プロローグ
朝は美少女な妹にお兄ちゃーん? とか言って起こされてみたいものだが、残念無念俺に可愛い妹も出来すぎる弟もパシる姉も頼りになる兄もいない。ついでに母もいない。
肉親は父だけで、じいちゃんばあちゃんも俺が産まれる前に死んだらしい。父は仕事一筋で俺が寝てから帰ってくるし、俺が起きる前に家を出る。家事は全部俺がしてる。
家事スキルは相当なものだろう。
明らかに過労気味な父を支えてきた自負がある。いつか過労かビルから飛び降り自殺しても驚かない。過労死の報道があるたびヒヤヒヤさせないで欲しい。
「アンタなんか産むんじゃなかったッ!」
隣の家から、正確には幼馴染の緋色の家から叫び声と共に恐らく酒瓶が割れる音が聞こえた。
あ、ヤバい。
「おばさーん、おはようございます」
危なかった危機一髪だった。
俺が階段を駆け降りパジャマ姿で声をかけると、おばさんは緋色に振り下ろそうとしていた酒瓶を背中に隠した。
緋色の額からはダラダラ血が流れており、先程の酒瓶が割れる音はおばさんが緋色の頭を酒瓶で殴った音らしい。
全然間に合ってないわコレ。駄目じゃん。
「あらあ、ユギちゃんじゃない。今から朝ご飯なの、一緒に食べる?」
俺を見てニコニコ笑うおばさん——もとい緋色のお母さん。なお緋色を見る目は笑っていない。怖い。
「はい、喜んで!! 嬉しいなぁ。おばさんと一緒にご飯食べれるなんてぇ!」
「じゃあ準備するから、上がりなさい」
おばさんは庭から玄関の方に行ってしまった。
緋色はおばさんが居なくなってから自分の髪を手で掬ってガラスを地面に落としていた。
「緋色、大丈夫かよ?」
大丈夫なわけない惨状である。
「あ、ああ。大丈夫、大丈夫だよ…」
よろよろと顔をあげる緋色は、顔面左半分に血が垂れていたが、俺を安心させるように笑顔だった。顔色は血を失ったせいか蒼白だ。
「うん、このくらい大丈夫。朝から鉄分補給できてるし、栄養価の高い朝ご飯じゃない。こんなにお腹いっぱいなのは久しぶりよ…おげええええ」
緋色は緋色は庭に胃液を吐くと、俺の顔を見て誤魔化すようにピースした。自分の血で鉄分補給とかどう考えてもマイナスだし、血が朝ご飯とかお前は吸血鬼かよ。
「…おう」
「ユギちゃぁん! ご飯できたわよぉ!」
「緋色、俺がおばさんの相手しとくからその間に服着替えろ。学校行くぞ」
☆
「助けてくれてありがとう。今回は本当に死ぬんじゃないかと思ったよ」
おばさんがご馳走してくれたのは食パンと硬めの卵焼きだった。できるだけ時間をかけて食べ、おばさんの話は全て適当に相槌を打った。耐えきれなくなったら話題変えたけど、何でも緋色の悪口に繋がるからあんまり意味はなかった。
「緋色、そろそろ先生か、児相に通報した方がいいよ。マジで」
「えー、駄目だよー? お母さんは大事にしないといけないんだよー」
緋色は切れた額をハンカチで押さえ、ニコニコ笑っている。
子供は大事にしないといけないんだよー?
なんだコレ。共依存? それとも母親の愛に飢えた子供的な?
「いやー、お母さんってこんな感じなんだねー。愛を感じるねー」
どこに酒瓶で殴られて愛を感じる子供がいるんだよ。あの女がお母さんなら俺でもお前のお母さんになれるわ。
「まあ緋色が悪いのは事実なんだよ」
「はぁ? お前もっと自分大事にしろよ。自己評価マリアナ海溝じゃねえか」
「私は十分客観的に見て緋色を評価している」
「いや、お前には見逃しているところがある!」
俺がそう言うと、緋色は訝しげに俺を見た。
「ふーん?」
「そのあふれんばかりの巨乳だ!!」
ピシッと緋色の胸を指す。
「…いや、怪人に誘惑とか効かないし…」
緋色は困惑気に言った。
「人間相手…特に俺相手には効くぞ?」
「なんだろ…ドヤ顔でいうことなのか?」
あれ、女子って見た目を褒めると喜ぶんじゃないの?
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