


ギルドに帰り、依頼されていた薬草を提出すると今までの依頼ではもらえなかった額の報酬が渡された。


「じゃあ、これがティアナの分だな」


報酬を半分にされた量、金貨1枚が渡される。

ティアナは受け取った金貨の重みを手のひらで確かめながら、ふとゲルマを見上げた。

今まで報酬で金貨をもらったのは、前回のスライムに襲われた依頼だけだ。


「ゲルマさん、今回の報酬…」

「ん?足りないか?

ドラゴンと対峙することを考えると少ないかもしれないが・・・」

「いえ、私がほとんど何もできなかったのに、こんなにもらっていいんですか?」


ティアナが手にした報酬は贅沢しなければ一ヶ月は食つなげる。


「俺も同額貰ってるから、いいんじゃないか?

俺に言わせれば、俺はただ森に行っただけでこんなに貰って悪いなって感じだ」


ゲルマの言葉に、ティアナは少し口ごもる。

彼の言ったことには嘘や遠慮が感じられない。


「でも…」

「PT組めば、分け前は基本等分だ。

依頼によって、どうしても得手不得手で頑張らないといけない時もあれば、何もしない時もある。

気になるなら、次の依頼もティアナがメインの依頼にして頑張るんだな。

それより、これからどうする?少し早いが晩飯でも食いに行くか?」


ゲルマの提案に、ティアナは少し驚いたように目を丸くした。


「えっと…いいんですか?」

「いいも何も腹が減っただけだ。

それに、今日の稼ぎもあるし、少しぐらい贅沢してもバチは当たらないだろ?」


ゲルマが苦笑いを浮かべながら肩をすくめると、ティアナもつられて笑った。


近くの食堂に入ると、木の温かみを感じる内装と、香ばしい匂いが二人を迎えた。

ゲルマは慣れた感じで席を選び、ティアナが座るのを待ってから向かいに腰を下ろす。


「好きなもの頼めよ。ここは安いし、量も多いからな

ちなみにここの払いは別々な」


そう言いながら、ゲルマはメニューを手に取り、適当に指差した。


「俺はこれとこれにする。ティアナは?」

「えっと…じゃあ、これにします」


ティアナは少し悩んだ末、サラダとスープのセットを指差した。


「そんなもので足りるのか?

もっと頼んでも大丈夫なくらい稼いだだろう?」

「そうですか?

・・・なら少し増やします」


やがて料理が運ばれてくると、テーブルは豊かな香りと湯気で満たされた。


「うまそうだな。さっそく食うぞ!」


ゲルマは豪快に肉の塊にかぶりつき、満足そうに頷く。


「うめい」


それを見たティアナは小さく笑いながら、スープを一口すする。


「ゲルマさん、本当に美味しそうに食べますね」

「当たり前だろ。飯はうまい方がいいに決まってる。

それにしても、ティアナは上品に食うな」

「そうですか?普通だと思いますけど…」


彼女が控えめに微笑むと、ゲルマは少し照れくさそうに視線を逸らした。

しばらくして、ティアナがポツリと口を開く。


「こうやって落ち着いて食事をするの、久しぶりかもしれません」

「そうなのか?」


いつもティアナがPTで夕食を食べるときは落ち着くことができないくらい話しかけられていた。

食べることに熱中しているゲルマと一緒だと周りを気にしないで食べられる。

ゲルマは空になった皿を眺めながら、もう一品頼もうかと考えている様子だ。


食事も終わり、帰路につく。

やがて二人は分かれ道に差し掛かる。ティアナが住む宿屋と、ゲルマが向かう自宅は別方向だ。

彼女は一礼して、軽く手を振った。


「それじゃあ、また明日!」

「おう、またな。」


ゲルマは立ち止まって彼女が小さな背中を灯りに消えていくのを見届けると、ふっと息をついて夜道を歩き出した。



やっと少し復活しましたw

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