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13.見えない糸(side T)

ティアナは彼に会えると聞いた早朝と夕方の時間にギルドを訪れていた。

最初の頃は、扉を開ける前に胸が高鳴り、会ったら何を言おうかと、頭の中で何度もシミュレーションをしていたが、繰り返すにつれて、その緊張感も少しずつ薄れていった。

今では扉を開けるときの期待感も薄れ、空振りの続く現実が彼女の心に静かに重くのしかかっている。


(セレシアさんの話を聞いたときは、すぐ会えると思っていたのに・・・)


期待して毎日ギルドに足を運ぶたびに、彼の姿を探しては落胆し、その度に失望感が募っていった。

そして、もう一度森の奥に行ってみようと考えては躊躇していた。

会えない日が続くにつれて、次に会うときには彼と一緒にいられるようにしたいという思いが、自然と心に強く根付いていく。


その間も、彼女は生活を支えるために、近場の薬草採取や軽作業の依頼を受けていた。

彼の金貨に手を付ければ生活が楽になるのは明らかだったが、それをするともう二度と彼に会う資格がなくなるような気がして、どんなに生活が厳しくても絶対に使わないと固く決意していた。

彼女の心はいつもどこかで、彼との再会を考えていた。


「今日も会えなかった。

どうして彼に会えないのだろう・・・」


肩を落とし、しばらくぼんやりとギルドの床を見つめる。

冒険者組合(ギルド)の受付のお姉さんが珍しく窓口を離れ、ティアナの元まできて話しかけてきた。


「あのー、ティアナさん」

「はい?」

「これを渡すように頼まれたので、お渡しします」


そう言って差し出されたのは、どこか見覚えのある少し汚れた財布だ。

ティアナは受け取り、しばらく袋を見つめた後、はっと思い出し驚いた。


(あ!薬草を採りに行ったとき、落としたやつだ)

「これ!、誰が頼んだんですか?」


思わず大きな声で訊いてしまったが、その答えはすでに分かっている。


「すみません。それは言えないんです」

「え・・・」

「すみません」


ティアナは財布を手に取り、少し躊躇しながらゆっくりと袋を開ける。


(もしかすると連絡先とか入っているかもしれない・・・)


すべて落とした時のまま、そのまま入っていた。

何も変わっていない。

ただ中まで水が染み込んでいて、かぎなれた森の匂いがして、長い間森の中にあったことがうかがえる。


(でも…どうして?)


なぜ誰が拾ったのかを隠すように口止めしたのか。

なぜ直接渡してくれなかったのだろう。

次々と疑問が頭の中を駆け巡り、財布を握りしめる。


たしか、別れる前に落としたと言った気がする。

あの時、彼は興味なさそうだったのに。


(・・・まさか、あれからずっと探してくれていたの?)


もし、そうだとしたら、彼は今でも自分のことを気にかけてくれているのかもしれない。

きっとまた会える。そう思うと、嬉しさがこみ上げてきた。


「あ、あの、他になにか伝言とか何か・・・」

「すみません、お渡しするように言われただけで、それ以外は何も…」


受付のお姉さんは再び申し訳なさそうに微笑んだ。

ティアナはその言葉に少しがっかりしつつも、受付のお姉さんの微笑みがどこか遠慮がちで、言いたくても言えないことがあるように見えた。


ティアナのがっかりした表情に気づいた受付のお姉さんは少し目を伏せ、唇をかんだ。

やがて『しょうがない』というように、首を横に振り、少し困ったように視線を逸らしながら、ティアナに優しく語りかけた。


「でも、きっと心配しなくてもいいと思いますよ」

「え・・・」


優しい声色で、その言葉だけを残していつもの窓口へと戻っていった。

ティアナはその姿を見送りながら、ますます疑問が募るのを感じた。

彼が私を避けているんじゃないか、そんな不安が一瞬胸をよぎったが、それは認めたくなかった。

きっと彼なりの理由があるのだと信じたかった。


もしかして、忙しくて会えなかっただけかも…

もしかして、私を見つけられなかったのかも…


ティアナは、受付嬢が窓口に戻っていることに気がつく。

もう何を聞いても、これ以上の答えは返ってこないと感じる。

彼への疑問は消えないままでティアナは深い溜息をついた。


「次に彼に会ったときは、ちゃんと聞こう…」


そう心に決め、ティアナは汚れてしまっている財布をしっかりと握りしめた。

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