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第二話



 桃と青の薄明の焼け空(ヴィーナスベルト)

 ゆるい縦巻きの髪が羊雲と共に照らされる。

 空色の瞳にお人形の様に可愛らしい顔を銀の仮面で覆う。羽や花を模したそれに銀の甲冑に身を包んだ姿は戦少女。

 彼女の名はナサル。


 こうして身支度をしながら想うは、他人の事。

 昨日ギルドに寄り、戦々恐々として行った女の子はどうだったろうか。

 学園の生徒が課外授業で小遣い稼ぎやスキルアップのため右往左往し助言を求められたが、どうだったろうか。

 また、よく会うギルドメンバー面々の顔が思い浮かんでは消えて行く。


 誰も彼もいつの間にかいなくなっていることがある。

 瞑想のように朝の日課となってしまい、毎度朝から重々しくはあるが、己を叱咤する為にも思いを馳せていた。

 そうして「よし」と自分の寝床から出る。


 背には深緑の海。

 見上げても葉っぱの一枚一枚は判別できないほどに高く聳え立つ。それらが荘厳に或いは見下ろすかのように立っている。その存在感からそろそろ魔物として動きだすのではと常々思っていた。

 普段はここまで地面まで光が差すことはないが、今目の前は大木が横たわっていた。

 そのため、このように気持ち良い朝日を拝められていた。

 

 ここは戦場。

 通常ただギルドの依頼を受けるだけなら来ることはなかった。

 というのも、依頼自体がこの戦場の将軍からあったからだ。稀有なこともあると思いながら仲間とその将軍がいる天幕に向かう。


 ちょうど依頼主の元に行く道すがら、パーティのタンク役であるヴォルカという男が腕を上げるのみの挨拶をして、すれ違う。

 彼女はヴォルカがヘイトを買ってくれるおかげで何度も窮地を助けられ、又動きやすく信頼していた。ただこの通り挨拶さえ無言、戦いの中でさえ目で訴えられるので舌を巻いていた。

 ヴォルカの他にも救護班の双子、ミカとルチル。

 同じく前中戦の危なかしい女騎士、ガヴィー。

 そして己の妹、イヴ。

 彼らは『エンジェルズ』というパーティの名で一躍有名になっている。


 どの者も欠点はあれど、それに見合った能力を持っていてナサルも彼らをいかすために上位のギルドランクになっても身を引き締めていた。




 仲間を想いながらもこの依頼について考える。


 ーー一体何の為に。

 今回の依頼、まさかわざわざ貰ってギルドに渡しに行くとは。おかしな依頼だな。

 ……まあこの場を見て一目瞭然ってところか。


 そうして周りの兵士たちに不審がられない程度に見渡す。

大樹の織りなすこの地。


 戦地となるであろう目の前は大木が折り重なっていて、その遠くに時折煌めく綺羅星。

 ぞわりと背筋が凍る。

 あれが敵。

 まるで魔物。

 過去に魔石を自らの身体に埋め込み、魔法を使う者たちがいた。今は竜から魔石を奉戴して人々の暮らしを支えてくれている。

 

 きっと対面のアレは難敵だ……と様々に頭を巡らせる。そうしているとちょうど丘となっている場に敷いているその軍の司令部の天幕まで辿り着いた。


「ふう」一呼吸おく。


 この垂れ幕の向こうの主には既にこの緊張さえ手取られている気がした。ギルドマスターとは違う緊張を胸に「失礼」と断って入る。



 奥一人だけ座っている司令官。

 天蓋から差し込む光がちょうどスポットライトのように照らされていた。己とまた別の死地を知っている目。

 彼らのその武人特有の威圧にゴクリと生唾を飲み込む。


「遅れました」


 マントの片方を摘まんでカーテンシーまがいの挨拶をする。ひらりと


「いやいやこちらこそすまんね」


 上座に座る司令官が答える。

 司令官が「早速だが」と着席を促して説明を始める。


金翅鳥(こんじちょう)討伐でしたよね」


「ああ。まずこの戦いに関しての説明をしておいたほうが良いかな?」


 司令官は陣や作戦はうまくぼかしつつ説明していく。

 王国対帝国である。

 しかし思想のほうが関係していること。

 思想とは竜信仰に近いもの。

 数百年前。国の歴史、建国に竜がいた。現在は殆どが争いの中亡くなった。中には魔石の為狩られる眷属を守ったとも考えられていた。

 未だに生存してはおり、その少数を守護信仰している中に帝国もいた。


 その為か正規の帝国軍ではない。

 傭兵扱いの部隊らしい。

 それが逆に厄介なようで、エサルやこの王国軍世界で出回っている『魔道具』は使用していないという。


「……そう言うことで相手が正規で攻めないなら、こちらもその筋に詳しい専門家に討ってもらおうと思ってな」


「なるほど。だからこの辺りのギルドに各地の竜の討伐依頼があったんですか。」


 緊張した面持ちでパーティのリーダーらしく聞いていく。

 ここにいない他のパーティメンバーを極力危険に晒さない作戦を立てる為にも。


「そしてまだこの大樹の森にもいるのだ。竜が。

 我が国も本心は語らないが、実のところ領土も魔石も欲しいのだろう。だから今回名目上では整地の役割として、この軍が派遣された」


「整地。つまり元々対人間ではなくこの魔獣魔物を一掃、大樹の一部を領地としていくつもりだったのですね」


「ああ、そうだ。それをどこからか嗅ぎつけた帝国や火竜が動いた結果あの軍が湧いてきたのだ」


「なるほど」


「君たちにしてもらうのは、金翅鳥を討伐することだ。無論止めるだけでもいい」


 その間にも司令官は依頼書など書類を書いていた。

 漸く依頼内容が出たが、既に答えは決まっていたナサル。


「さ。依頼を受けて貰えるのならば、これを」


 更に聞くところによると、その金翅鳥は裏方で動き、あちら側の軍のため環境を整えているのだろう。丁度依頼を受ける自分と同じ仕事かと思う。


「もちろん。引き受けさせていただきます」












 東雲(しののめ)の空の下。

 迦楼羅(かるら)は大樹の頂に登っていた。

 深碧(しんぺき)の海原を泳ぐようにそれを仰ぎ見、目を瞑り木の葉の潮騒の音を聞く。 


 しばらくしてから下――地平線を見る。

 昨日アンジュという女の子を送った街とは真逆の地。手前だけ樹木が倒され開けた土地となっている。しかしその倒れた大木を超えるのも岩一つ超えるくらい大変に見えた。


 少し丘になっているところ。その辺りに黒々とした軍団が見えた。そしてまた深緑の海が広がっていた。

 それらを一望する。


「はあ……まずは色々教わってぼくらの依頼書抜かないとな」


 アンジュという少女には申し訳ないが今回のために色々と利用させてもらおうと思った。

 朝陽が見えたと同時にその陽に溶けるようにいなくなった。

 


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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