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第四話


「で。どう言う魔獣だ?」


「えっと……それより魔石を使わないって……」


 好奇心豊かだなと思いながらアンジュがメガネを正すようにゴーグルの縁を押さえた。

 迦楼羅(かるら)はそのゴーグルの向こうで光るキラキラな目を見てしまった。

 それを見なかったことにしてバツが悪そうに仮面を背ける。


 アンジュの依頼を詳しく聞かなかったので樹海に入ってもどうしたらいいか分からず仕方なく彼女の気になっていることを伝えた。


「はあ……、昔力を求めるものや適性のあるもの、国を失ったものなんかを集めた騎士団をつくった……聖蛾教会というものがあったんだ。浮遊石の上に本部を構えていた」


「あ、習いました! 確か二百年前くらいにあった教団ですよね? 世界中の魔石を管理統制していた、でも『聖竜大戦』で竜からの大打撃を受けて、解体したと聞いてますが……」


「ああ、ほぼいなくなった。ほぼ解体したと言っていい。ただまだ騎士たちは残っていてな。それがぼくらだ」


「ふむふむ。……えっと、力を求めたり適性があるものがどうやって?」


「魔石の粉末、魔物の肉、もっと昔は獣人を食らってその魔力を体内に取り込んでいたと、聞いた」


「え?! では、カルラ君も……?」


「ぼくはまた違う」


「?? しかし、魔石を……?」


「そいつらは砕いて、お薬みたいに飲んでいたらしい」


「な、なるほど。でも聖蛾教会なんでしょう? では、今戦場にいるのは?!」


「そうだ。一応第六から八の師団長だな。元になるのか?」


「その方たちも、魔石を?」


「さあ? 魔法使う時とか怒った時とか、脈が光るからそれでわかるけど……、まじまじと見ないから……。通り名を聞くともしかしたら魔族のものもいるんじゃないか?」


「魔族???!!」


 キラキラ輝くアンジュ。


 もう説明の終わりが見えたなと思っていた迦楼羅。つい口を滑らせ、アンジュの好奇心を刺激した。


 ここぞとばかりに「魔族は大昔の人魔大戦よりももっと昔に滅んで……!! まだ魔石のない時魔王もいたとか!!」と質問か独り言か分からないので反応に困る迦楼羅。


 とうとうちょうどいい根っこの部分に座り始めて、メモまで取ろうとするアンジュ。


 迦楼羅の方はさっさと終わらせたいので、つられて座ることはなかった。


 態度で示そうと、腕を組んで「はぁ……」とため息をつく。

 仮面越しだから聞こえないだろうし、仕方ないと話し始めた。

 

「そうだな。これは…………主である火竜様に聞いたから多分合ってるから。どの文献より有用。

 もっとずっと昔。

 まだ教会が崇拝している『聖女様』がいた時代。四千ほど前。魔族が徘徊。今以上に獣人も見かけたらしい。で、その時、『聖女様』が助けた者がまだいるとか。

 十字軍にいるかはぼくも知らないだから、これは噂だ。

 そのあと、二千年くらいから『人魔大戦』……獣人たちと人間でも争いがあったらしい。

 多分この時のもののほうが、多いんじゃないかな? 戦力増強とかあっただろうし、人体実験とかもあったはず。


 ……。

 …………これで満足?」


「ほあああ……! 捗りますねぇ! やっぱり、私にもご先祖様の血が流れている、そう言うことでしょうか?!」


 腕をわきわきして興奮するアンジュを他所に、それに驚きたじたじになる。


「そ、それはわからないけど、満足したならさっさと……」


「まだまだ聞き足りませんが…………!!?」


「だめだ」


「うーー。あの、カルラ君、お知り合いの方の二つ名を、是非」


「…………今向こうにいるもの、『星焔の天荒姫(メドゥーサ)』『炎燼の人魚』『モロクの奴隷』だったかな。話しかしてない。依頼……」


「も、もう一つ!! カルラ君は?」


「霈焔の金翅鳥?」


「わぁ! 鳥さんなのですね! 金。先ほどの美しい、あの煌びやかな力から名を取っているのですね!」


「……ぅ……、うん」


 綺麗だと褒められたことがなかったのでむず痒くなる。それを振り払うかの様に詰めて言う。


「い・ら・い」


 そう言いながら頬を掻いている仕草をする。今は意味なく仮面を掻いていた。


 アンジュは律儀にメモを取っていた。


 また学園に帰ったら、図書館通い。もし可能なら彼の軍を見学できないだろうかと思いながら。

 

 それを横目に迦楼羅はソラスを見かけないとキョロキョロしていた。行く前にギルドで見た依頼に不安を募らせていた。


「何もなければ良いが……」


 迦楼羅が呟いた。

 ソラスのことが気になっていた。

 しかし今はアンジュのお手伝いと、被りを振る。


 アンジュはどうしたんだろう、と思いながらゴーグルを触る。

 

「また今度お願いしますね?」


 やっと立ち上がるアンジュ。

 流石に申し訳なくなったのか、若干俯きながらゴーグルを触りやっと説明し出す。


「……で、依頼なんですが、文字って読めます? 一応依頼書があるんです」


「わからない」


「分かりました。じゃあ口頭で。魔獣を倒すもので猫のようなしかしムササビのような……すばしっこい魔獣で、樹海近くの畑など農作物を食い散らかしているそうです。

 実はこの樹海に来るまえ……カルラ君と会う前々日ですね。まず、被害にあった畑に行ったんです。確かに野菜とか食われていましたね。あと、実際数匹狩りはしたんですが、次の日また被害があったようで、結構多いようです」


 一通り説明を聞いて、迦楼羅は顔を傾けて尋ねた。


「……わかった。で、なんで一人でしてるの?」


「え゛?! そ、それは…………、あそこに小さな図書館、本を読める場所があって、風土のこととか見てたらみんな先に先に行ってしまい、その、完全に私の落ち度です」

 

 迦楼羅はアンジュが言ったその言葉と依頼にどう影響するかよく分からなかった。


 そのまま首を傾ける。

 昔から迦楼羅も自由きままで一人で戦況を変える力も持ち合わせている。その戦いの中で出会ったパーティというものが何なのかは知っていた。それぞれの役割があり、上手く噛み合ったパーティには苦汁を嘗めた。

 

 だからアンジュに何故それがいないのか不思議だった。


 アンジュも何故迦楼羅が首を傾げているか察した。

 伝えるか迷っていると、葉っぱがおちてきた。


 昨日の出来事を思い出して怯むアンジュ。

 咄嗟にナイフを取り出そうとした。


 上を見上げる。

 昨日見た綺麗な黄色と黄緑の美しい鱗を波打たせながら大樹と大樹の間を泳いでいた。


 アンジュはホッとしてナイフを収める。

 ソラスのことを気にかけていた迦楼羅が安堵して呼んだ。


「ソラス!!」


「昨日の蛇さん」

 はしゃぐアンジュ。


「正確には竜だ……」


「竜……初めてみました」


 アンジュたち今の世代、彼らを見る事は稀。

 それ以前は、国の礎や神話……神のような扱いだった。

 しかし、必要ないのではないか。

 人に未来を託したいと言う想いもあったという。


 今はソラスのように自然地域を守護している竜や群れとして過ごしていた竜。

 そして迦楼羅の故郷、火竜が生存していた。


 ふとアンジュは様々な竜が空を謳歌する空想を広げる。


 先程から傾聴しすぎてその余韻もまだあり知識欲モリモリなアンジュ。

 首を振って想像をかき消す。


 そしてちゃんと説明してくれる迦楼羅に心の中で感謝しながらそれをまた聞いた。

 

「超音波とかがあって、遠くからでも仲間がいるってことがわかるみたいなんだ。……ただ、いなくなって、寂しいから頼まれた。仲間のいる元に連れて行ってくれと」


 綺麗な琥珀色の瞳。

 この樹海を守護しているであろう竜を撫でる迦楼羅の背中しか彼女からは見えないけれど悲しいのが伝わってきた。

 アンジュも悲しくなった。


 それと同時に火傷すると散々言っておきながら撫でるのか。

 アンジュは密かに拗ねた。


「ぼくに懐くのは……多分属性だろう。ソラスが草だとしたらぼくは炎。さっくり殺し(やっ)てくれそうだからだよ」


「そ、そんな事……」


「いや、否定できない。

 実際、ぼくら半永久的な不老だけど、上司が不死でね。……あの人の属性は氷。今いる団の隊長ってみんなぼく含めて炎なんだ」


「……その方に会ってみたいです」


「もうぼくらが頑張らなきゃ、天気も悪くなるから……やめたほうがいい」


「悲しいですね」


「だから、もし上司の目標達成したら優しく殺そうってみんなで話してる」


 それは、と言おうとしてやめた。

 やっぱり会ってみたいと言う思いといっそ依頼ほっぽり出して迦楼羅の話だけ聞いていたいという知識欲が強くなってしまった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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